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第二十話 マジックアイテム

「ふんっ!」

「GUGYAAAAA!!」

「ふぅ……」


 俺は剣を鞘に収納すると転がっている魔石を回収する。

 この魔石は俺に斬り裂かれ、黒い霧へと変わっていったゴブリンが残したものだ。


 これで七体目。

 ドロップした剣は今の所問題なく使えている。


 七体も斬っているのに刃こぼれどころか斬れ味が全く落ちていない。

 かなりの業物のようだ。


「本当に良い拾い物だったな……」


 俺は思わぬ収穫に少し喜びつつも、不安に胸が押しつぶされそうになっていた。


 ここまで倒した魔物はゴブリンが七体にスライムが十二体。

 運良く一体ずつしか現れていないが、複数出てきたら多少の手傷は受けるだろう。


 回復手段がない現状だと、小さな傷でも積み重なって命取りになりかねない。


「いい加減疲れてきたな……」


 結果魔物の攻撃を大きく避けることとなり、スタミナを消耗していた。


 休んだほうがいいとわかってはいる。

 わかってはいるが、足を止めることは出来ない。


 ダンジョンに入ってから時間の感覚があまり無くなっているが、もう一時間程度は経っているはず。

 周囲警戒も一人でしていたため、集中も散漫になっているのは自覚がある。


「なるほどな、パーティーは大切だな」


 勉強になった。


 周囲の警戒、罠の確認、そして戦闘。

 これらを一人でやるのはかなり難しい。


 しかも一人では休憩すらままならない。

 冒険者パーティーが四人以上で組まれるケースが多いのはこのためだ。


 本で読んで知ってはいたけど、いざその立場になってみたら痛感する。


「二度と単騎じゃ入んねぇぞ」


 もっとも、今はその二度目があるかどうかすら怪しいわけですが。


「さてと、次に行こう」


 俺は休みを求める身体にムチを打ち、分岐路を左へと曲がる。

 そして少し進んで、思わず頭を抱えたくなった。


「嘘だろおい……」


 分岐路から少し進んだ曲がり角から、そっと先を見るとそこには鉄塊をつなぎ合わせて作られたような人形。

 アイアンゴーレムと呼ばれる魔物が道を塞ぐように立っていた。


「どうなってんだよ……」


 魔法に対する耐性は少なく、仲間に魔法使いや神官がいれば雑魚同然のそれ。

 しかし無機物系の魔物は剣を使う俺とはすこぶる相性が悪い。

 せめてハンマーとか持ってれば違うのだが。


「こんな狭い通路でアイアンゴーレムとやり合うなんて考えたくもない」


 頑丈で攻撃力の高いアイアンゴーレム。

 しかしタフとはいえ広い空間でなら、武器さえ耐えれるなら一人でもなんとか削り倒せるだろう。


 だが狭い通路ではその鈍重さは不利にはなりえない。

 避けることの出来ない相手に、強力な一撃を浴びせることが出来るのだから。


 まぁ、出口が見つけられていない現状ではいずれにしろ逃げる以外の選択肢は取れないのだけど。


「見つからなくてよかった……」


 道を引き返しながら俺は呟く。


 何も考えずに曲がり角を抜けていたらアウトだったろうな。

 気を引き締めて行かないと。


「喉も乾いてきたな……」


 それに腹も減ってきた。

 考えてみれば朝から何も食べていない。


「せめて一個くらい残しとけよな……」


 それもこれも、先輩がジュリの作ってきたおにぎりを全て食べてしまったからだ。

 このダンジョンに入ることになったのだって……。


「いや、それは逆ギレだな」


 このダンジョンへは、俺の意志で入ったのだから。

 それを先輩のせいにするのは筋が違うだろう。



「ほんとにさぁ、なんなんだよこれ……」


 引き返した通路、分岐を右に曲がったすぐ先。

 石畳の通路の真ん中に鎮座するブツを見て俺はため息を吐く。


 世界観だとか雰囲気だとかをすべてぶち壊しにしてくれるよね。

 これがドロップアイテムと呼ぶことが許されるなら本当に何でもありだろうが。


「ちゃぶ台の上に水と果物とか」


 俺はダンジョンじゃなくて変わり者のお家に迷い込んだんじゃないだろうな。


 百歩譲ってちゃぶ台単体、もしくは水と果物だけなら認めなくもないよ?

 でもさ、それがセットで出てくるってどういう状況よ。


 しかも水晶で作られた水差しとコップのセットとか、意味がわからない。


「もういいや……」


 俺はつっこむのを諦め、コップに水を注ぐ。


「美味い……」


 良く冷えた水は頭をリフレッシュさせてくれる。


「このコップと水差し、両方マジックアイテムか」


 充填された魔素が尽きるまで、無限に水の湧き出る水差し。

 そして注がれた水を一瞬でキンキンに冷やすコップ。


 おそらく現状の魔道具作成技術では作ることの困難なそれ。


「それが一階層で、ねぇ?」


 まぁ俺が今いる階層が何階層かはわからないけどさ。

 少なくとも俺は階段を上り下りした記憶はない。


「果物は……、食わないほうがいいだろうな」


 腹は減っている。

 だけどいつ腹が斬り裂かれるかわからないのに食べ物を腹に入れるわけにはいかない。

 それに身体の動きが重くなるからな。


発現(セット)『次元収納』」


 俺は次元収納へと水差しとコップ、それに果物、ついでにちゃぶ台を収納した。

 ちゃぶ台はこないだカオスさんが返すの忘れてたから地味に助かったかもしれない。


 たぶんこのちゃぶ台も何かしらのマジックアイテムなんだろうな。


能力解除(スキルアウト)


 考えるだけ無駄かと思いながら俺は再び歩き始めた。



「ここがゴールってことかな」


 石の廊下の突き当り、そこにはこのダンジョンの雰囲気に相応しい観音開きの扉で塞がれていた。

 材質は金属らしく、壁とは違う質感を放っている。


 紅い扉の縁には金の装飾が施されており、この中の存在の大きさを誇示しているようだった。


 いわゆるボス部屋というやつだと思う。


 まず間違いなくこの扉の向こうには強大な存在がいるだろう。

 そしてその存在が守っているのはダンジョンコア、そして囚われた先輩という予感がする。


「どうする……」


 スタミナは限界に近い。

 なんせ夕方まで草抜きをしており、その後も大八車を引いて坂道を登っていたんだからな。


 その後の単騎でのダンジョン探索だ。

 そりゃ疲れ果てるというものだろう。


 引き返して出口を探索するか、それともこの扉の先に向かうか。


 ボスを倒せば、そしてダンジョンコアを破壊すればダンジョンの魔物はぐっと弱体化する。

 そうすれば撤退も楽になるだろうが、しかし倒せる保証なんてどこにもない。


 だが、このまま当て所もなく出口の探索を続けるのもリスクが高い。

 ボス部屋の目の前にいるということは、今ダンジョンの一番奥にいるということ。

 ここまで来る間に魔物と遭遇したのと同じかそれ以上の回数魔物と戦うことになる。


「まず無理だ……」


 とてもじゃないが出口までたどり着ける自信はない。


 ならば確実に死ぬ退路より、可能性のあるボス討伐に掛ける他ない。


 この扉の先にある部屋の主次第ではあるけれど、そいつさえ倒せばボス部屋は他の魔物の出ない安全地帯なのだから。


「ふんっ!」


 それでも、俺は絶対に生きて帰ってやる。

 冒険者は、諦めが悪いんだよ!


 俺は意を決して扉に手をかけた。

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