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ゲームのやり過ぎには注意しろ

その昔、この国にはどんな敵にも怯まず、臆せず果敢に剣を振るう勇者様がいたのだそうだ。だが、その勇者様は後、一歩。後、一歩の所で敵のボス。魔王ハーデスに命を奪われたのだとか。

そしてその国からは勇者が消え、魔王とその仲間によって世界は闇へと堕ちていった。


**********


「はぁ~。やっぱ、幹部強いわぁ。残りHP三割弱って。はは…。早く回復しておかないとヤバイな。」


そんな独り言を呟きながら僕は、右腰。小さな巾着の中から回復薬を取り出す。飴玉みたいな形をした小さな薬を一粒、口の中に放り込むと赤く点滅していた体力ゲージは次第にオレンジ。中位の所で動きを止める。


「確か、この先、少し行った所に回復エリアがあった筈…。全回復はいいかな。」


少し心もとなさを抱きもしたが、持ち前の回復薬を考慮して僕は足を動かすことにした。


足を動かす度に巾着とは逆の方向にさしている僕の愛剣。名をイアスというのだがその聖剣が派手な音を鳴らす。ゲームと分かっていても筋力に自信のない僕は少しの重量感を感じてしまう。てか、ほんとに重い。

まぁ、それは脳の錯覚であり、実際の僕はただただ椅子の上で座っているだけなのだが…。


ともあれ、こんなRPGファンタジーによくあるダンジョン迷宮をあたかも本当にいるよう、感じとれているのはVR。時代。科学の進歩のお陰なのである。

今となってはゲーム機自体の生産がストップしている為、そっちの方が高値で取引されているのだとか。いつの時代も何が流行るか。何が成功するのかが分からないとは言ったものだ。


…とは言え、それは才能がある人間によって産み出された世界であり、凡人ではその世界の波に乗ることしかできない。次のステージ。次の時代。近未来など僕を始めとする数多き凡才には知ることさえままならないのだ。

だからこそ、リアルは不条理で理不尽なのだと僕は思う。

こう、ゲームみたいにどんどん強くなる訳でもないし、頑張ったところで底が見える。


お金。知識。筋力。容姿。能力。身分…。

そういったものがリアルでは既に固定されているのだ。本当に…。本当にどこまでいっても弱い者には辛いクソゲーだ。



「さてと。体力も全快したし、そろそろ体感的にもお腹が空いてきた頃合いだし、ログアウトしますかな。っと、セーブ。セーブっと…ん?」


…おかしい。というか、嘘だろ?


ログアウトの枠が消えている。いや、そんなアニメや漫画。ラノベじゃあるまいし。ゲームの中に閉じ込められたとかあり得ないでしょ?


そうも言うもいくら探してもそれらしいモノが見付からない。完全にアウト。完全にゲームの中に閉じ込められた。


「いや、ちょっ…。だって、昨日まではちゃんとログアウトできてたし…。コレ、近所のゲーム屋で大特価セールの特別価格で買ったソフトだし…。尚且つ、僕…これオフラインでやってるんですよ?」


どうして?何で?え?てか、これどうするの?どうしたらいいの?せめてこんなダンジョンの最深部じゃなくて入り口の方でこんなトラブルに陥ってくれれば…。


「うっ…」


ログアウトできない。ゲームに閉じ込められた。絶対絶命のデスゲーム。死んだらそこで即アウト。

そんな=(イコール)の脳処理が最速で行われる。

と、それと同時。身体は震え、心拍数は自分の耳に響く程の大音量を奏で出す。手の汗は気持ち悪い程に出て、湿っているし。腰にぶら下げてある愛剣は更に重さを増した様に思えてならない。

緊張が。恐怖が。虚無感が。胸を苦しませる。


どれくらいの時間が経っただろうか?いい加減、心情も思考も落ち着いてきた。とはいえ、現状は何も変わっていない。先刻まであった感情が全てが全て消えたというわけではないのだ。

だが、しかし。ここで、このままビクビク小動物が如く、震えていても仕方があるまい。オフラインの心細さをここまで感じたことはあるまいよ。ほんとに…。


「…回復アイテムは…。ボス戦もあったからな。まぁ、そうだよな。欲しかった戦利品よりもどこにでも売ってるような回復薬が欲しいと思う日がくるなんて…。」


残り数個の回復薬を片目に、涙を流したいのをグッと堪える。


「とにもかくにも。このダンジョンはボスを倒した以上、驚異となる存在はいない筈だ。僕のレベルであるならば、ここのモンスターなど取るに足らない。普通にマップを頼り、普通に外に出れば何の問題もないのだ…。ないのだよ…」


いや、ないんだよねぇぇぇぇぇぇぇぇ!ほんと、これ! (激涙)


モンスターのレベルとか変わってないよね?数とかも一気にきたりしないよね?いや、そもそも外って何?ゲームの外に出ても現状、何も変わらないよ!回復薬、大量に買って終わりだよ!


