11話 彼女たちへのギフト
目を覚ましたとき、既に太陽は空の真ん中にあった。
三人に約束した時間は朝なんだが、大遅刻もいいところだ。
俺は慌てて部屋を飛び出して、ギルドへと全力で走っていた。
彼女たちとクエストの完了後。
彼女たちをどうすれば強くできるかを、俺は朝方まで考えていてそのまま眠ってしまったようなのだ。
十分後。
ギルドの地下酒場の奥にあるテーブルには三人が座っていた。
「――遅れてすまん!」
俺の声が賑わう酒場に響き渡った。
三人に申し訳無い気分でいっぱいだったし、文句や怒られても仕方がないと思っていた。
だが、彼女たちの表情はホッとしたような、嬉しそうな表情を見せている。
「……安心したヨ。もう来ないかと不安でいっぱいだったネ」
「ああ、昨日の失態を見られたから、私達はまた捨てられたのかと……心配していたんだ」
「……アクア様ぁ〜良かったぁ〜」
今にも泣きそうな三人の顔を見て、俺は申し訳ない気持ちと嬉しい気持ちでいっぱいになった。
「……約束の時間に遅れたのに、怒らないのか?」
俺の問いに彼女たちは互いに顔を合わせる。
「そ、そんな事しません! わたし達はアクア様が来てくれただけでも嬉しいのに……遅刻ぐらいで怒りません」
「そうだぞ、アクア。私達はそんな事で怒ったりはしないさ」
「そうネ。だから早く座るヨ」
三人に手招きされて、俺はディスティニィの隣に座った。
「いや、本当にすまなかったな」
「アクア様、本当に気にしなくてもいいんですよ。それよりも、アクア様が来てくれただけで十分なんですから」
「……でも、どうして遅れたんだ?」
「その前に、まずは俺のスキルについて説明してからだ」
俺はリノア達に追放された後の話をした。
要領を得ないと言った顔をしていたが、次第に彼女達の表情が変わっていく。
「……本当にそんな事ができるのか? 君が意識すれば、触れた物質を別の物質に置き換えるだなんて……」
「アタシも信じられないネ。そんな事ができるのは伝説の仙人だけヨ」
シノンとヤオは、とても信じられない顔をしている。
ま、無理も無い。
俺だってそんな話を聞かされたら、すぐに信じる事なんてできないからな。
「そうだな……口で説明するよりも、まずは実際に見せた方がいいかもな」
俺は席を立つと、きょとんとしたシノンの横に近づいた。
「な、なにを――」
「いいからジッとしてろって」
俺はシノンの鎧と盾に触れ、スキルを発動させた。
一瞬、俺たちを中心に閃光が走るが、周りにいる他の人達は全く気づいている様子はない。
「よし、これで終わりだ」
「……終わり? 特に私が変わったところは無いようだが……?」
不思議そうに彼女は、感触を確かめるように鎧と盾を指で触れている。
「触った感触は違うはずなんだが……ま、とりあえず鎧はミスリル製に、盾はアダマンタイトに置き換えておいた。あと、どんな魔法も反射できるように、少し手を加えさせて貰ったよ」
ミスリルは魔法耐性が高い金属だ。
アダマンタイトはドラゴンの爪や牙さえも耐える最高級の素材に置き換えた。
それとは別に彼女の防具一式に、魔法を反射する鏡を組み込んだ。
「これでシノンの耐久性は格段に跳ね上がったはずだ。前回みたいに吹き飛ばされる事もないだろ」
「それは本当か!? そうか……アクア。君には感謝する」
喜びをそれはど表に出さないけれど、シノンは少し微笑んでいる。
「さ、今度はヤオの番だ」
「アタシの番……?」
今度はヤオの体に手を当てると、再び閃光が一瞬だけ走った。
「……アタシにはなにをしたネ?」
「ヤオが着ている衣服の繊維をミスリル製の繊維にした。これがあれば並の物理と魔法攻撃を直接受けても多少は大丈夫なはずだ」
彼女は前衛職として常に最前線で戦うはずだ。
だから敵からの攻撃も受ける回数も多いと思う。
それを考慮して防御力の高いミスリル製の繊維に置き換えたのだ。
