11.練習①
「まずは風に慣れることから始めましょう!」
アリアさんのその言葉が合図となって、俺の練習が始まった。
「オペ・ウィンド!」
その呪文の起句らしい言葉を唱えた瞬間、俺の体は宙に浮かび上がった。
何処かで感じたことがあるような浮遊感に襲われる。そう、例えば、遊園地にあるフリーフォールで落下するときの感覚が永続的に続いているような感覚だった。
「うわっ!」
突然襲われた妙な感覚に俺は戸惑いを覚えていた。
そんな俺の反応にアリアさんはくすっと笑って、
「じゃあ、まずは動かしますね」
「そんなに早くは動かさないでもらえると嬉しいです……」
そんな俺の懇願があったにも関わらず、アリアさんは、
「とりあえず、普通に動かしますから、遅かったら言ってくださいねー」
と呑気に言って、かなりの速さで左右に動かし始めた。
「えっ、ちょっ、速すぎないですか……ゔっ」
俺がそんな反応をしたのに、彼女は驚いたようで、
「えっ、戦闘中はこのくらいの速度なんて普通じゃないですか?」
ああ、そういや暗殺者って素早いイメージだった。もしかしたら、暗殺者にとってはこれが普通なのだろうか……。もしそうだとしたら、この世界の人々はどれだけ人間離れしているのだろう。少なくとも元の世界では人がこのスピードの人が襲ってくるなど考えられない。
「俺はあくまで普通の人間ですから……」
「それはすいませんでした。じゃあ、ロラン様が歩くくらいのスピードから練習しましょう!」
ロランの歩くスピードは普通だったから、ちょうどよくなるんじゃないか、その予想に違わず、さっきのスピードとは違って、小走り程度の速さになっていた。
でも、足を動かさずに体が勝手に動くということには違和感しかなかった。足を入れた箱がそのまま動いていくような感覚だ。前のめりになりすぎるのもよくないので、バランス感覚を身につけられるまで特訓ということだろうか。長くなりそうな気がする……。
そう感じていた俺だったが、数分後にいいアイデアを思いついた。
「アリアさん!背中の方に風の壁を作ってもらうことって出来ますか?」
「やったことないですけど、多分できると思いますよ」
そう言って、彼女は後ろに壁を作ってくれた。
「よし、これならバランスなんか気にしなくて良くなるはず……!」
実際その後、かなり順調に風に乗ることができたのだが、アリアさんからは余裕があるように見えたのかスピードアップに回転も加わっての特訓となったのだった。




