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第六話 入学

「そういえば主席って挨拶するのか?」

「へ? そう、ね。壇上に上がって誓いの言葉を述べることになってるわ」


 ジュリには特段緊張した様子はみられない。

 まぁ王女様だしそういうのには慣れているのかもな。

 一晩一緒に過ごしてみたが、とてもそうは見えないけど。


「へぇ、大変なんだな」


 俺たちは雑談をしながら学校への山道を下っていく。

 軽く草刈り程度はされているようだけど、ところどころ岩から飛び降りたりしなければならずどちらかと言えば獣道に近い。

 雨が降ったら大変なことになりそうだ。


「しっかし、この道も中々にきついな」

「でも冒険者としてはいいんじゃない? 日々の生活の中で鍛えられるって悪くないと思うのよ」

「プラス思考だなぁ。さすがは王女様か」


 頭スカスカに思えるけど、こういうのが人の上に立つ器ってやつなのかね。

 ちょっと俺にはわからないな。


「そういうのやめてくれる?」

「あ、すまん」


 本気で嫌そうにされてしまったので素直に謝る。


 しかしなんであんなところに学生寮を作ったのか?

 この細い道がなにかの拍子で崩れたら陸の孤島になるんじゃないだろうか。

 寸断される電話線も電気もないんだし。

 遠回りの道は外界まで歩いて二時間はかかるもんな。



 一時間ほど歩き、ようやく校舎が見えてくる。

 コンクリートで作られ実用性を重視した校舎はとても冒険者らしいと思える。


「すごい人混みだなぁ」

「うわ、私酔うかも……」


 校舎の入り口の混雑を前にして、ジュリは少し引きつった顔で足を止める。


 俺もあの人混みには飛び込みたくないな。

 とはいえ入学式まであまり時間もないし、早く行かないと。


「それにしても、本当にいろんな種族の子がいるのね」

「魔界はほとんどが魔族なんだっけ?」

「うん、まったく居ないわけじゃないんだけどね」


 人混みを眺めると、頭に耳のついた生徒や耳の長い生徒、妙に身長の低い生徒の姿がちらほら見える。

 新品の制服に身を包んだ彼らは皆、俺たちと同じ新入生だ。


 彼らが見つめる先にはクラス表が掲示されている。

 自分のクラスと入学式の座席を確認し、各々式場へ向かっていく。


 少し見ているうちに人混みが減ってきた。

 これなら大丈夫かとクラス表を確認に向かう。


「私一年Fクラスみたい」

「ん、俺も同じみたいだ」


 これは運がいいのか悪いのか、少し考えてしまう。


 寮でもパーティーでも一緒なのに、クラスまで一緒か。

 なんとなく神の見えざる手が働いている気がしてくる。


 まぁ、効率はいいし、ジュリを見習って俺もプラス思考で行くかな。


「運がいいな」

「やったわね!」


 お互い視線を合わせて頷きあう。


 パーティーメンバーと同じクラスならいろいろとやりやすい。

 連携だって授業とそれ以外で変える必要もないしな。


「それじゃ行きましょ!」

「あ、うん」


 しかし学年主席様と同じクラスか。

 補欠の俺は比べられて辛そうだな。


 そういえば彼女の取り巻きはどこにいったんだろう?


「何してるの? 早く座らないと席無くなっちゃうわよ」


 俺の思考は引かれた袖に中断される。


 というか近い近い。

 無防備すぎるだろこいつ、王女様なんだからもうちょっと自覚を持ってだな。


 ……はぁ、今言っても仕方がないか、あとで注意しておこう。


 しかしなんで俺、こんなお節介焼こうとしているんだろうか。

 まぁパーティーの仲間だし、当然といえば当然なんだけど。


「指定席だからそれはないって」


 利用しようとしているだけなのに、なんでこんな事になってるんだろうな。

 まぁいいか。


 少し焦ったように言うジュリに苦笑いを返し、俺たちは式場へと向かった。



「――この学校の生徒としての自覚と責任感を持ち、共に励まし合い高めあっていく仲間になれるよう努力していくことを誓います。入学生代表、シャルロット・ヴィ・サタニア」