「うぅ…?もうやだよぅ。帰りたいよう。死にたくないようぅ…。」


時間が経ち、冷静になったと思っていたのだが人生そんなに甘くはない。…というか僕がただチキンなだけなのだが。一向に足も動かなければ、進行も決まらない。こんな時、アニメやらの主人公なら瞬時にこの現状を受け入れ、やるべきことを的確にこなしていくんだろうな。


はぁ~。僕にはそんな即決断。即順応なんてできる訳ないよ。ただの凡人。ただの学生。ただのモブキャラがいいところの僕が。


「神様。作者様。 人選間違えたんじゃないんですかぁー。

僕に期待しても駄目ですよぉ。未だ、この回復エリアという安全ポジでナヨナヨ。うじうじしている僕なんかに期待しても何も起きませんよー。ですから早くこんなふざけたマネは止めて僕に普通にゲームをさせて下さぁーい!」


…なんて叫んでみたものの。やはりというか当然というか何も起こらず。自分の声が反響して返ってくるだけだった。


「はぁ~ぁ。あーぁ。」


ピッ。


仕方なく目横の上ら辺の下矢印(↓)に手を持っていき、マップを開く。来た道なので分かってはいたがどこか抜け道みたいな所があるかもと思ったのだ。ここから入り口まで瞬時に移動できるような抜け穴みたいな隠し通路があったならば、神はここにいたとか言ってしまうだろう。

…だが、案の定。そんな隠し通路もなければ抜け道もなかった。

こんなことなら馬鹿みたいに高い転移アイテムを一つでも買っておくべきだった。

今の所持金を全て叩くことになろうが構うものか。お金より命。ほんとソレですわ。


とはいえ、過去を嘆いていても仕方がない。無いものはないのだ。覚悟を決めねばならない。

不安を表す為だろうか。僕の手は自然、愛剣の柄を握っていた。


「行くか…」


そんな言葉を漏らし、重い足をようやく動かす。


「あぁ、マップは邪魔だな。こんなものに目を奪われて雑魚モンスターに殺されましたとあっちゃ、死ぬに死にきれない。えぇっと…マップを閉じる為のバツ(×)ボタンはっと。…ん?」


マップを閉じようと手を動かしたその時、僕はマップに何やら赤く点滅しているモノがあることに気付く。


「こんなの前に見た時には無かったよな?」


点滅している場所はこの先。つまりは戻る。ではなく、進む。


このまま。その、点滅を無視して元来た道を戻る。きっとその選択肢こそが正しいのだろう。だってそうだ。未知で怪しいソコに行くよりも確実に少なくともここ(ダンジョン)よりも安全な町に戻った方が良いに決まっている。


だが、何で?どうしてだ?この点滅が妙に気になる。いや、気になるのは無理もない。それこそゲーマーとしてのプライド。未知なるモノを探求したいという人間の本能。そうなのかもしれない。だが、コレはそういった類いのものではなく。もっとこう何というかソコに吸い寄せられるような。そんな不思議な魅力と誘惑があるように思えた。


僕とてゲーマーの端くれだ。ゲームでこういう感覚に陥った時は大抵、トラップ。罠であることが多いことくらい理解している。

だが、コレは…。


「ぐっ…」


動かそうとしていた足が今度は別の意味で動きを止める。前か。後ろか。究極の二択。

そんなの後ろに行ってまた、戻ってこればいい。

そうだ。そうなのだ。本来の僕なら迷わずその行動に出たであろう。

だが、今は違う。命が掛かっている。それに回復薬も数に余裕があるわけではない。ソコで強敵に出くわしたとなれば確実に死ぬ。 だからこそ安直に行動ができない。


「ふぅ~…」


時間としては五分位であろうか。答えが出た。



「先に進もう。後ろだ。」



やはり、点滅が気になった。

どうせ、ここから出た所で何か考えがあるわけではない。ここを出れば当然、ダンジョンボスは復活しているだろう。そうなればきっと。いいや、絶対に僕はココに足を運ぶ事はないであろう。というか、ダンジョンとか敵がいるであろう所には行かないと思う。宿屋で引きこもっているのがオチだ。

ならば、心残りは無くすに越したことはない。チキンの僕が珍しくも恐怖に立ち向かうのだ。こんなことは滅多にない。


ここで死んだら僕の人生はここまでだった。運がなかったということだ。


…いや、待てよ。そもそもこんな事になっている時点で運なんて無くね?


・・・・・・・・・・。


「ヤバイ!ヤバイ!カッコ付けすぎた!チェンジで!チェンジで!さっきまでの僕はチェンジで!戻ります!前に前進!安全かつ、絶対のニート生活に戻ります!!!」


が、時は既に遅し。僕の両の足は点滅がなっていたその場所に到着していた。

何でソレが分かったかって?

だって、ソコには


「…何だコレ?Save Point…?セーブ…ポイント…。」




「セーブポイント?」




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