ゆでタマ竜のお昼猫
「ん?」
海神家、庭。いつもひなたぼっこをしている太陽神のニャーが、珍しく外界の音にぼんやりと顔を上げた。
現在他の猫神たちも、ぼけーっとひなたぼっこ中である。
「どうしたのですか?」
すぐ横で、まるで夫婦のように寄り添って寝ているアミャテラスが、眠たそうに声を出す。
「猫っぽい声がするのにゃ」
「猫っぽい、ですか? 猫ではなく」
問われて頷くニャー。その直後に、「キャァ」と言う渦中の声がした。
「本当ですね。猫っぽい、それも子猫のようです」
続けてパタパタと羽をはばたかせているような音。それがこの場所に近づいて来ているのも聞いてとれる。
ほどなく、その声と音の主が二匹の視界に入った。
「……子供の」
「竜、ですね」
1mほどの高さで飛行していたその子供のドラゴンは、ゆっくりと下降し、「キャァ」と言う疲労の息のような声と同時に着地する。
「お疲れのようですね」
予想外の客人と、その愛らしい声と様子にアミャテラスは表情を綻ばせる。
「どうしたのにゃ?」
ちょこちょこと短い足で自分たちの方に向かって来るドラゴンに、ニャーは思わず声をかけた。
ニャーの声に答えるように、ドラゴンはニャーの前まで来ると 徐にニャーの手 前足にポンポンと触れる。
そのまま眺めていると、キャァっと嬉しそうに一鳴きした後、ドラゴンはニャーの腕にほっぺたをスリスリし始めた。
「ニャーはわたくしたちに比べて、ふわふわですからね」
されるがままになっているニャーを見て、ひだまりのように穏やかに言うアミャテラス。
ひとしきりニャーの腕でもふもふを堪能したドラゴンは、少しトロンとした表情で、ニャーの顔を見上げた。
「どうしたにゃ?」
その意図を捉えられずにいると、ドラゴンは徐に飛び上がり そのまま小さな翼をパタパタはばたかせて滞空を始めた。
かと思えばそのまま直進し、くるっと反転する。何事かとニャーは首だけを向けて、アミャテラスといっしょに様子を見守る。
ドラゴンは、また現れた時と同じようにゆっくりと降下し、ニャーの背中に着地。まるでニャーのまねをするように丸まると、ドラゴンはそのもふもふの布団に体を埋めて、すやすやと寝息を立て始めた。
ニャーの色に隠れてしまい、ドラゴンの姿はよく見ないと見ることができなくなってしまっている。
「あら、寝てしまいましたわね」
「子竜もこのひなたぼっこの気持ちよさに目覚めたんだろうにゃ」
「それもでしょうが、ニャー。あなたのふわふわの毛に魅せられたんですわ」
「そうなのかにゃー?」
「ええ」
ほんわかと、今自分たちを温めている日差しのような気持になった二匹の太陽神は、朗らかに微笑する。。
ほどよい重みを背中に感じているニャーは、いったいこの竜はどこから来たんだろうにゃ、などと考えながら
ドラゴンの温かさと太陽の温かさに瞼をふんわりと閉じて、そのまま眠りに落ちて行った。
「本当に、かわいらしい珍客ですわね」
改めてニャーの背で丸まる子供の竜を見て、また微笑む大神は母親のように暖かであった。
おしまい。