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野良猫は、家族になれますか  作者: 風音沙矢
3/6

野良猫は、家族になれますか 03


 メジャーデビューの為の、レコーディングが新人としては幸運にもロンドンで行われ、順調に進んでいるころ、圭が所属した事務所の社長佐山から、連絡があった。指定された時間に事務所に行くと、いきなり言われた。


「圭と別れてくれないか。慰謝料として、ここに100万ある。」

事務所に呼ばれた時から、きっとこんなことだろうと思っていたけど、ほんと、ドラマみたいなことあるんだね。

「私、圭と交際していたわけではありません。」

「えっ、そんなわけないだろ。じゃ、なんで、同棲しているのさ。」

「同棲? 同棲なのかな?

同棲じゃない。圭は、野良猫だもの。」

「いいねえ、野良猫か。」

佐山が笑った。

 自分で言っておきながら、結構、傷ついている私がいた。なんだか、すごく悲しくなって、呼び止められたのに、そのまま黙って事務所を出てきてしまった。


 私は、自分の本当の気持ちと向き合うことを、無理やり止めた。

「アパート解約しよう。

どこか別の場所、探さなきゃ………。」

 圭の為には、私が姿を消すことが良いはずだ。事務的に、今、圭の為に、やらなければならないことを優先させたはず。そして、もう一度、自分に言った。

「圭は、野良猫だもん。私の物じゃない。」


 圭の持ち物は、すべて事務所へ送った。圭がロンドンに行っているうちに、すべて済ませたことになる。

「私?」

「私の生活は変わらないよ。きっと……」




 新しいアパートで、ノラと私の生活がスタートした。でも、部屋の景色が変わることで、こんなに寂しくなるなんて思わなかった。ノラも、前の家が恋しいらしい。新しい部屋になじめずに、ウロウロと彷徨っている。犬は主人と共に暮らし、猫は家と共に暮らすと言うらしいが、本当にノラにとっても、新しいアパートはきつかったのだろう。だんだんと食欲を無くして、あまり餌を食べなくなって、随分心配した。

 そして、私も同じだ。いつも一緒だったわけでもないのに、もう、本当に来ないと思うと、あのアパートに戻りたいと恋い焦がれた。悲しくて、寂しくて、苦しくて、だから、圭が使っていた食器も歯ブラシも処分した。

 圭の持ち物も、全部事務所へ送ったから、何も残っていないはずなのに、一つだけ処分できなかったものがあった。部屋を彷徨うノラの首輪には、飼い始めた時に、うれしそうに圭が付けた、圭のギターのピックが、キラキラと光って、私を泣かせている。

 ノラを抱きかかえ、毎日毎日、圭のことを考えてる。でも、このアパートに越してくる時に、テレビは処分していたし、当然ネットで検索することもない。だから、圭の今の様子を知ることはできなかった。

 私は、ぼんやりとすることが多くなって、会社の人たちにも迷惑をかけていた。


-このまま、私、だめになってしまうのかな…-


 会社からの帰り道、ふと、街頭の大型スクリーンから圭の歌が聞こえてきた。今、一番売れているハニートラップの曲と、テレビ局のMCが紹介している。3か月ぶりに見る圭にはっとした。

圭が、輝いていない。ライブハウスで聞いた時のようなエネルギーが感じられない。まるで、死んでいるようだ。

「圭、大丈夫?」

 いてもたってもいられずに、そのテレビ局へ行ったけど、出待ちの子がたくさんいるのを見て、ふっと、我に返った。


―圭に会えるわけ、ないじゃない。―


私は、寂しく苦笑いして、トボトボと地下鉄の駅へ向かった。すると、急に足音が響いて来て、いきなり後ろから抱きすくめられた。


「みーちゃん!」


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