「あとはコイツだな」
俺はテーブルの上に手をかざし、何も無い空間から一対の白銀の鉤爪を創り出した。
ガチャリとテーブルの上に落ちた鉤爪を興味深々と言った感じで、ずっとヤオは魅入っている。
「これはもしかしてアタシの武器ネ?」
「そ、これはヤオ専用で、この世に二つとない武器だ。本の少し魔力を込めるだけで、爪から真空波を飛ばす事もできる。使い方には気をつけろよ」
「うん、気をつけるネ! 専用の武器……アタシすごく嬉しいヨ!」
めちゃくちゃ喜んでくれているな、ヤオは。
これだけ喜んで貰えるなら創った甲斐があると言うものだ。
アダマンタイトとドラゴンの牙を組合せて錬成した。
本に書いてある内容だと、恐ろしく斬れ味があって鋼鉄をバターのように裂くらしい。
加えて疾風の球と言うアイテムを組み込んだから真空波も飛ばせて、遠距離攻撃も可能にした一品だ。
「アクア! アタシ、早くこれで敵を斬り裂きたいネ!」
「まあ、慌てるなって」
興奮するヤオをなだめて席に座らせた俺は、ディスティニィに顔を向けた。
「――ディスティニィ。今持ってる杖を貸して貰えるか?」
「はい、アクア様。それでわたしの杖もミスリル製にするんですか?」
「いや、ミスリル製の杖じゃない。アクアのはこれにした」
ディスティニィから杖を受け取ると、スキルを発動させた。
「ほら、出来た。これがディスティニィ専用の杖だ」
杖を受け取ったディスティニィの表情が、みるみる変わっていく。
「……すごいです、これ……今まで感じた事がないくらいの魔力の波動を感じます!」
「お、さすがフォンブラウンの血筋だな。この杖の魔力に気づくなんて」
ディスティニィが杖を持つ手が震えている。
「この魔力が溢れ出すような感覚に、この肌触り……これってもしかして世界樹ですか?」
「そう確かに世界樹の枝だ。よく気づいたな」
触っただけで、杖が世界樹だなんて分かるなんてな。
さすが名門魔道士の一族なだけはある。
「そ、そんな貴重な杖をいただいていいんですか!?」
世界樹の枝から創られた杖は、魔道士にとっては垂涎の希少アイテムだ。
俺は本に書いてあった杖を錬成しただけに過ぎないからな。
元手は何もかかっていない。
「ああ、構わないさ。それはディスティニィ専用の杖なんだからな」
渡すからにはただの世界樹の杖じゃあない。
使い手に魔力を永遠に供給できる宝珠と魔力増幅の宝珠を組み込んだんだ。
「それを持ってる限り、ディスティニィは魔力切れの心配はないし、今まで以上に強力な魔法を使えるはずだ」
これがあれば、あの生活魔法も攻撃魔法のように使えるはずだ。
「あ……ありがとうございます、アクア様!」
彼女はまるで玩具を貰った子供のように、目を輝かせながら杖を触っている。
一通り全員に行き渡ったみたいだな。
朝方までいろいろ考えり悩んだりしたが、彼女たちの喜ぶ顔が見れたんだし、俺はそれだけで満足だ。
正直、出会ったばかりの三人に俺がここまでやる必要はなかった。
でも、彼女たちは俺を必要としてくれた。
俺のスキルを知る前からそう思ってくれた。
願わくば、四人でこれから一緒に歩んでいきたい。
俺は本気でそう考えたから、彼女たちにささやかながら贈り物させて貰ったんだ。
「聞いてくれ、みんな」
三人は真剣な表情をして、俺の顔を見ている。
「俺の目標は、お前たち三人を最強にしたい。そのためには俺は尽力を惜しまない……目指そうぜ、大陸一番の最強パーティを」
「分かってますよ、アクア様!」
「ああ、共に目指そう……最強のパーティを!」
「そうネ。アタシ達なら絶対になれるネ!」
彼女達の自信溢れる顔を見て俺は――
「ああ、なってやろう。最強に!」
嘘偽り無い心の底からそう思えた。
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