幕間6.メイドの追憶③
いつものように標的の情報収集をして、実行に移す。
私はそんなことは知らなかったが、次の標的は王都でもかなりの有力者の息子らしい。
なので、支払わなければならない情報料も多かったが、その分報酬も破格だったので、あまり考えないようにする。
情がうつっては支障が出るかもしれないからだ。
いよいよ、街に遊びにくると言う日になった。
今回は私のお金も底をつきそうだったので、絶対に失敗する訳にはいかない。
一撃で仕留められるだろうが、念を入れて、刀身に毒を塗り込んでおく。
辺りを見渡し、両親がいないかどうか周りを探している子供の演技をする。
そして、標的が近づいてきたので、
「うぇーん、うぇーん」
そう、泣いているフリをする。
私の標的になる人たちは基本的優しい人たちなんだろう。
だって、泣いている子を助けて、両親探しに衛兵を動かすというのだから。
この方法で今まで何人殺したのだろうか。
もう殺人は両手の指に余るほどしている。
そして、この日もいつものように。
「どうしたんだい、お嬢さん。」
まだ若い青年が声を掛けてくる。
「もしかして、迷子かな?」
「うん・・・
はぐれちゃったの。」
そう泣きながら言って、私は青年に飛びついた。
そんな私を青年は受け止めてくれた。
「大丈夫かい?僕が一緒に探してあげるよ。」
『今だっ!!』
心中でそう思い、片方の手を短剣の方に差し伸ばして、
「ありがと、えっ?」
一突きしたと思った短剣は青年の体には傷一つ与えていなかった。
驚きに顔が染まる。
「ふふっ。残念だったね。僕にはわかってたよ。君が必ず僕を殺しに来ることが・・・。
聞いたことがないかい。教会の最高位の者にだけ与えられるという服のことを。
僕の貴族としての顔は有名だけど、こっちの顔はよく知らなかったようだね。
君のような子供を詰所に突き出すのも寝覚めが悪い。もう行っていいよ。ああ、一度君は自分が殺そうとする人間のことくらい調べてみたらいいんじゃないかな。」
そう言い残して、青年は颯爽と去っていった。
私が経験した初めての失敗だった。




