18話 決戦①
サングル渓谷。
荒凉とした大地が広がり、断崖は深いところで千メートルもある渓谷だ。
渓谷の幅六キロから三十キロ、長さも五百キロもある。
ギルドと王国側の冒険者や兵士達が集まった数、約千人。
「ディスティニィとシノンは大丈夫かな」
「何を心配するネ。あの二人なら問題無いヨ。それはアクアもよく知ってるはずネ」
心配する俺を元気付けようと、ヤオはニッと笑顔をしてくれた。
あと数十分もすれば、双龍がここに通過するらしい。
断崖の上にも既に兵士や冒険者達が配置されている。
「そうだな。あの二人を信じなきゃな」
「そうネ。こっちもあの二人に負けないようにするネ」
「だな」
まさかパーティを二手に分けられるとは、思わなかった。
飛翔能力を持つ紅龍には魔道士の大半の人員と据え置き式の大型弩砲、壁役の冒険者で対応する。
残った冒険者と王国軍とで蒼龍の討伐にあたる事が決まったのだ。
俺とヤオは後方から蒼龍に仕掛ける部隊に振り分けられていた。
「……アクア。振動が近づいてくるネ……そろそろ来るヨ」
俺には感じられない微弱な振動にヤオが気づいた。
ヤオの顔にも緊張の色が見える。
「リラックスしろよ、ヤオ」
ヤオは黙ったまま頷いた。
皆一様に緊張の面持ちで、双龍の登場を静かに待っていた。
そして……双龍の姿が目視できる距離まで来たところで開戦を告げるラッパが鳴った。
「かかれええ!」
指揮する兵士長の叫び声と同時に、兵士たちと冒険者が駆け出した。
俺たちが相手にする蒼龍は、氷の鱗を持つドラゴンだ。
飛翔能力は無く長い四本足で歩行し、体長は頭から尻尾まで三十メートルはある。
「俺たちもいくぞ、ヤオ!」
「あいナ!」
○
戦いは熾烈を極めた。
前方と後方からの波状攻撃を仕掛ける。
だが、戦闘開始から数分もしないうちに、半分以上の兵士や冒険者たちが戦闘不能に陥った。
しかし――
「てああああ!」
「うおおお!!」
さすがに残った連中なだけはある。
蒼龍の攻撃をかい潜り、確実に攻撃をヒットさせている。
そして、その中で一番目立っていたのは言うまで無く――
「あいナっ!」
ヤオだ。
軽やかな動きで蒼龍を翻弄し、見事にヒットアンドウェイを繰り返している。
その隙を突き、冒険者たちが蒼龍に攻撃を撃ち込んでいた。
だけど、他の冒険者たちの攻撃は蒼龍に致命傷を与えるまでとはいっていない。
「やっぱりあの氷の鱗が厄介みたいだな……」
ドラゴンの分厚い皮下脂肪と頑丈な鱗で守られている。
さらに氷の鱗が武器の刃先を氷結させて、攻撃を通りにくくしているんだ。
ヤオには事前に、炎を纏わせる事ができるグローブを渡していた。
だから唯一ヤオの攻撃だけが、蒼龍に効いているんだ。
「……でもヤオだけじゃジリ貧なのは間違いない。でもどうすればいいんだ……」
俺はある事に気づいた。
これなら蒼龍に勝てるかも知れない。
「なあ、あんたたちの武器を俺がドラゴンに通じるようにしてやるよ」
周りにいた冒険者や兵士たちが、変な顔をして俺をみた。
「貴様! こんなときになんの冗談を言ってるんだ!」
「ふざけてるのか!」
罵声はある程度覚悟していたが、大勢に言われるとキツイな。
でも、今はそんな事を気にしている場合じゃない。
「ふざけてなんかいないさ。今、蒼龍と戦っている子は、俺のパーティーの一員だ。あの子だけがドラゴンに攻撃が効いているだろ?」
「た……確かに言われてみれば」
「でも、あれはあの少女の戦闘能力が高いんじゃないのか……?」
「それだけじゃない。あの子には特別な武器を持たせているんだ。それと同じような武器を、今ここであんたたちに作ってやるって言ってるんだ」
ヤオがドラゴンの注意を引いている今、みんなを説得するしかない。
ヤオには悪いが、もう少し時間稼ぎをしてくれ。
「今は時間が惜しい! 頼む、俺を信じてくれ!」
全員、互いに顔を見合わせている。
いきなり突拍子のない、与太話を信じろって言うのは難しいだろう。
「頼む! 絶対にあんた達の力になってみせるから、信じてくれ!」
俺は思いっきり頭を下げ続けた。
「……確か、あんた達だったよな。クラーケンを倒したのって」
「え……ああ。確かに俺たちパーティーが倒したけど……」
前にいた髭面の中年冒険者の問いに、俺は顔を上げて答えた。
「は? こいつがクラーケンをか?」
「……マジかよ」
「あの少女の強さも本当にこいつが……?」
この場の空気の流れが変わったのを、俺は見逃さなかった。
「ちょっと剣を貸して貰えますか?」
「……構わんが、どうする気だ?」
「――こうするんですよ」
俺は怪訝そうにする連中の前で、髭面の冒険者から借りた鋼の剣をアダマンタイトの剣に変換させて見せた。
銀色の刀が漆黒の刃へと変わった瞬間。
その場にいた連中から驚きの声があがった。
「今、この剣はアダマンタイトに変換させました。さ、どうぞ」
「……ふむ。この手触りは確かにアダマンタイトだ。あんたはいったい何をしたんだ?」
「そんな事は今はどうでもいいでしょ。とにかく、それならドラゴンに通じるはずですよ」
「そうだな……今はドラゴンが最優先だったな。それに俺より若い奴に任せているばかりじゃ、ベテランとして格好がつかないからな!」
中年の髭面冒険者はそう言うと、蒼龍に向かって走り出して行った。
「お、俺の剣もアダマンタイトにしてくれ!」
「おれのはミスリルに変えろ!」
「オレのも頼む!」
俺は次々と冒険者や兵士たちの武器を、ドラゴンに対抗できる武器へと変換させていった。
それぞれその武器を手にして、ドラゴンに仕掛けていく。
百人ほどの武器を変換し終えた俺の前に、リノアとハンズが立っていた。
「アクア。あなたそんな力、どこで手に入れたの?」
「……どうするんだ、二人は。他の連中みたいに武器を変換させるのか?」
リノアは黙ったまま、首を横に振った。
「いや、お前の力など借りなくても、ドラゴン如き倒してやる。行くぞ、リノア!」
ハンズは俺の申し出を断って、リノアと蒼龍に向かった走り出していた。
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