表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/30

第十六話 追放された少女

「よっしゃ勝利!」

「ちょっと、まってよ……」


 ギリギリで俺のほうが先に到着できた。

 スタートダッシュの差は大き……い?


「え? どしたの? あ、私に譲ってくれる気になった?」


 ちらりと後ろを見れば少し遅れて到着したジュリが、座らない俺を不思議そうに見ている。


 こいつ、まだ気がついていないのか。

 この観察力の無さというか注意力の無さはちょっと心配になってしまうな。


「あー……。はい、どうぞ」


 うん、譲るわ。


 やっぱほら、ジュリはこれでも王女様だしな。

 地べたに座らせるなんてとんでもない。


 君に相応しい椅子に是非とも座ってくれたまえ。


「え、本当に? あ、ありがと……?」


 急に変わった俺の態度を疑問に思ったのか、不審げな顔を浮かべる。


 遠慮せず受け取ってくれよ。

 考えるなんてお前のキャラじゃないだろ?


「いやほら、やっぱりレディーファーストって大事だよな! さ、遠慮なく座ってくれ」

「そ、そうよね? うん、ハヤトもわかってきたじゃない」


 ジュリはその物体を前にふふんと満足そうに笑う。


 うんうん、ジュリのいいところはそうやって人を疑わないところだよ。

 これからもずっと純粋な君のままでいてくれ。


「よし、受けっとたな? もう返却は受け付けないぞ?」

「は? え? どういうこと?」


 どういうことも何もそのまんまの意味だよ。

 それ以上でもそれ以下でもない。


 思いっきり動揺しながら俺に手を伸ばすがさっと避ける。


「え、なんで避けるの? どうして距離取るの? ねぇ!」

「あんなに座りたがっていたのにどうした? ほら、遠慮せずに座れよ。俺はここから見とくからさ」


 だって、ほら、ねぇ?

 俺、人の上に座る趣味とか無いですし。

 あとなんか関わっちゃいけない雰囲気というかオーラみたいなものをひしひしと感じるんだよね。


「……るさ……の……」

「きゃっ!? 岩が喋った!?」


 おぅ、これでもまだ岩と思えるジュリの感性はすごいな。

 俺にはとても真似できない。


 見た感じ質感は岩とはかけ離れてるし、さっきから微妙に動いているの気が付かなかったのだろうか。


「うるさいの……、ご飯の邪魔なの……」

「え? これ生き物? それにご飯って、え?」


 その物体、いや彼女は不満げに顔を上げた。


 眠そうな三白眼に腐った魚のように濁った青い瞳。

 短めに切りそろえられたボサボサの青い髪の毛からは、一束の寝癖の塊がはねている。


「どっかいくの……」


 彼女が喋ると、口元から飛び出ている草がピコピコと動く。


 食べながら喋るなよ、じゃなくてこいつ草食べてるのか?


 あれか、草食系ってやつか。

 種族的な特性で雑草しか食べれないのかもしれない、そんな特性は聞いたこと無いけど。


「あ、食事中ごめんなさい? お、美味しそうね?」

「……、嫌味なの? 好きで食べてるわけじゃないの」


 ジュリの言葉に少女はぺっと草を吐き出して嫌そうな顔を浮かべた。


 だろうな。

 見た感じ雑草の中でも食べれるものだけ、それも新芽をかじっているようだけどそんなものを好き好んで食べる奴はそういない。


「え? じゃあなんでそんな物食べてるのよ」


 ジュリ、それくらいにしておこうか。

 あまり人のプライバシーに土足で踏み込むものじゃないぞ。


 だいたい面倒ごとの臭いがプンプンするのわからないわけ?

 ほら、彼女がどんどん不機嫌そうになっていってるでしょ?


