18.いまだ力は足りず……
俺は夢の中にいるような感覚に囚われていた。いつ終焉を迎えるかは、俺には分からない。この夢がいつまでも続いていけばいい、と俺はそう思った。その内容がどんなものだったかは全く覚えていなかったが、続けばいいと思ったので、幸せなものであったことに間違いはない。だが、そんな幸せ時間は決して長くは続かず、いずれは終わりに向かっていくものなのだ。
幻想的な空間の中で周りに人がいる訳ではないが、体を揺すられるような感覚があった。そうして、俺の微睡の時間は終わりを告げる。
「あっ!起きた!よかったぁーー!」
起きたばっかりで、何がなんだかわからない人間の心情としては、あんまり大きな声を近くで出さないで欲しいものだが、本当に心配してくれたのだろう。話す口調が遥香が本当にほっとしたことをはっきりと告げていた。
「お、おはよう。心配かけたみたいだな」
何気ない調子で俺はそう言う。実際問題、体が痛いとか、そんなことは一切なかったのだ。
「そうだよっ!本当に。二日も寝てたんだからね。二日だよ。そりゃ、心配にもなるよ。だって、お腹からドバドバ血が出てたんだよ!?」
ドバドバって、俺の血はひっくり返したソースかよ!
「いや、流石にドバドバはないだろ?」
多分、そうだったんだろうと思いつつ、一縷の望みとして一応聞いておく。
「うん。あれはドバドバとしか言いようが無いんじゃないかなっ」
そんなに笑顔で俺の体から血が抜けていったことを言わないでほしいんだけどな。
そして、俺は意識を失った後、どうなったのかを遥香に確認しようとしたのだったが、急に頭が重くなったように感じ、体を起こしているのも、難しかった。とりあえず、アストルに負け、俺が力不足であったことは分かっているが。
「ごめん。もうちょっとだけ寝かせて。次、起きた時はあの後どうなったか教えて」
「わかったよ。まだ、血が完全に戻った訳じゃないんだね。ゆっくり休んで元気になってね」
そう言って、部屋から出ていく遥香に「ありがとう」と思いつつ、俺の意識は眠りに誘われていった。
「私が初めから能力を使っていればよかったのかな……」
か細い声でそう呟いたことも俺が聞くことはなかった。
三章終了です!
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次回4章更新は一週間後五月十日からです。




