幕間7.メイドの追憶④
それからというもの、私は何事にも集中できないまま、日々を過ごしていた。
第一、思った通りに体が動かない。
まだ、期限までには日時があるというのに、どうすればいいのかということも全然思いつかない。
あの青年の言う通りに彼のことを調べてみよう。
そう思った私は、彼のことをさまざまな場所で聞き始めた。
武器屋、雑貨屋、行商人、冒険者ギルドの職員、などだ。
情報屋が一番情報が集まると言っていた酒場にはもちろん入れなかったが、それでも沢山の情報を手に入れられた。
「ここ最近、鉄製品がその領地に流れていってるそうだ。兵も集めてるそうだから、戦争でもしそうだけど、敏腕領主だから大丈夫だろうがな。」と言った軍事面の声や、
「あそこの領地は税が安いから、商売がしやすいよ。」と言った経済面の声、
「広く難民や孤児を受け入れているらしいよ。」といったいった福祉関連の声などだ。
そんな声を聞いた後で、考えないようにしていた問題がついに表出した。
「どうして、依頼のままに人を殺していたんだろうか。」と。
「今まで私が殺した人の中には青年のように悪い噂を聞かない人がいたんじゃないのか。」と。
それは私が心のどこかで抱えていた疑問。
いつかは向き合わないといけない問題。
そんな内から響く声に幼かった私は耐えられなかった。
そうして、そんな声を振り払うように頭を振りながら、外に飛び出して走っていたのだろうか。
その時の記憶はあまりないけど、顔を上げた先にいた人のことは明瞭に覚えている。
そこには私が殺そうとした青年がいた。
「ふふっ、アリアちゃんでいいのかな。
前に僕が言ったことをしてくれたみたいだね。
その結果が今、君がこうなってることなんだとしたら、君は今までどれほどのことをしたんだろうか。」
そんな風に、私の心を抉るような言葉をかけてきた青年を私は睨みつけようとしたが、涙が溢れてきて、どこに彼がいるのかわからなかった。
「ああ、ごめん。別に君を責めている訳じゃないんだ。君がそんなことをしなければいけなかったのにも理由があるんだろう。
君のような子たちをしっかり管理出来なかった僕たち貴族の責任だよ。
僕は君に殺された貴族たちに対して思うことはないし、君を衛兵に突き出したりもしない。
僕が今日していることに協力してくれるなら、君を僕の屋敷で客人として扱おう。
このままの状況がいいなら別に僕についてくる必要はないよ。
でも、流されるのが嫌だったから、君は自分で道を切り開こうと努力したんじゃないのかい?」
そう言って、青年は私に手を差し出した。
私はその手を取ろうとして、初めてしっかりと青年の方を見たが、彼の背後には沢山の兵士が続いていた。
「えっ?」
思わず出た驚愕の声。
昨日までは平穏であったはずの王都に兵士がいるという異常に対してのものだ。
「ああ、この兵士たちのことかい?心配しなくていいよ。さあ、手を取って。」
柔和な笑みで青年はそう言った。
「一つだけ聞かせて。あなたは今日ここに何をしにきたの?」
なぜそんなことを聞くのかわからないといった顔で青年は、
「もちろん。暗愚な王を弑し、新しい王にすげ替え、愚かな貴族たちを粛清するためだよ。」
純粋にそうすることが正しいと思っているのだろう。
それはそれで少しおかしい気もしたけど、おかしい私が言えたことではないと思ったし、目的自体は私にとってはすごくプラスになることだったので、私は彼の手を取ったのだった。
結局、彼のその日の目的はほぼ達成された。
その結果、彼は狂人と化したのだったのだけど。
そして今、私は彼の屋敷でメイドとして働いている。
初めに言われた時は驚きもしたが、今となっては意外と自分に向いていたのかもしれないとそう思う。
時々は護衛として、体も動かせることだし。
今回は異世界人の護衛だって。
どんな人達なのかすごく楽しみだわ・・・
これで幕間は終わりで本編に戻りますが、定期テストが近いので、ペースは落ちると思います。
一週間に二回は更新すると思うので、よろしくお願いします。




