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ハル姉のシンサツ


現在乙女になったボク、絶賛自宅謹慎中です!


「あっはははは!何コレ超面白い〜あっはははは!」


漫画のタイトルは【ギャグ!ドキドキラブロマンス】。


ギャグ漫画であり、ラブコメという一風変わったこの漫画が

どういう訳か今までハマらなかったツボにハマってしまったらしい。


きっと、女体化したせいだろう。


さらに裏側には黒いフードを被った組織があって何らかの怪しい薬を飲まされたに違いない。


なんてそんな事を妄想していたら、不意にドアが開けられる。


「お兄ちゃん準備出来たからハル姉の所に行くよー」


「この漫画は持っていっていい?」


「残念だけど、その子はお持ち帰り厳禁です」


「明日香の場合、どれもじゃねぇか」


しかもお持ち帰りってキャバクラかよ。


それからおよそ三十分、タクシーに揺られながら我が従姉の邸宅へ。


タクシーに乗る際運転手の目が怪しかったが、明日香いわくそれが美少女という存在の苦労らしい。


実際、アイドルのカミングアウトなんかはそんなんばっかりだ。


「「うわぁーお!」」


さすが兄妹、似てなおハモる。


何度来てもハル姉の研究所は無駄に広い。軽く東京ドーム二個分はある。しかも都会の一等地に建てるもんだから恐ろしい。


そもそも十八歳で学者だなんて空想の化石が存在する時点で人として神様は不公平だ。


平和とは一体なんなんだろうか……


ターラーラリーラーラー、タタラリーララー


何故ここでコンビニエンスストアの入店音?


「どちらー?」


「うちらー」


「あいよー」


おい、明日香。うちらってなんだ。うちらって。


ガチャリッと大きめのドアが開く。


さすがセレブは自動ドアとは羨ましい。


この美少女の姿ではおよそ大学とかにある扉なんかは範囲外だろう。力が足りない。


しばらく歩くと、やがて普通のドアが現れた。


「しかしなんで玄関前にシーサー?沖縄のお土産?」


「ハル姉思い立ったら真冬のロシアとかでも普通に行くしね」


「天才は何を考えているのかわからんですなー」


「お前達、人の事をなんだと思っているんだ?」


気がつけば、目の前にその人はいた。


つやつやな肌に長い黒髪、黒い瞳には目尻にホクロ。大人びているけど未だ十八歳。


世界に幾つもの論文を残した若き英知──夕暮(ゆうぐれ) (はるか)


ちなみにハル姉の研究分野は医学、地学、力学、宇宙学、薬学が主で、中でも宇宙学と薬学に関してはハル姉一人で人類の進歩を三十年進めたと言われている超がつくほどの天才だ。


本来ならば日本に留まる器ではないのだが、実際海外にいる方が長いのだが、俺の身体の診察のために今日一日をオフにしたらしい。


ハル姉一日貸切りなんて一体何億つぎ込めばいいんだよ。


「ハル姉久しぶり、こんなんですが、こちら元お兄ちゃんです」


「元じゃねえだろ!?現役でお兄ちゃんだ。」


「今では妹として、特殊な訓練を受けています」


「危ねぇ奴みたいなのやめろ!」


「ふっ、相変わらず仲がいいなお前らは。まあ入りな」


そう言ってつかつかと案内してくれるハル姉の。


やべえよ神様。二歳差なのにハル姉超かっこいいよ。この差って一体なんですか?


……………………。


しばらくして、ちょっと歩いた先に何だか色んな実験道具がある部屋へ案内された。


「それじゃあ明日香、居間の方でくつろいでてくれ。ちゃちゃっと調べて見るから」


「わかったー!二人とも後でねー。」


「…………なあ、ハル姉。これって痛いこと何も無いよな?」


「ふっ、心配するな。麻酔とアドレナリンを適量入れておけば目を開けたままとんでもないのが見られるぞ?」


「痛いのはいや、嫌ーー!」


まるでマッドサイエンティストに身体を弄られる哀れなモルモットの気分だ。……ハル姉本当に大丈夫だよな?


結局その日一日、といっても十分くらい、研究所からは悪魔のような声が聞こえたという。


……………………。


「あ、お兄ちゃんおかえりー」


どんよりとした姿で帰ってきた俺を待っていたのは、居間でス〇ブラのコンピュータをフルボッコにいている残忍な妹の姿だった。


そのコンピュータはレベルMAXでそれ以上強くなれないんだからやめてやれ!


「これね、凄いんだよ?ハル姉がチート使ってくれてるからコンピュータのレベルさらに強かったんだー。楽しかったー」


コンピュータさらにレベル上がるのかよ!?


てか十分(じゅっぷん)でなんてことしてんだ!コンピュータのプライドがズタズタじゃねえか!


「なんで梨斗が美少女になったかって事だが…………」


ゴクリッ


先程までとはうって変わり、これもまた兄妹そろって生唾を飲み込んだ。


「わからん」


「そっかー。さすがハル姉、わからないかー…………え、今なんて?」


「わからなかった……の?」


「結論から言えばな。よくある事だ。未だに解明されてない事なんてざらにあるし、初めから分からなくてもそれが当たり前だっていう気ぐらいで診察してたからな」


「やっぱり十分(じゅっぷん)って手抜きだっただろー?これだから天才はもーまったく、お母さんそんなんじゃ許しませんよ!」


「うちの母さんは不倫で家を出てったわ」


すみません、そうとは知ってて悪気があって。


ちょっとしたジョークの出来心だったんです!


「そっかー、天才でも難しい事ってあるんだね」


「ただ、元に戻る方法なら無くは無いかもしれないな」


…………え?何それあなたは神様ですか?


人の性別すら変えられる神様なのですか?


「まあと言っても試作段階だった薬品があってな、死ぬ確率は99.999パーセントだ。」


「なんだよそれ!冤罪訴訟以上の確率じゃねえか!0.099パーセント多いじゃねえか!」


「だから言っただろう無くは無いと、ただ危なすぎる橋だってことだ」


いや、良くよく考えたら認可貰ってないやばい薬なんて服用させたらハル姉も捕まるじゃん、誰も喜ばねえよ!


「ちなみにこの薬一応認可貰えたから飲んでも大丈夫だぞ!」


誰だそんな危ない認可出したヤツ!断固抗議してやる!俺が死んだらあの世から賠償金請求してやる。


「まあとにかく、明日一応大幾つか薬飲ませるからそのつもりで」


「それ、危なくないよな…………?」


「……………………………………。」


「ハル姉何とか言ってくれー!」


「やったー!百人組手でチートクラスの相手フルボッコにしてやったわ!さっすがあたしのカー〇ィ!」


「お前、今度は一体何やってんだよ……てか面白そうだから俺もやらせろ!」


結局その日、ハル姉の家に泊まることになり、俺の診察も延長することになったのだった…………。

次NEXT──美少女のシレン

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