「そんな物で悪かったの。他に食べるものがないから仕方なく食べてるだけなの……」

「え? でも学食とかあるでしょ? それに寮でだってご飯出るんじゃないの?」


 うん、それは俺も気になった。


 寮では学校が休みの日には朝昼晩の食事が提供されていたはず。

 味も食べれないってほどじゃない、少なくとも雑草よりはマシのはずだ。


「学食は土日祝日はやってないの。寮は……、入ってないの……」

「え? 入ってない? うち全寮制じゃなかったっけ?」

「違うの。正確には特別の事情もしくは許可証がない限り学校の敷地外に出てはならないってだけなの……」

「そ、そうだったんだ?」


 俺を見るなよ、俺だって今はじめて知ったわ。

 でもそれって全寮制って意味合いじゃないの?


「喋ったらお腹へってきたの……。もう行くの……」


 そう言って彼女は再び顔を下へと向ける。

 もうこちらのことは気にしていないらしく、食べれる草を探す作業に戻っていた。


「ご、ごめんなさい。ね、ねぇハヤト……」

「あ、うん。良いと思うぞ?」


 薄い胸元にある青いリボンを見る限り二年生か。


 同じ学校の生徒、それも女の子が飢えて雑草食べてるのを放置できるほど俺は太くない。

 良心の責めを回避できるなら、俺とジュリのおにぎりを半分わけるくらい構わないだろう。


「あの、よかったらおにぎり食べる?」

「貴女は神か」


 がばっと顔を上げて目を見開き、そのまま立ち上がるとジュリの両手を掴む。

 そしてそのまま親の仇でも見たような必死な目で彼女はジュリをにらみつけた。


 よほど腹が空いていたのか、口元からは草と共によだれが溢れている。

 その必死さにジュリはドン引きしていた。


「へ? いや、そこまで言われること?」

「飢えた時のおにぎりは命ほどの価値があるの」

「えっと、とりあえずリュックから出すから、手を離してくれる?」


 ジュリが背負っていたリュックを下ろし、俺とジュリのおにぎりが入った包みを中から取り出す。

 そして封を開けようとしたのだが……。


「よこすの! ハグハグッハグッ!」


 彼女はジュリの手から奪い取ると地べたへ座り、必死になって食べ始める。

 そのまま一つ、二つ、三つ……、一体その小さな体のどこにそれだけの食べ物が入るのか。


「ぐぇえっぷ……、ご馳走様でしたなの」


 女の子座り姿で手を合わせ、満足といったふうに口角を吊り上げた彼女をジュリは少し驚いたように見つめていた。


 その驚きは一瞬でおにぎりを消し去ったことに対するものか、それとも可愛い見た目に反したゲップをしたことに対するものか。

 多分両方だな。


「お、お粗末さまでした……」


 結局、おにぎりは六個をすべてを平らげられてしまった。

 満足そうにジュリの差し出したお茶をすすり、彼女はほっと息を吐く。


「落ち着いたか?」

「助かったの」


 変わらず眠そうな三白眼でこちらを見上げてくるその瞳には、先程まであった濁りはなくなり知性の輝きが宿っているように見える。


「自己紹介がまだだったの。失礼したの」


 彼女は霜月 楓(しもつき かえで)

 やはり俺たちと同じ学生で、二年生らしい。


 そして、彼女は森の近くでテントを張って生活しているそうだ。

 学校周辺では魔物も出ないので問題はないらしいけど、年頃の少女が良いのだろうか。


 でも王女があの暮らしっぷりって考えると、庶民がそういう暮らしでもおかしくはない――わけがない。

 普通はちゃんと一般寮に入るものだ。

 俺だって最初は入ってたんだし。


「お金がないの」


 彼女はその服装の通り、神官系らしい。

 そして薬草を調合してポーションを作るのが得意なのだが、大量に作ったものの売りさばけず。

 パーティーからも追放されてしまいと……。


「落ちるところまで落ちたとはこのことなの……」


 金が無いのは首がないのと同じなの。

 そう言って彼女はうなだれる。


 ふむ……。


「えっと、俺は神無月 隼人。こっちは俺のパーティーメンバーのジュリエット・ヴィ・サタニア」


 帰る家すら無いのであれば、サイハテ寮に来ればいい。

 そして、出来ることなら俺達の仲間になってほしい。


「もしよかったら俺たちのパーティーに入らないか?」


 俺は自然にその言葉が出ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