短篇集「長編にするかどうかとりあえず短編として投稿してから考えてみるシリーズ」
未来都市145─外伝:グイナットラの自爆─
長編になるかどうかとりあえず短編にして投稿してから考えてみるシリーズ第二弾!
今作の場合はちょっとなろうっぽくないんですけど、なぜ書いたかというとこれはまぁ、自分の趣味ですね。
そう言っちゃうと誤解されるかもしれませんが、こういう人が集まりすぎて汚れた街について考えるのが好きだったんですよ。なんかその汚さに美しさを感じるっていうかなんていうか......。
あれ? ここを切り抜いて読んだだけだとかなり誤解されますね。──ここまでの文は見なかったことにしてください。
とにかく今作は私がごく稀に妄想している世界の一部をちょっと短めに凝縮したものです。長編になるかどうかに関しましては今のところ力量不足なので書くとは言いきれませんが、とりあえず評価を見てから考えます。
これはある星の小さな町“岩人窟”で起こった事件についての物語だ。
この星はそこに住む知的生命体、——ここでは他に喩える知的生命体が存在しないため、あえて人類として話を進めていくことにしよう。
この星は人類によって尽く破壊されていった。森の木々は尽く燃やされ、海や川は干上がり、まるでこの星が元々大きな岩であるかのように岩と砂漠に覆われるだけの星と化してしまった。
そのため、人々はわずかに残された生存可能領域に寄ってたかって暮らしていた。
増え続ける人口に、人々はその町を高くしていくことによってその人口をカバーすることを選んだ。その頃にはその星の地殻変動をある程度コントロールすることができるようになったため建物を高くしても崩れる心配は無かった。
人々は次第に貧富によって住む階層が分けられていった。階層が高ければ高いほどその階層は新しく、清潔であるため、住むにはお金がかかったためである。そして、裕福であればあるほど上の階層に住み、貧しいものはまるで湖の底に溜まったヘドロのように下の階層に沈殿していった。
この話の舞台となる町“岩人窟”はまさに下の階層にある町である。
都市“NO.145”にある“岩人窟”はには生まれながらに金を持たないもの、または富裕層、一般市民が経済的な事情から必要のない子を捨てたり、昔で言う姥捨て山のように子が金銭的に養えなくなった老人や障がいを抱えた人が次々と捨てられていったため、色んな人々が寄ってたかって暮らしていた。
彼らは上から落ちてくる一般市民、富裕層が残した残飯、捨てた衣類、日用品などの様々なゴミをうまく使って生きてきた。彼らは一般市民などから“ゴミ漁り”と呼ばれ蔑まれていたが、彼らは彼らなりに逞しく生きてきた。
この物語の主人公であるグイナットラもまた、“ゴミ漁り”の一人であった。
グイナットラは生まれも育ちも“岩人窟”に住む老人であった。彼には妻子はいなかった。というのも、彼は昔から一人でいた男で、そのままずっと一人のままでいたら、あっという間に年を取っていて、気づいたら、彼はもう棺桶に片足突っ込んでいるといわれるほどの歳になっていた。
そんな彼にはささやかな楽しみがあった。それは毎日、ゴミの最終処理として送られてくるがらくたを集めて、一つの機械を作ることだった。
彼は幼い頃に、借金が理由で一般市民からこの下層に落っこちてきたある男ががらくたから作りなおしていた洗濯機やテレビ、電子レンジなどの家電、車のような乗り物などの様々な機械がまるで魔法の道具のように見えたからだ。
この下層にはそのような機械はなく、この層に住む人々はみな、綺麗とは言えない水で洗濯して、誰かが食べ残したパンでカビの生えていないところを食べていた。
幼い頃のグイナットラからすれば、そのような機械を作る男がまるで魔法使いのように見えた。そして、彼はその魔法使いのようになりたいと思った。
彼は男に教えを乞い、機械の修理の仕方を教えてもらった。
そして、彼は好きなだけがらくたから機械を作れるほどの技術を手にしていた。ただ、彼が幼い頃に思い焦がれた情熱は年月を重ねるにつれて失われていき、壊れそうな機械を無造作に積み上げるようになってしまった。
そんなある日のことだ。
彼は修理した中でもラジオを好んでいた。
なぜなら、ラジオは一般市民層のことだが、いろんなニュースが聞け、さらに聞いたこともない魅惑の音楽が流れてくるからだ。彼はラジオのニュースを聞きながら、今日手に入れた戦利品の芽がそこら中から生えていたジャガイモを蒸かしたものを、誰かが飲みかけて捨てたコーラと一緒に食べていた。
