第八話 祝福
「ようヒーロー、行かないのか?」
「ああ……?」
教室で一人立ち尽くしていたと思っていたのは俺の勘違いだったらしい。
まだ生徒が残ってたのか。
「早く行かないと遅れるぞ」
黒髪短髪の爽やか系イケメンが俺に笑いかけてくる。
リア充面しやがって、きっとこいつはモテモテに違いない。
というか誰がヒーローだ。
誤解だっての。
「そうだな。さんきゅ」
湧き上がる嫉妬の感情を抑えてなんとかそれだけ返す。
これから、俺たちは神様と面談する。
そして祝福、ステータスを授けてもらうのだ。
これがないと、冒険者として話しにならないからな。
ステータス無しで魔物を倒すとか、罠でも仕掛けないと無理だ。
「しかしやるじゃないか。自分の女のために主席入学のお姫様に決闘ふっかけるなんてさ」
ちょっと黙っててもらえます!?
今現実逃避で忙しいんで!
あとジュリは俺の女じゃないからね?
あくまで仲間、仲間だから。
俺と彼女の関係はあくまでパーティーメンバー。
そして利用する者と利用される者、それだけだ。
そりゃ顔は可愛いし胸もでかく、家事は上手い。
ちょっとアホなところがあるが、それも愛嬌ってもんだろう。
だけどその立場がいただけない。
王女とか面倒な立場の子と付き合うなんて冗談じゃないだよ。
「そういうんじゃないから」
色んな思いがせめぎあい、なんとか吐き出すように口にできたのはそれだけ。
「そうか? あー、おっけーおっけー、わかったからそんな目でみんなよ」
しかしイケメンは理解してくれたようだ。
さすがのコミュ力、リア充爆発しろ。
「俺は北島 護だ。君の名前は?」
「神無月 隼人だ。よろしくな。っと時間がやばい」
「うわ、マジだ。急ごう」
イケメンこと北島と俺は廊下に飛び出ると神事室へと走りだす。
無いとは思うけど、遅刻して祝福を貰えなかったら洒落にならない。
北島の家は祭神がいるらしいけど、俺の家には特になかったからな。
待たせて怒らせたら本当に付与されないのではないかと恐怖に駆られる。
「良い神様に祝福貰えると良いな」
「そう、だな」
息を切らしながら廊下を走る。
先生方に見つかることもなく先に行ったクラスメートたちの背中が見えてきた。
ジュリの姿は……、同級生の女子に囲まれて何か話をしているようだ。
これだと近寄れないな。
「結構、余裕、だったか?」
「いや、そうでも、ないみたいだ」
クラスメートたちは次々に神事室の中へと入っていく。
最後の一人が入るところで、俺たちはなんとか追いついた。
「間に合ったな」
「はー、はー……。セーフッ」
「最後に入った人は扉閉めて」
先生の言葉に従い、扉を閉める。
扉を閉めると同時に室内の空気が変わった気がした。
神事室の中は一般の教室とは違い壁が赤い布で覆われており、明かりは壁沿いに一定間隔で置かれたロウソクだけ。
揺れるロウソクの火が中央に描かれた魔法陣を照らす。
厳かな雰囲気が漂うその部屋には、緊張した四十人の生徒と、慣れているのか事務的な雰囲気な数名の先生がいるだけのように見える。
しかし魔法陣の中は少し違う。
人の子に祝福を与えるため、八百万の神々が注目しているのだ。
「はい、これステータスカードと取扱説明書。配ってって」
束になって渡されたステータスカードが生徒たちの手で配られていく。
みんなそれを緊張した様子で受け取り、見つめる。
「んじゃ入室した順で一人ずつ魔法陣に入って。付与終わったら部屋から出て教室に戻ってね」
先生の言葉に促され、最初の生徒が魔法陣へと入る。
彼が魔法陣の中心に立つと青い燐光が魔法陣から湧き上がってくる。
その淡い輝きは彼を包み、そしてすぐに消えていった。
「はい次。終わった子は教室に戻ってね」
余韻もへったくれもなく、次の生徒へ先生が声をかける。
赤青黄に緑白。
生徒が魔法陣に入ると強弱様々な燐光が輝いては消えていった。
「ふぅ、緊張するぜ」
「頑張ってな」
北島が魔法陣に入るとそれまでとは違い、強烈な青白い輝きが部屋に満ちる。
「うわっ!?」
「うおっ!?」
「すごいですね、四人目ですか」
「ええ、今年は多いですね」
俺と北島の驚きをよそに先生たちはそこまで驚いた様子ではない。
「えーっと、北島君。少しステータスカード見せてもらえる?」
「え、あ、はい。どうぞ」
名札を確認した先生の一人が北島からステータスカードを受け取る。
これまでの事務的な対応との違いに北島も困惑しているようだ。
「ふむ、凄いな。力、頑丈さ、生命力、敏捷、器用さ、精神力、スタミナ。全てD以上じゃないか」
「初期スキルも発現しているようですね。回復系ですか」
まじかよ、北島もステータスが全てD以上か。
スキルも発現するなんて、もしかしたら一年の中で一番なんじゃないかな、こいつ。
「ああ、たぶん実家の祭神様が祝福をくださったのでそれでかと」
なるほど、と先生たちは納得したように首を振る。
家でずっと崇めている祭神がある奴は良いよな。
その祭神から下駄を履かせてもらえるのは正直羨ましい。
「しかし今年は豊作ですね。これは期待できそうです」
「北島君、君がこの学校を背負う冒険者の一人となることを祈ってるよ」
先生たちは口々に北島を褒めそやす。
「あ、まだ残ってたんだっけ。君、早く入って」
「はーい」
仕方ないとはいえ、忘れられてるのは少し腹が立つ。
しかもめんどくさそうに言われるとな。
俺は面白くないと思いつつ魔法陣へと一歩踏み入れた。
そして黒と白の粒子が沸き立ち――
――気がつけば俺は再び例の空間にいた。
「やあ少年。久しぶり、でいいのかな?」
「……いえ、一昨日に会ったばかりですよ」
はは、また俺封印されたのか?
ちょっと勘弁してくれよ。
「今回は俺、本当に何もしてないんですけど」
「知ってる知ってる。今回は私が君を呼び出したんだからね」
「は?」
カオスさんいわく、魔法陣に干渉して俺をこの封印に引きずり込んだらしい。
こないだ送り出したかと思ったら、今度は引きずり込むとかこの方は何がしたいんだ。
「急に呼び出したのは悪かったと思ってるよ。そう怒らないでくれ」
「いえ、そんな怒ってはいませんけど……」
「ただ、こんな機会じゃないと君と直接会うのは難しくてね」
ただ一言欲しかったというか、別に直接会わなくてもというか。
なんでこんな大事をしたのかがわからない。
「ほら、君は神からの祝福をもらいたいんだろ?」
「ええ、まぁ。ステータスがないと魔物倒せないですし」
「うんうん、だから呼んだんだよ」
そういえばこの方も神様だったんだっけ?
つまり俺の祝福は――。
「私が与えようと思う」
え、すべての神の元となったこの方から祝福貰えるの?
マジッスか!