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アヤカシ異聞アウトサヰダァ  作者: あわじ
羽衣荘奇譚
6/7

四頁目


『華錦の怪』騒動から約1週間後。

おそらくあの女学院は今頃、中間考査の真っ只中であろう。


5月も中旬に差し掛かった頃。


人間姿で荷物を持った雛子は、ある洋館の前に、先日出会った彼らと共にいた。


「……ここは?」


とりあえず、深雪に聞いてみる。すると彼は笑顔で即答した。


「妖だらけの下宿先・羽衣荘だよ!」


そんな満面の笑顔で答えられても……

しかし、その羽衣荘とやらの造りは思ったより素晴らしいものだった。構造は雛子が生まれた時代に造られた和洋折衷の洋館に似ている。外観は観音開きの茶色いドア以外は白く、装飾もそう派手でなくシンプルで好感が持てる。

中に入っても玄関から奥へコの字のように造られた構造はシンプルで分かりやすい。部屋も多く、1階はリビングなどがあって少ないが、ここからでも見える2階の様子をみると15人ほどは住める数がある。


「いらっしゃい、君が雪の言っていた新しい下宿人さん?」


目の前の暖簾の奥から、右京少し身長が低いくらいの青年が顔を出す。特徴的なのは栗色の癖っ毛と、白いワイシャツの上に来た『羽衣荘』と襟に書かれた黒の法被か。あからさまに羽衣荘の住人であることを主張しているかのようだ。


「俺は『(さとり)』。この羽衣荘の管理人みたいなことやってます」


覚に小さく礼をされ、雛子も自己紹介をする。その直後すぐに覚がどのような妖か気づき、一歩退いた。

覚。簡単に説明すると他人の心を見透かす力を持つ妖である。

しかし彼自身曰く意識しないと読み取ることはできないため安心してほしい、と言われ、彼からも読み取ろうとする素振りもないためそれを信じるしかなかった。そして、早速だけど、と覚に促され部屋へ案内するために2階へ上がっていった。

取り残された深雪と右京は、とりあえずリビングのテーブルを囲んで椅子に座る。

そこに、階段から降りてくる男女が2人。


「あーあ!これで12連敗かよ、つまんね〜!」


紺青のストレートヘアと虎が描かれた黒のスカジャンが目立つ女性は、頭の後ろに両手を回して何かに白けたらしい言葉を放つ。


「ははは、残念だねぇ」


勝気そうな彼女とは真逆に、呑気な黒の天パの男は白いノーカラーシャツに黒のベスト、そして管理人と同じく例の法被を肩にかけている。その片手には小さなサイコロが2、3個見える。おそらくギャンブルで扱うものだ。