彼はいつものように流暢に語るアナウンサーのニュースに聞き惚れながら、ジャガイモにかじりついていた。
そんなとき、あるニュースが流れた。それは、燃焼する区域についてのニュースだ。
さすがに、ゴミをそのまま下層に置きっぱなしにしていると、いつしかその悪臭が一般市民層にまで届きかねない。それに、感染症が発生すると、いつか上の層に影響及ぼしかねない。それはさすがに拙いので、定期的に彼らはその区域丸ごとを燃やしているのだ。——勿論、下層に住むものには何も告げずに。
彼も若かりし頃はそのことに憤慨していたこともあったが、これまで運のいいことに一度も“岩人窟”で燃焼が無かったものだから——まぁ、所詮、他人事だろう……と思い、いつしか大雨や旱魃、蝗害のような天災だと割り切れるようになったのだ。——いや、なってしまったというほうが適当か。
しかし、その日は違った。
その日は“岩人窟”が燃焼される日だった。それも今日。ニュースが流れているその日に発表されたのだ。
こういうことはよくある。
たまにグイナットラのような物好きがいて、彼のようにラジオを修理して周波数をつなげて一般市民層のニュースを聞いているものがいるのだ。そのような者たちが周りの者に言い広めるとパニックになって、慌ててほかの下層に移動してしまうのだ。
そのようなことを防ぐために、この世界の支配者と呼ばれる者たちは事前に電子メールとして一般市民層には伝えておいて、当日になってこのことを公表するのだ。そのときにはもうその層は封鎖されていて、誰も外へは出られないようになってしまっているのだ。
彼はそのことをよく知っていた。だから、焦りはしなかった。それに彼は、──もう俺は後先短いのだ。もう十分生きた。だから、死んでも構わない……と心の中で思っていたのだ。
せめて最期に自分が住んできた“岩人窟”を歩き回ってその景色を心の中に留めて灰になろうと思ったグイナットラはゴミ漁りの時以外としては珍しく外に出ることにした。
その道中、珍しくゴミ漁りの時以外に外をほっつき回っているグイナットラに好奇心からか、いろんな人が彼を見ていた。彼からしたら、好奇の目を向けられるのはいつものことなので、大して気に留めることもなかった。
彼は“岩人窟”の景色をゆっくりと、まるで焼き付けるように心の中に留めながら、街を歩き回った。
そんなとき、彼は少年少女たちとすれ違った。彼らは笑みを浮かべて追いかけっこしていた。
彼は彼らをかわいそうに思った。
──今日、この街はゴミごと燃やされて消えていく。彼らも俺も同じように灰となるだろう。俺は老い先短いから別に燃やされることなどどうしようもないことだと受け入れられるのだが、彼らはまだ若い。若すぎる。今日突然自分の命を失うことを知らずに遊んでいる彼らがどうもかわいそうに見えてくる。
──助けたい。助けてやりたいとは他の街が燃やさられる度何度も思ってきた。
──しかし、老人でしかも“ゴミ漁り”の一人でしかない俺に何か止められるようなことではない。
グイナットラがそんなことを考えていくうちに、彼の足取りは次第に重くなっていった。
しまいには歩き回って“岩人窟”の景色を心に留める気力すら失ってグイナットラは一人帰路についた。
彼は家に帰るなり、ラジオをつけた。そこで漸く燃焼される時間がいつ始まるのか気付いた。
実のところ、その日に限ってのことだが、ラジオでは何度も燃焼がいつ始まるのか報道はされていた。
しかし、彼はこの街が燃やされることに思った以上に衝撃を受けたのか、肝心のところを聞き逃していたのだ。
彼はまだ時間が残っていることに少し安堵の溜息をついた。そして、彼はしばらく考え込んだ。
すると、何を思ったのか彼はかつて作ったガラクタの中にあった爆弾を取り出した。
これは時限式のものでよっぽどなことがない限り途中で起爆することはなかった。そのことはかつて彼が何年もそこら辺に積み上げていたのを思い出して、試しに人気の少ないゴミ置き場で起爆させてみたからよく知っていた。
彼はその時限爆弾を体にぐるぐるっと巻きつけて外へ駆け出していった。
彼はこれまでで一番緊張しながら、歩き慣れた道を走っていた。彼が目指す場所はこの街と別の街を繋ぐ関門だった。
そこで起爆すれば、関門の扉は脆いため風穴が開く。
もし、その状態で燃やすと本来燃やすつもりのなかった場所まで燃やしてしまうことになる。そうなると、下水管やゴミ箱を伝ってその煙が上の層へと上がっていく。
──“岩人窟”の上の層なら、事前に触れ回っているから対策はしているだろうが、その隣の街の上の層はどうだろうか?
