17話 作戦会議
ごった返す部屋の一番前に、このギルド長であるダンさんが立っているのが見える。
「まず最初に、皆が集まってくれた事に感謝する!」
低い地声でダンさんがそう言うと、集まった冒険者たちに向かって頭を下げた。
「皆も、ガルファ山脈に双龍が出現したのは下の受付で聞いていると思う。調査隊の報告じゃ、今この街にむかって進んでいるとの事だ。むろん、王都にもこの事態は伝わっている」
ダンさんは壁に貼り付けた、この国の地図にある一点を激しく叩いた。
「当ギルドは王都のギルドや軍団と協力し、サングル渓谷で二体同時に叩く! 皆の肩にこの街の命運がかかっている!」
ダンさんの言葉に、その場にいた冒険者達がざわついた。
一体でも倒すのが面倒なドラゴン。
相手は伝説級のドラゴンを、しかも二体同時に倒すのは至難の業だ。
そりゃ動揺するに決まっている。
だけど、これを食い止めないと俺たちどころか、街や王都までもが全滅するのも事実。
全力でドラゴンを討伐しない非常にまずい。
「討伐隊の編成は、ギルドで選考する。明日の明朝にまたこの場に集まってくれ!」
そう言ってダンさんは部屋を後にした。
そのあと、ダンさんに代わって受付嬢が細かい説明をしてくれた。
討伐隊は四組に分けるそうだ。
さらに王都側が加われば、討伐隊はさらに増える。
それだけ大人数になれば、連携も難しくなるんだよな。
「ねえ、アクア様……わたしたちはどっちのドラゴンになるんでしょうね?」
紅龍の飛翔能力を考えれば魔道士や飛び道具が得意なパーティ中心になりそうだ。
蒼龍は飛翔能力が無いから近接戦が主体になるだろう。
「どちらになろうが、俺たちは俺たちで出来る事をすれば良いさ」
「そうネ。どっちが相手だろうと、アタシたちなら問題無いネ」
「ヤオの言う通りだ。私たちは全力で敵を叩く事だけを考えようじゃないか」
三人が本当に逞しくなってくれたのは嬉しい。
この三人なら問題無くドラゴンを相手にできるだろうが……
俺には不安材料が残ったまま、作戦会議は終了した。
次々に部屋を出て行く中、俺は一組のパーティと目があってしまった。
「……リノア」
彼女は俺に一瞬目を合わせたが、すぐに視線を逸らして部屋を後にした。
それに続いて、ハンズと新しく入ったメンバーの男も出て行く。
「あっれぇ? アクア、あんた新しいパーティ組めたんだぁ?」
他の三人と違って、ニヤニヤした顔でハーディーが俺の近くに寄ってきた。
「ふぅん……あんたとパーティを組むなんて、とんだ物好きもいたのねぇ」
「……なんの用だよ、ハーディー?」
「はあ? あんたとパーティを組んだ連中を見にきたに決まってんでしょ? あんたなんかに用は無いってーの!」
そう言うと、ハーディーは品定めするように、三人の周りをグルっと一周する。
「……ふぅん。確か、壁役にもなれない聖騎士シノンと、運動神経がほとんど無い武闘家ヤオ。
それと、フォンブラウン家始まって以来の落ちこぼれディスティニィだっけ? あんた達みたいな有名人と無能とパーティを組むなんて滑稽よね! きゃははは!」
「おい、そんな言い方は無いだろう! 彼女たちに謝れ、ハーディー!」
思わず俺はハーディーの肩をぐっと掴んだ。
「な、何よ。そんな怖い顔して……そんな顔したって、あたしは――」
「俺の事はいくら無能と呼ばれても構わない。けど、彼女たちの事を悪く言うのだけは、絶対に許す訳にはいかないな」
「ちょっと! 痛いんだけど! 離しなさいよ、無能錬金術師!」
俺の指がハーディーの肩に強く食い込む。
ハーディーの顔がだんだん苦痛に歪んでいく。
「――辞めなさい」
いつの間にか、部屋の中にはリノアの姿があった。
彼女が俺の腕を掴んで、キッと睨んだ。
「アクア、もう離してあげて」
睨むリノアの目に、俺は思わず怯んで指の力を抜いてしまった。
「行くわよ、ハーディー」
「覚えときなさいよ、この無能!」
最後まで謝る事もしないで、ハーディーはリノアと一緒に部屋を後にした。
「ずいぶんと感じの悪い連中だな。あれが君の前にいたパーティか」
不愉快そうにしたシノンが、リノア達が出て行った方向をまだ睨みつけている。
「アクアはあんたパーティ抜けて正解ネ。絶対アタシたちといる方が幸せヨ」
シノンや俺を和ませるように、ヤオが満面の笑顔をしてみせた。
その笑顔を見て、シノンは嫌な気分が抜けたような表情を浮かべている。
「ねえ、アクア様。わたしたちもそろそろ帰りましょう。もうお昼すぎちゃってますから、お腹減っちゃいました」
他の冒険者達の姿はなく、部屋の中にはもう俺たちしか居なかった。
「……そうだな。とりあえず飯を食って嫌な気分を忘れて、明日の討伐に向けて、俺たちの作戦会議だな」
「はい、そうしましょうそうしましょう!」
「そうとなれば早く行くネ! アタシのお腹も限界ネ!」
「ああ、待ちなさいあなたたち! そんなに走ったら危ないぞ!」
走っていく二人を、シノンが保護者のようにして追いかけて部屋を出て行ってしまった。
明日は伝説のドラゴンを倒すって言うのに、彼女たちはリラックスしすぎている。
もっと緊張感を持って欲しいとは思うが、あれくらいが丁度いいのかもしれないな。
食堂で明日の作戦会議を終わらせると、俺たちは解散した。
そして翌日。
双龍討伐隊の編成がギルドから発表があった。
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