 壇上ではサタニア王国の第二王女が堂々とした態度で宣誓を行っていた。

 王女として、そして主席入学者として相応しいその立ち振舞。

 その姿を見れば彼女が宣言をするのが当たり前だと皆認めることだろう。


 俺はそれを自分の席から眺める。

 隣には壇上をじっと見つめるジュリの姿。

 その目は何を考えているのか、俺にはわからなかった。


 ジュリエット・ヴィ・サタニア、サタニア王国の第三王女。

 シャルロット・ヴィ・サタニアの双子の妹にして俺と同じ補欠合格者。


 そのことを、俺はたった今知ったのだった。



「あはは、がっかりした? 出がらしでごめんね?」


 優秀な姉と出がらしの妹。

 彼女たちはそういう関係らしい。


「いや、こちらこそなんかごめん」


 入学式の後、教室に向かう途中の廊下でジュリは少し申し訳なさそうに言ってくる。

 だが、それは彼女が悪いわけじゃない。


 むしろ勝手に勘違いして、勝手に期待した俺が悪い。

 彼女が謝ることなんて何もない――わけでもないが、それはもう飲み込んだことだしな。


「え? ハヤトなんか謝るようなことしたっけ? あ、もしかしてこっそり卵二個食べたとか?」


 毎日産んでくれるわけじゃないんだから、取っておかないと後で困るよ。

 と唇を少し尖らして注意を口にしてくるが、そうじゃねぇよ。


「ひひゃい! ひひゃいっへは!」

「おぅ、すまん。つまみやすそうだったんでつい」

「ついじゃないわよ!? そんな理由で人の唇つままないでくれる!?」


 顔を赤くして怒るジュリを見て肩の力を抜く。

 落ちこぼれ同士、仲良く借金を返すとしよう。


「これからよろしくな」

「な、なによ。急に優しくしても許さないんだからね?」


 ぷりぷりと怒るジュリをなだめているうちに教室に到着する。

 扉を開けると彼女へ視線が集中するのがわかった。


 クラスメートたちは、『主席がなんで』とか『あれが第二王女か』などと口にする。

 どうやって否定したものか、一瞬迷った俺に先じて彼女が教室内へと一歩踏み入り教壇に立つ。


「私はジュリエット・ヴィ・サタニア。サタニア王国の第三王女です」


 ジュリはこういったことに慣れているのだろう。

 注目が集まりきったところで自分はシャルロット第二王女ではないと堂々と名乗る。

 その姿は第二王女に勝るとも劣らない立派なものだった。


「七桁の借金があって本国からの支援もないけど、それでもよかったら私たちのパーティーに入ってくれる人探しています!」


 その後に続いた余計な台詞さえなければな。


 おい、どうしてくれる。

 仲間になる前にそんなこと知ったら誰もパーティーに加入してくれないでしょ。


 バカなのこの子。

 あ、俺と同じ補欠だったか。


 その証拠に集まっていた視線が蜘蛛の子を散らすように消え去っていく。


 はぁ、このクラスでのメンバー募集は絶望的か……。


 俺の気持ちを知ってか知らずか、ふふんと自分の仕事はやりきったとばかりに胸を張るジュリに俺は頭を抱える。

 出がらしは伊達じゃないってことか。


「このアンポンタン!」

「きゃっ!」


 腕を引いて教壇から下ろし、教室の片隅に連れていき顔を寄せる。

 くしくも壁ドンみたいな体制になってしまい、ちょっといい匂いが鼻孔をくすぐる。

 って今はそれどころじゃない。


「どうすんだよこれ!?」

「で、でも、だって……」


 ジュリの顔には動揺が浮かぶ。

 そんな目しても許さないぞ?

 俺たちは今、手段を選べる状況じゃないんだからな。


「仲間になっちゃえばこっちのもんだったのに」

「ハヤト……、それは違うと思う」


 それは本当の仲間じゃない。

 そういって気丈に俺を見つめる彼女の頬を俺は軽くつねる。


「ひゃひ!? なにすんのよ!?」

「それだと俺が悪者みたいじゃないか」

「みたいじゃなくて――いひゃい!」

「わかったよ、俺が悪かった」


 手を離してため息を吐く。

 しかし借金のことを知っても仲間になるようなやつなんてまず居ない。

 卒業まで二人だけのパーティーになることは濃厚だ。


 ジュリは格闘系だし、器用に魔法を使えるようには思えない。

 そうすると俺は戦士系を諦めて後衛になるしかないかな……。

 俺も勉強と魔法は苦手だけど、それでもジュリよりはマシだろう。

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