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入学式 その1

 


 夜が終わる間際、空が白澄む。透明な空気が心地よさげに光を吸い込んでいた。


 早朝、僕は腹部に衝撃をうけて目を覚ました。


「ちょっとあんた!いつまで寝てるわけ?今日は記念すべきアカデミーの入学式なのよ!早く準備なさい!」


 何をしたのかわからないが、ベッドの横に仁王立ちをし、左手を腰に当て右手を僕に指差している少女がそこにいた。


「はぁ、あのな俺はお前の付き人じゃないんだぞ?朝もこんな早く起こさなくたって入学式に間に合うように起きるっつうの」


 踏ん反り返る少女――コハルはその言葉を聞いてあからさまなため息をついた。


「あんた今何時かわかってるの?あと2時間もしたら入学式が始まるのよ?ここからアカデミーまで30分はかかるんだからそろそろ起きるのが普通でしょ!ったくスイハに頼まれなかったらあんたなんか起こしにこないってのに」


 その後も「なんで私が」とぶつくさ文句を垂れている。

 コハルが善意で僕を起こしにくることは考えにくい、スイハの頼みでというのは納得できる理由だ。


「一応聞いてもいいか?」

「なによ」


 警戒色を一気に高める。別に何もしないんだが。


「時間ってどうやってわかるんだ?」

「はぁ?あんた時間もわからないのに間に合うように起きるとか言ってたわけ?信じらんない」

「いいから教えてくれよ」


 はぁとため息をついてから話し始める


「簡単なことよ、まずが時計(クロノス)使えるのなら最初は魔力使うけど24時間はそのあといつでも時間の確認ができるわ。まぁそれも面倒な人は時の加護を受けたアクセサリーとかをつかって呪文を唱えればわかるわよ」


 ここでも魔法か。


「魔法が使えない人もその呪文とやらを言えば使えるのか?」


「魔力を使うとかじゃないから大丈夫よ、あくまで時の加護の恩恵をうけるだけだからね、そんなことより早く起きて準備しなさいよ。下でスイハが待ってるんだけど」


 そうだったな、いつものようにのんびりというわけにもいかないんだな。


「それを先に言ってくれよ。とりあえずありがとう、コハル。すぐに降りていくから先にスイハとご飯でも食べててくれ」


「あんたのお礼なんて死ぬほどいらないわね。まぁいいわ、早くするのよ!」


 コハルらしい反応だ。素直になれないのはマセガキだからなのか、単にそういう性格なのかわからないが。


 急いで着替え、荷物をすべて麻袋へ詰め込み下へ降りていく。


 いつも座っていたカウンター席にはスイハが座り、その隣にコハルが文句を言いながらフレンチトーストを食べていた。


 エマとギドはその2人の前に立ち、朝早いのに下準備などをしている様子だ。


「おう、きたな、寝坊助!」


「テスラ、起きるの遅い。入学式遅刻、笑えない」


 まだ先に気づいたギドとエマが僕に話しかける、その言葉を聞きカウンターに向かい合っていた2人が食べていたものを置いてこちらを向いた。


「おはようございます。テスラくん、コハルが粗相しませんでしたか?」


「ちょ、ちょっと!スイハ!おかしいでしょ!私が起こしに行ったのにそれはひどい!しかも粗相って!せめて迷惑にして!」


「似たようなもんでしょ?それに私が準備に手間取ってたら、あたしがテスラぐらい起こしてきてやるって自分から言って出てったのはあなたのほうよ?ちゃんと起こしたか確認するのは当然じゃないかしら?」


