ありえぬ診断
女が、医者と話していた。
「先生、それで、どんな病気なのでしょう」女は心配そうな表情をして訊いた。
「ちょっとした、喉の病気ですね」なにやら紙をめくって見ながら、医者が答える。
「喉ですか」女は少し、意外そうな顔をした。
「ええ。心配することはありませんよ」
「本当に喉なんですか」女の声色には、わずかばかりの疑念も含まれていた。
「そうですよ。声を出す人がかかりやすい病気ですね」
「本当かしら……」女は、傍らに手を置いた。
「本当に、喉なんですか。べつの病気じゃないんですか」女は同じ質問を繰り返した。
「そうですね。症状が喉には出ないので、分かりづらいのですが、喉の病気なんです」
「これ以上悪くなったら……」女の不安が強くなっていくのが、表情から見てとれた。
「いえいえ、ご心配なさらずに。声を出さなければ悪くなることはありません」医者は声色は穏やかであり、それは聞く者に十分な安心感を与えると言えた。
「……でも、先生」しかし、女の表情は変わらなかった。
「この人は、生まれつきしゃべれないんですよ?」