彼らは昼間から賭け事を行なっていたと考えると、深雪と右京は冷たい目を彼らに向けた。


彼らは深雪と右京に気づくと、顔を明るくさせてこちらへ寄ってきた。まず話しかけてきたのは男の方だった。


「君達が新しい住人さん達だね?僕はこの羽衣荘の大家。どうぞよろしく」


ギャンブラーが大家などやってたまるものか、と2人は内心同じことを考えた。

自称大家は深雪の隣に座ると、にこにこと2人を見た。それに我慢できず深雪が、話しかけた。


「……あの、何ですか?」


深雪の言葉に、男は驚いた表情を見せた。


「……君達、見たところ未成年だけど。ここの家賃は出せるのかなって」


家賃。

賃貸物件に必ず付いてくる金銭的な契約である。いや、それは置いておいて。深雪と右京はまさか妖の集まるこの場所でその言葉が出てくるとは思いもしなかったのだ。


「ていうか、君達何の妖かさっぱり分からないんだけど……」


男が顎に手を当てて考えていると、女の方が右京を見て答える。


「……お前に至っては妖じゃなくて人間だよな?」


右京はそれには答えずそっぽを向いた。妖2人にも深雪と右京の出会いを聞かれたが、それはまた後日。


「宮間……宮間って確か、ここらで有名な旧家だったね?あのバカでかい敷地を持ってる……」

「ああ〜!先祖代々、祓魔師やってるっていう?」


妖2人の言葉に右京の眉間にシワが寄り、元々悪い目つきが更に悪くなる。しかし右京は何も話さなかった。


「関係ない。確かに俺も祓魔師だが、山育ちだ」


完璧に何かあるような素振りだ。


そこに、荷物を置いた雛子と覚が戻ってくる。


「何の話?」

「ああ、覚。今ね、新しい子達の話をしていたんだ」


雛子は半妖であるため、話は早かった。家賃の話になると全く聞いていないことであったため驚いていた。


「神永深雪くん……だったね、君は?」


深雪が遂に問われると、深雪は照れ臭そうに言葉を詰まらせた。しかしすぐにその問いに答えた。


「えっと……閻魔の息子……?」


その言葉に、事情を知っている雛子と右京以外の全員が笑った。完全に信じていない。


「ほ、本当だよ⁉︎」

「なら、その証拠を見せろって!なあ⁉︎」


女が大笑いをしているその目の前に、深雪は古びた一冊の和綴じ本を出してみせた。


「なにこれ?」

「閻魔帳」

「は?」

「閻魔帳」


もう大分昔のものらしいけど、と一言つけたして深雪が言うと、一同が驚いて大きな音を立てて退いた。女がそれを開くと無言で閉じ、両手で深雪に返した。そしてその両手をそのまま深雪の両肩に置き、凄い形相で深雪に言った。


「いいか、絶っっっ対これ落とすなよ!!??」

「?はあ……」


女の顔があまりにも度肝を抜かれたような表情であったため、その場にいた全員の心がざわついた。歴史上の人物でも書かれていたのだろうか。

その事を女から耳打ちされた男は、何とも楽しそうなおもちゃを見つけた子供のように顔を輝かせ、女に耳打ちをする。すると女も目を輝かせるがすぐに2人は新しい住人3人に笑顔を向けた。


「気が変わった。君達、どうやら未成年ってだけじゃなくってワケありみたいだし。その訳はまた今度聞くとして、君達に一つ提案がある」


男がそう言うと、思いがけないことを深雪達に言った。


「家賃を君達3人分、免除してあげよう」


「「「え!!??」」」


3人はそのあまりにも驚愕の提案を受け、面を食らった。そこに男はすかさず次の言葉を放つ。


「ただし、条件がある。君達が、僕達2人が何の妖か。当てられることができたら、免除にしよう」


良い話に条件はつきものである。


「期限は1週間後。それまでに僕達が一体何者か頑張って当ててね〜」

「よし、どっちが最後まで当てられずに済むか、賭けようぜ!」


そう言って2人は羽衣荘を出て行った。

少しの沈黙の後、覚の大きな溜息がそれを破る。


「はあ〜……すまんな、3人共……あれはいつもあんな感じなんだ……」

「いえ、家賃免除ならこのくらい!朝飯前ですわ!」


雛子が返すと右京がしかし、と腕を組んだ。


「妖の特徴も見当たらず外見は人間そのもの、昼間っから外出できて尚且つ自分達が完全に不利であるのにあの自信か。一筋縄ではいくまい」


完全に右京に論破された雛子はムッとした。なら、と反論する。


「どうしろって言うのよ」

「俺はここに住まなくても構わない。元々妖共と寝食を共にしろというのが無理な話だ、1週間経ったら山に戻ってもいい」


右京の返答に腹が立った雛子は一番の怒声を上げた。


「……じゃあ、今すぐにでも勝手に出て行きゃいいじゃない!私や深雪くんと違って貴方がここにいる意味なんてないでしょう、祓魔師の実家とやらもあることでしょうしね⁉︎」


雛子の言葉に、右京は彼女を睨んでドスの効いた声を出して怒りを露わにした。


「……てめえ、言っていいことと悪いことの区別もつかねえのか!」


雛子の虹彩が茶色から山吹色に変わり口から小さな牙が見えたのと、右京が刀を手に持ったと同時に深雪が間に入った。


「まあまあ、2人とも!今は争ってる場合じゃないでしょ!ね!タダ暮らしできるチャンスなんだから!3人で力合わせよう!」


しばらく、不安ごとは多そうだと深雪は小さく溜息をついた。


羽衣荘の構造は興雲閣をモデルにイメージしています。

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