「それは……スイハが忙しそうで手伝ってあげようと思っただけじゃない!あたしがこいつを起こすのに何しようとスイハには迷惑かけてないでしょ!」


「あら、またそんなこと言うの?昨日散々反省させたと思っていたのに、これじゃまだダメそうね」


「い、いや、違うの。反省はしてるの!今のは言葉の綾というか、ちょっとテスラもなんとか言って私を救いなさいよ!」


 はぁ、頼まれてきたって言ってたくせに。まぁ起こし方は最悪だったけど時間のことも教えてもらったから救ってやるか。


「あー、スイハ?コハルはちゃんと起こしてくれたしそこらへんにしといてあげてくれ。せっかくの入学式に泣きべそかきながらは流石に……な」


「そうですね……そうおっしゃるなら大目に見ましょう。なんでかテスラくんにはツンツンしないと済まないようですしね」


 いたずらに笑うスイハにコハルが顔を赤くし「そんなことない!」と言っている。


「ガハハ!いやーテスラは垂らしの一面があったとはな!」

「む、よくない。テスラ、非常によくない」

 ギドは笑い、エマは少しむくれている。


「えっ、いや、そんなことないですよ!エマさんもなんでむくれてるんですか!」


 騒がしい朝はなんだか嬉しく、楽しい。異世界に来て久々に感じる気持ちだ。


「それにしてもテスラくんに会えてよかったわ。こんな美味しいご飯が食べられるなんて……コハルの身勝手もいいことに繋がることがあるのね」


 フレンチトーストを食べながらスイハがつぶやく。

 たしかにそれ絶品だからな。他にもエマが作る料理は一級品で美味しいものばかりだ。


 ただーー

「い、いや、スイハさん?僕、被害にあってますからね?」

 コハルの身勝手に付き合った僕の身にもなってくれ。


「うふふ、そうでしたね。ごめんなさい」


 スイハは人を弄ぶのがクセなのか、時折イタズラな表情でからかってくる。


「テスラのくせにこんな宿にずっと泊まってたなんて。あたしたちにもっと早く教えなさいよね」


 コハルはコハルで相変わらず身勝手なことばかり言っている。

「いや、1人で外を歩いたの昨日が初めてだから。それまで、ずっと宿に籠ってたから教えようがない」


「あら、籠ってなにしていらしたの?」

 スイハが食いついてきた。

「えっと…勉強してこの国の知識増やしてた」

「テスラくんはこの国の出身じゃ?」

「あーいや、ちがうんだ。まぁこの話は長くなるからアカデミーに行ってからにでも話すよ」


 今話すといろいろと粗が出てるからな。まだ話さない方が身のためだろう。

「楽しみにしてますね」

 スイハは静かに薬草茶を口に運んだ。


「まぁ髪の色からして珍しいわよね」

 フレンチトーストを口いっぱいに入れてコハルが割り込んできた。


「そうなのか?」

 まぁたしかに黄色だからな。でもそう言うコハルだって黄緑だ、おかしいだろ。


「ほんと世間知らずなのね。私の髪色なら結構いるわよ、エルフの血が少しでもあるとこの色になるの!」


「コハルはエルフなのか?」


「ちがうわ。何代も前のエルフの血が混じてるだけ。ハーフエルフでもクォーターエルフでもない、エルフの物真似ぐらいな感じよ」


「ふーん、そうなのね。髪の色でもそういうのわかるのか」


「まっそういうのはおいおい知ってけばいいんじゃねぇか?付き合いは長くなるもんだ!」

 ギドが飲み物をもってきた、随分と小さなコップだが。


「ところで、こんなに喋りながらのんびりしてていいのか?ここからだとアカデミーまで少し時間かかるぜ?」


「「「あっ」」」


 僕もスイハもコハルもゆったりと食事をしてしまっていた。

 急いで行くほどの時間ではまだなさそうだが、談笑していられるほど時間はないだろう。


「そうでしたね、コハルで遊び過ぎてしまいましたね」

「だな、コハル遊びのせいだな、これは」

「ちょっと!いつそんな遊びしたのよ!記憶にないわよ!あんたはなんかいやらしい感じがするし!」


 僕の方を見ながら体を腕で隠す仕草をする。


「ふ、ふざけんな!お前なんかそんな目で見たことすらないわ!」

「触ったことはあるくせに」

「こ、このやろ」

「ふふっ、それぐらいにしなさい。そろそろ出ないと走っていくことになりますよ?」


 スイハが止めに入った。初めてコハルに負けた気分だ。元の世界での女性経験のなさがこんなところで影響してくるとは。ついムキになってしまった。


「仕方ないわ、スイハが言うならやめてあげるわ」

 コハルの高飛車な態度がいらっとさせる。

 しかし、何か言おうにもしっくりくる言葉がなく黙って頷くので精一杯だった。


「最後にこれ一気に飲んでいきな!」

 さっき出した小さなコップの液体を飲むようにギドが進める。

「これは?」

「お前らの入学の無事を願って作った飲み物だ!飲め飲め!」


 僕たちは互いに目を合わせ、そのコップを手に取り一気に飲む。


 味は普通のお茶のような甘さも苦味もない味だ。ただ飲み終わった後に喉から胸にかけてが焼けるように熱くなる。

「こ、こ、れは、なんな、んですか?」

 掠れた声で聞く。


「まだ喋らない方がいいぞ、テスラ!これは魔力を安定させる薬、マナポーションってところか?お前らの適性検査が上手くいくように俺からの餞別だ!」


 次第に熱さが引いていき、それが身体中を巡っていくのがわかる。魔力の流れというものだろうか?血液とは違う不思議な感じだ。


「マ、マナポーション!?なんてもの…なんで私たちに!?」

 スイハが慌ててギドへ駆け寄る。

「どうしたんだ?スイハ?何かまずいのか?」

「まずいどころではないわ!テスラくん!このポーション1ついくらか知らないの!?」


 そんな高いのか?チラッとコハルを見ると借金地獄に落とされたような顔をしている。


「えっ、そんなにやばい値段なのか?」

「ポーションはそんなに高くはないけど、マナポーションは家が一軒建てるぐらいの値段よ!!」


 おー、この世界で家一軒ってどのくらいなんだろうか?


「ガハハ!嬢ちゃん心配すんな!金なんか取ったりしねぇよ!これは餞別だって言ったろ?それに…」

「私が作った。自家製マナポーション。お金ほとんどかかってない。」

「ってなわけだ!エマに感謝してくれればそれで十分だ!」

 コクコクとエマが頷く。


「ありがとう、エマさん!なんだかすごい力が湧いてくるようだよ!」

「ガハハ!だろ?エマのマナポーションは普通のよりも効果がよくて、使うとひと月は魔法使ってても疲れないんだよ!まぁ1ヶ月に1回以上飲むと魔力制御できなくて魔法がしばらく使えなくなるらしいからな、よっぽどの効果だろ?」

