表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/30

第十九話 ダンジョンへ

「あ……」

「え?」


 ジュリのつぶやきで俺は現実に戻ってきた。

 いや、視線の先で空を飛ぶ大八車を見る限り夢の中にいるのかもしれないけど。


「な゛あ゛あ゛あ゛あ゛のお゛お゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!」


 そして、大八車は先輩を乗せ崖の下の暗闇へと落ちていくのだった。


「……」

「……」


 え、なんで?

 後少しで、完走だったのに?

 このタイミングで神に見放されるかよ。


「ハヤト、どうしよ……。あれ、ダンジョンの入り口だよね……?」


 ジュリの声で我に返り、改めて先輩が落ちた崖の下を見下ろす。


 崖の下にある凹凸のないまるで墨で塗りつぶしたかのような暗闇。

 それは、まず間違いなくダンジョンの入口だった。


「っ! ジュリは学校行って当直の先生に連絡を頼む!」

「わ、わかった! え、ハヤトは? まさか……」


 俺は、正直気は進まないけど崖を降りて先輩を助けに行くつもりだ。


「大八車を手放したのは、俺の責任だ」

「そんな……」


 大八車の持ち手でラリアットされた時、俺が手を離さなければ……。


 そりゃさっきは崖の下へ投棄しようとか考えたけど、本気でやるつもりではなかった。

 まさか本当に崖の下へ落ちるなんて……。


「ちょっと中に入って先輩連れ出してくるだけだから。もしすぐに見つからなかったら外に出て待ってるよ。大丈夫、流石に丸腰でダンジョンの奥まで潜らないって」

「……、わかった。すぐ呼んでくるから!」


 無茶はしないで。

 そう言い去っていったジュリに心の中で謝る。


「さてと、んじゃ無茶と行きますかね」


 改めて崖の下の暗闇を俺は見つめる。

 まるで『闇』というものをそこにだけ綺麗に張り付けた、濃淡のない暗闇。


「これ、やっぱりダンジョンだよなぁ……」


 以前写真で見たもの、そのものだ。


 おそらく出来たばかりのダンジョンで学校側も把握していないものだろう。

 なんせこの周辺だけで年間五百個近いダンジョンが発生している。

 その全てを常時把握するのは困難だ。


「ただまぁ、出来たばっかりのダンジョンならどうにかなる。よな?」


 俺の剣は折れたままで、腰に下げているのは竹光だ。

 竹刀ですら無い。


 武器もなしにダンジョンにアタックするなんて無茶もいいところだが、先輩はあの時ステータスを開放していなかった。

 万が一、落ちた衝撃で気を失っていてそこを魔物に襲われたらと考えるとゾッとする。

 最弱のスライムやゴブリン相手でもひとたまりもない。


「大丈夫、ちょっと中を覗くだけだから……」


 もし学内冒険者ランクFの俺が無断でダンジョンに立ち入ったとバレたらそのペナルティーはかなり重いものになるだろう。

 退学まではならないだろうが、無期限の停学ならあり得るかもしれない。


 ゴクリ


 その恐怖に思わず喉を鳴らす。


 だけど、先輩はさっき加入したばかりとはいえパーティーメンバーだ。

 俺はまだ学生だが、それでも俺は冒険者。仲間を見捨てたりは出来ない。


 たとえそいつが俺たちの昼飯を食べ尽くした挙げ句に借金があるの黙ってパーティーに加入した腐れ外道だとしてもだ。

 ……、なんか見捨てたくなってきた。


 いや、せめて返済終わるまでは働いてもらわないとだな。


「よかった。思ったより頑丈だな」


 崖の取っ掛かりへ足をかけ、軽く体重をかけてみるが十分支えになってくれそうだ。

 ボルタリングの経験はないけど、ステータスの影響下にある今の俺なら問題なく降りれるように思える。


「少しずつ、ゆっくりと……。焦るな、落ち着け……」


 一歩一歩確かめながら崖を降りていった。



「何だこれ?」


 上から暗闇の中へ降りたはずなのに、抜けた先は水平に続く石造りの廊下だった。

 ダンジョンではこういうことがたまにあるとは聞いていたが、実際に遭遇するとかなり驚くな。

 なんせ重力が下から横に急に変わるんだもの。


