第九話 ステータス
「マジッス!」
「いや、真似しないでくださいよ。しかも心の声を」
ついでに威厳がなくなるからやめてほしい。
神様にちょりーっすとかいわれてもどう反応すればいいのかわからないし。
「うーん、私も長いこと封印されてて神様っぽい態度とか覚えてないんだけどねぇ」
「今度呼び出す時は先に声かけておいてください。どんな感じか書いた本持ってきますから」
頬をかきながら困ったようにカオスさんは笑う。
それ見て勉強をしてほしいとの思いで言ってみたが、カオスさんの反応は劇的だった。
「本当かい!? とても嬉しいよ! あ、代償がいるよね、何が望みだい!? 世界の半分とかかな!?」
それ選んだらゲームオーバーなパターンですよね?
というか少し落ち着け。
「やーごめんごめん、ほら長いこと封印されてるから娯楽に飢えちゃってるんだよ」
その割には現世のことよく知っているような。
あ、あれか。
俺の記憶を読んだのかな。
「まぁそんなとこだね、あまりやりすぎると君が廃人になっちゃうから表層だけだけど」
「そんな危ないことしないでくださいよ……」
俺下手したらクルクルパーになってたのか。
流石は人類を滅ぼそうとしたことのある神様ってことなのかな。
「誤解なんだけどなぁ……」
「あ、すみません」
そうやって寂しそうに言うのは反則だと思うの。
俺が悪いんだけどさ。
「さて、それじゃステータスを付与しようか」
「あ、はい。お願いします!」
カオスさんが手をこちらに向けて構える。
彼の手から放たれた燐光が俺の身体に降り注――がなかった。
「えっと?」
「うん、祝福あげるっていっといてなんだけどさ」
「は、はい……」
なにか問題でもあったのだろうか。
俺は不安を抑えながらカオスさんの言葉に耳を傾ける。
「どれくらい与えればいいんだい?」
「……」
聞くとカオスさんはステータス付与初心神だった。
はるか昔は付与しまくってたらしいけど。
「ペルセウスくらいでいいのかな?」
「やめて!?」
伝説の英雄じゃないですかそれ。
魂の器が育ちきっていないところに大量の祝福注がれたら器が砕けてしまう。
仮に無事だったとしても初めての祝福授与で、そんなステータス付与されたら俺の人生は破滅だ。
きっと研究機関に連れて行かれてしまうだろう。
「へぇ? 今はそんなふうになってるんだ?」
「今はって、昔は違ったんですか?」
「……、いや、そうだったかもしれないね」
何かを誤魔化すようにカオスさんは笑う。
まぁ、神様たちのやることだし深く考えないでおこう。
「さて困ったね、そうするとどのくらい祝福を注げば良いのかわからないんだけど」
うん、俺もわからないよ。
聞いている限り、どの神様でも同じ訓練や経験に対して大体同じくらいの祝福を与えているみたいだから、神様間で共有している何かしらの基準があるんだろうけど。
封印されて長いカオスさんはそんなの知るはずがなかった。
「あ、そうだ、このステータスカードの値を参考にできませんか?」
「ふむ、これは珍しい。マクスウェルの手記か。 いや、違うな。そのページの切り抜きと言ったところか?」
俺から受け取ったステータスカードと取扱説明書を眺めながらカオスさんは呟く。
「なるほど、注いだ祝福に反応して文字と数値が変わっていくのか。面白いな」
「これならいけますかね?」
「ああ、たぶんな。よし、それでは試してみるぞ!」
カオスさんはとても楽しそうに俺に手を向ける。
なんか嫌な予感がして仕方がないが、腐っても神様。
大丈夫、のハズだ。
「まずは限界まで絞ってゆっくりお願いしますね?」
「わかっているよ。魂の器が壊れてしまうんだろう?」
「は、はい」
大丈夫、俺はカオスさんを信じるんだ。
カオスさんが再び手をこちらに向けて構える。
彼の手から放たれた燐光が、今度こそ俺の身体に降り注ぐ。
お願いします、神様仏様カオス様……!
普段はあまり神様へ祈りを捧げない俺も、この時ばかりは全力で祈った。
「え? ちょっ!?」
「はい?」
カオスさんの叫び声と共に放たれる光が明らかに増える。
そしてすぐに光は消え去った。
「もー、ハヤト君、急に祈りを捧げないでよ」
目が慣れないせいでよく見えないが、言葉とは裏腹にカオスさんは怒ってはいないようだ。
しかし今のは一体何だったのだろうか?
「え? なんかまずかったです?」
「あのね、ここはある意味神域に近い場所なの」
人々の祈りが直接神様に届く場所、神域。
そして長いこと祈りを捧げられていなかったカオスさん。
さらに慣れない祝福の付与。
そんな状況下で俺が全力で祈りを捧げたものだから、カオスさんは手元を誤ってしまったらしい。
「うーん、これ大丈夫なのかなぁ?」
カオスさんは俺のステータスカードを見ながら首を傾げる。
もしかしてステータスカードが壊れたとかだろうか。
そんな話今まで聞いたこと無いが、相手はカオスさんだ。
何があってもおかしくない。
「ああ、ごめんごめん。別に壊れてるとかじゃないから多分大丈夫と思うけど、一応確認してくれるかな?」
「は、はい……。あ、よかった。これなら大丈夫です」
受け取ったステータスカードは特に問題ないように見える。
またそこに記されていた文字と数字は思っていたよりまともだった。
ただ、スキルが二つも発現しているのは微妙かもしれないな。
「力と頑丈さ、あと器用さがD。敏捷がC。生命力と精神力、スタミナがEですね」
「ふむ、それは良い方なのかい?」
もちろんですとも。
補欠合格の俺ではかなり不自然なレベルで。
でも、これならシャルロットに対抗できるかもしれない。
「それスキルが二つも発現してますし。両方共戦闘では直接役に立たないものですけど」
ステータスカードの最後に記載されてある『次元収納』と『無限接続』の文字。
収納とか通信のスキルは、時空系のスキルに属するかなりのレアスキルだったはずだ。
クエストを大量にこなしてポイントを貯めて、三年生でようやく手が届くとかそんなレベルの。
しかもポイント貯めた上で昇級しなきゃだからさらにハードルが高い。
収納は文字通りいろんなものを亜空間へ収納できる。
スキルによる通信はたしか距離無制限での通信が可能になる、だったかな。
それを最初から取得できたのはかなりのアドバンテージだと思う。
「それはよかった、注ぎすぎてたら剥がさなきゃいけないところだったよ」
「そんなこと出来るんですか?」
「出来るよ?」
ただし、ものすごく痛いからショック死するかもね。
と、にこやかに言われてしまった。
……よかった、常識の範囲内で収まってくれてて。