 僕とギドが笑って話してる横でスイハとコハルは口をパクパクとさせてただただ唖然としているしかなかった。



 2人を正気に戻した後、すぐに宿から出る準備をした、といっても荷物を持っただけだが。


「それじゃあ、ギドさん、エマさん!行ってくるよ!」


「おう!いつでも遊びに帰ってこいよ!お前ならいつだって歓迎してやるぜ!」

「いつでも会える」

 ふふっとエマが怪しげな笑みを浮かべていた。


「??よくわかんないけど、そうだね!この街にはいるんだもんね!一週間だけだけどお世話になりました!!絶対また来ます!」


 おう!とにこやかなギドと小さく手を振るエマを後ろにアカデミーへ向かった。


「さっ、行こっか!スイハ、コハル」


「ええ、まだ心の整理が追いつかないですけど。少し急いだ方が良さそうですね」

「私もなんだか納得できてないけど飲んじゃったものは仕方ないものね」

「そうですね、ギド様とエマ様のご厚意に答えるためにも遅刻しないようにしないとね」

「よしゃ、切り替えていくわよ!」


 そう言ってコハルが小走りするのを僕とスイハは追いかけるようについていった。



 ーーーーーー



「エマ、ちゃんといわなくてよかったのか?」


 テスラとその友達が見えなくなったあたりでギドがつぶやいた。


「問題ない。それらしく匂わせた」

「いや、匂わせたってテスラ、不思議そうな顔してたぜ?」

 ははっと苦笑を珍しく浮かべる。


「いい、どうせ後で納得する。それに私が一緒だと贔屓されてると勘違いするバカ貴族がいる」


「うーん。まっ、否定はしねえがな。あいつらならそんぐらいなんとかしちゃいそうな雰囲気あったから心配しなくてもいい気はするがな」


「心配はしてない。ただ私が原因でテスラに嫌われたくない」


「ぶっ!ガハハ!そ、そうか!そんなにあいつを気に入ってたのか!ガハハ!そりゃ珍しく慎重にもなるわけだ!」


「あの子は多分なにか持ってる。それこそ何か私を惹きつける何かを」


 その言葉を聞いたギドの顔は真剣なものに変わる

「それは…いい意味でか?」

「わからない。でも普通じゃないのは確か」


「帝国の回し者ってことは……ねぇな。もっとうまくやるだろうしな」


「うん、それに今更私を狙って帝国が動くことはないはず。ギドがいる」


「そんなに俺を信用してくれるのはありがてぇな。まぁなんにせよ、お前さんはテスラから目を離したくないわけだな!可愛い弟みたいに扱ってたしな!マナポーションまでやっちまうんだからな」