──きっと、この街が燃やされるのはほんの少しだけ延びるだろう。そうすれば、燃やさられることも知らずに笑顔で走り回っていた少年少女たちも少しは長く生きることができるだろう。
彼はそう考えて、その関門へと向かっていった。
さすがに恐怖心があったのか、あるいは老いもあってか足取りは重かった。
しかし、彼は懸命に歩を前へ、前へと進めていった。
別に彼には使命感があって自爆に思い至ったわけではない。彼は自己満足のために関門をぶち壊して、少しでも彼の住む街を燃やそうとした上に住む者たちの鼻を明かしてやりたかったのだ。
彼はなんとかして関門についた。
そこではラジオを聴いたのか、数え切れないほどでもないが、多くの人々が関門に寄ってたかっていた。
彼は関門にかかられている時計を見てまだ燃焼が始まっていないことに気付いた。そして、彼は時限爆弾のタイマーのスイッチを押した。
少しずつ時を刻んでいくタイマーの音に彼は怯えながらも少し高揚感があった。
彼には本来無機質に聴こえるはずのタイマーの電子音がまるで新しい人生の始まりを告げる鐘の音のように美しく聞こえた。
期限が近づいていくにつれて彼は少しずつ関門へと近づいていった。そして、期限が残り一分を切る頃には関門のすぐ目の前に辿り着いていた。
彼はそこでゆっくりと目を閉じ、起爆するのを待った。
電子音が最後の音を刻んだその瞬間、彼が体に巻きつけていた爆弾は見事に彼の体ごと破裂した。
関門の前はしばらく悲鳴が響き渡っていた。
彼の爆発は周りにいた数人も巻き添いにしたが、彼の目論見通り関門には大きな風穴を開けた。
人々は関門に穴が空いていることに気付いて、一斉に隣町へと駆け込んでいった。
燃焼することを決めていた者たちも関門に大きな風穴が開いたことを知ったため、渋々この日の燃焼は諦めることにした。
それから半年後、“岩人窟”は予定より半年ほど遅れたが燃やされ尽くした。しかし、グイナットラの時間稼ぎが功を奏したのか“岩人窟”に住む三割の人々がこの燃焼から逃げ切ることができた。
残念ながら、彼が生かしてやりたいと思った子たちが生きているかどうかは今となっては分からない。しかし、少なくとも彼の行為によって救われた命があったのは紛れもない事実である。
今、この話を聞いているあなた方は彼の行いに対する意見は少なからずあるだろう。しかし、少なくとも“岩人窟”に住んでいて、隣の街に移ることができた人々は彼の行いを称賛したことだろう。
今回の話は「未来都市145」の中で起きた一つの事件について短編にしたものです。
ただし、長編にする際の主人公はグイナットラではありません。彼はもう死んじゃいましたからね。——言っておきますが、老人が主人公の話は書けないから殺したとは言わないでくださいね。書こうと思ったら書けると思いますが、彼では、「未来都市145」の本質を見ることができないと思ったためです。
まぁ、実のところ数年後にこの世界についての話を書けたらいいなと思って投稿しました。賛否は色々あると思いますが、少しでも評価、あるいは感想をいただけると助かります。
次回作(今日の12時更新予定)はこの話に比べたら少しお気楽な話になると思いますので、引き続き読んでいただけると助かります。
長々と前書き・後書きすみませんでした。