「先輩の姿は無しか。え? どうして……?」


 一度戻ろうと入ってきたほうを見ると、そちらにも冷たい石造りの廊下が続いている。

 そして少し行ったところで丁字路になっているようだった。


「出口がない……。嘘だろ……」


 混乱する頭をなんとか回し、息を殺して周囲の気配を探るが魔物などはいないようだ。

 魔物がいなくてよかったと思うべきか、先輩が見つからなくて残念に思うべきか。


 それより帰り道を失ったと悲嘆すべきかもしれないな。

 仲間を助けに来て二次遭難なんて笑えない。


 冒険者のダンジョンからの帰還率は九十九%以上。

 だがこれは十分に情報収集を行い、適切な武装を整えて、しっかり連携の取れるパーティーが十分に準備した場合の話だ。


 今回みたいに武器なし、アイテムなし、パーティーなし。

 その上帰還ルートもロストだなんて絶望的な状況とは比べ物にならない。


 今のところ魔物とは遭遇していないし、このダンジョンも出来たばかりでそこまで驚異にはならないと思うが、そこには確証の欠片もなんだ。


 幸い、ダンジョンの壁や天井が淡く光っているので照明は不要だが……。


「出口を探さないとな……」


 動かずにいたら死を待つのみ、俺の直感がそう告げてくる。

 それにただ座って待っているだけなんて耐えられそうにない。


 先輩の安否は気になるが、まずは自分の安全の確保が最優先だ。

 とりあえずこの廊下の両端、その先がどうなっているか確認するべきだろう。


 俺は丁字路へと慎重に足を進めた。


「はは、なんの冗談だよ?」


 慎重に丁字路の左右を確認すると、足元には鞘に入った一本の長剣が落ちていた。


 ダンジョンからのアイテムドロップ。

 これは成長したダンジョンでは稀にあることだ。


 ダンジョン内に生じた魔素溜まりが空間や時空を歪め、過去に存在していた物品をその場に召喚するのだ。


 それらの中にはマジックアイテムと呼ばれる魔力をもったアイテムや剣なども存在する。

 現代の魔道具作成技術では到底性能の及ばない、高額で取引されるそれらを持ち帰ることも冒険者の使命となる。


 また、霊器や神器と言われる規格外の物品だって極稀に現れることだってある。

 何年か前にはSSS級ダンジョンから聖剣が持ち帰られたとニュースでやっていた。


「ん? なんだこれ。ってまじかよ!?」


 手に取ってみるが、その軽さに驚く。

 まさか柄だけしか無いのかと思い抜いてみて更に驚いた。


 ドロップアイテムはその発生メカニズムのため、若いダンジョンでは通常発生しない。

 その代り古い、そして深いダンジョンになればなるほど魔素が多く溜まっており、より上位のアイテムを召喚しやすくなってくる。


 そして俺の手にした紅いオーラを放つ剣は、少なくとも魔剣以上の性能だと思う。


「呪われてないよな?」


 召喚されるアイテムなどは完全にランダムなため呪われているものだってある。


 しかも呪われているアイテムの処分は拾った冒険者が責任を持って行わなければならない。

 その上冒険者が破産する原因のTOP三に入ってるくらいには高額な処分費がかかるのだ。


 既に借金にまみれている俺が万が一呪われたアイテムを拾ってしまったら目も当てられない。


「とりあえず大丈夫そうかな? これ以上は帰って鑑定してもらわないとわからないけど」


 何はともあれ、武器を手に入れられたことはラッキーだったな。

 少なくとも丸腰の状態よりかは一歩前進した。


「怪しいにもほどがあるけどな」


 考えてみればあの大八車の動きも何かしらの意志が働いていたように思える。

 まるで俺をこのダンジョンに導くために、そして俺にダンジョンの探索をさせるために。


 ははっ、そりゃ文字通り神がかったコーナリングをするわけだよ。


 でも社とかに不敬を働いた覚えもない。

 なんでこんな目に合わされなければならないのか。


 神のみぞ知るってやつか、くそっ。


「まぁ行くしか無いよな……」 


 俺は慎重にダンジョンの探索を進めていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