「そう。テスラは私が守る」


 フンスッと鼻をならして気合を入れてるエマをギドが優しく見つめる。


「あのガキが随分と成長したもんだ。ほれ、お前もそろそろ行かないとだろ?あいつらにバレないように行けよ!」


 頭をぐしゃぐしゃと撫でたあと背中をポンっと叩いた。

 それがくすぐったく感じたエマが誤魔化すように喋る。

「今日は少し遅くなる。お店任せる」


 そう言ってテスラたちの向かった方へエマも向かい始めた。


 そんなことをテスラたちは露程も知らずに……。



 ーーーーー



「はぁ、はぁ、はぁ…」


 先陣を切って走っていたコハルが息切れをしてふらふらと歩いている。


 その姿を後ろから見ながら早足でスイハと僕は歩いていた。


「あいつ、やっぱ後先考えずつっぱしるのな」


「そうですよ、テスラくんも近くにいて初めてわかるでしょ?コハルの馬鹿さ加減に」


 やれやれと言った感じでスイハはため息をつく。


「まぁ…な。でもそれがあいつのいいところでもあるんだろ?」


「だとしても毎回付き合わされる身としては少し自重してほしいとは思いますよ?」


 それもそうか。毎度あんなに突っ走って迷惑かけられる身になることを考えると……うん、めんどくさい。


「スイハはよくあいつと付き合っていられるな」


「これでも幼馴染ですから。切っても切れない関係なんですよ」

 そう言ってふふっと笑うとスイハは小走りでコハルに近づいていった。


 幼馴染ね。簡単に切れない関係ってのは結構大事なもんだしな。


 追いついたスイハがふらふらのコハルに手を差し伸べ何かを言っている、さすがに疲れているのかコハルは頷く程度で言い返したりはしてないようだ。


 そんな姿を後ろから見ていると二人がこちらを向いて手招きする。

 早く来いってことか、二人の元へ駆け寄るように走っていく。


「お、そいわ、よ。テスラ」

 まだ呼吸が整ってないコハルが精一杯の強がりを見せる。


「悪いな。でもマナポーション飲んだからって体力が増えるわけじゃないからな」

「わ、かってる。嫌味なら後で聞くから少し肩貸して。ちょっと疲れてダメかも」

「まだアカデミーにもついてないってのに、はしゃぎすぎだろ。はぁ、ほら、おぶってやるから乗れ」


 コハルの前でしゃがみ乗りやすいように前屈みになる。


「そ、そこまでは…してもらわなくても」

「お前に合わせてたら間に合わないだろ。ほら、早く」

「そうですよ!せっかくテスラくんがおぶってくれるって言ってるのになんて羨ま…ゴホンッ、善意に従うべきですよ」


 冷静に言ってる感じだしてるけど隠し切れてないぞ、スイハ。


「くっ。しっ仕方ないわ、このままじゃ間に合わないんだし、それに別に私がしろって言ったわけじゃないんだし!」


 大丈夫、大丈夫とつぶやきながらようやく背中に乗ってきた。


「よいしょっと。んじゃとっととアカデミーまで行きますか!」

「そうですね、行きましょ」

「このまま校舎までいけばコハルはおぶられてきた恥ずかしい子ってことになるしな!」


 満面の笑みで俺が言ったことがコハルをプルプルと震わせた。


「な、なんてことを!やっぱり降りる!!肩でいいから!無理!死ぬ!」

「はっはっは!おろすわけねぇだろ!さぁスイハ!レッツゴーー!」

「ふふっ、コハル観念なさい。休憩にもなるんだから甘んじて受け入れるのよ」

「いーやーーーーー!!」


 叫ぶ声も無視してスイハと僕はアカデミーへ急ぎ足で向かった。



 校舎を見るのは2度目だが、やはり荘厳な雰囲気が漂い思わず息を飲んでしまう。

 建築美というものはきっとこういうものを表す時に言うのだろう。


 校門前には入学生と思しき人が大勢おり、門前のところでは名簿確認を数名の教師らしき人で行なっているところだった。

 親と来ている人もいれば、馬車で乗り付けている貴族と思わしき人もいる。

 身分差があまりないのか、名簿確認待ちの列はごちゃ混ぜで貴族が優先されるということもないみたいだった。


「うわー、結構並んでんな」

「そうですね、待たないとダメそうですね」

「ねぇ、そろそろおろしなさいよ。恥ずかしいじゃない。もう歩けるから」


 コハルをおぶっていることを忘れていた。

「悪い。もっと早くおろそうと思ってたの忘れてた」

「いいわよ、別に。ありがとう、ここまで運んでくれて」


 コハルから素直にお礼を言われるとなんだか気持ちが悪いな。


「いえいえ。さて、これが終わるまで入学式が始まることはないだろ。遅刻扱いにはしないだろうし気長に待とうか」

「名簿の確認だけのようですし、意外とすぐに入れるかもしれないですね」

「それにしても人が多いわね」


 そうなのだ。想像よりも人の数が多いのだ。


「なぁ、何人ぐらい入学するか知ってるか?」

「確か毎年1000人以上らしいですよ?各国から来てますからね」

「ひゃー1000人以上か。友達になれるかしら?」


 コハルの言葉は置いといて、1000人か、多いもんだな。


「1年も経てば半分以下になるらしいですけどね」

「えっ、なんでだ?せっかく入ったのに」

「噂ですけど……ランク上位と下位に待遇差があるらしくて。結構酷いものらしいです」


 ランクカーストとでも言えばいいだろうか?

 身分差がない代わりにそんなものがあるのか、話ではそんなこと聞かなかったけどな。


「あくまで噂ですからね、力の差でやめる方も多いという話ですからそこに尾ひれがついただけかもしれませんし」

「それでも全くない話ではないってことだな」

「嫌な感じね。魔法使えなくても立派な人たくさんいたってのに」

「そうね、魔法で決めるのは浅はかよね」

「2人のいたところでは使えない人が多いのか?」


「いえ、使えた人の方が多いですよ?ただ使えない人も専門的な分野では魔法が使える人よりもすごかったりするので一概に差別するのはしないですね」


「だよなー、俺も聞いた話だとそういう差別はしないって話だったからな。力の差のせいってのがやっぱり大きな理由になってそうだとる思うけど…」


 まぁこればかりは入って自分の目で確かめないことには答えはでないだろうな。


「適性検査でいい結果が出ることを祈るしかないですね」

「だな。そこで悪ければやめる半数に仲間入りの可能性がぐっと高まるからな」

「なんだか緊張するわね、そう考えると」

「でも適性はもう生まれつき決まってるんだろ?変えようがないんだし、ここまで来たら気楽にいこうぜ」


 能天気に演じては見るが、多分この中で危ういのは自分だ。他人の体でましてや名前しか知らないのだ、ハズレの可能性は十分高い。


「ほら、順番きたぞ」


 それでも誤魔化すしか今できることはない。どう転ぼうと流れに身をまかせるしかできないのだ。


「入学者の確認をさせてもらうぞ」

 イヌのような風貌に全身は黒と灰の毛並みで背の高い獣人が門前に立ち話しかけてきた。

 赤黒いローブから見える大剣がこの獣人の力強さを指し示している。


「この石碑に手を当てて名前を言ってくれ」

 僕らほどの高さの石柱には何やらよくわからない文字や紋様が書いてあった。


「さぁ、時間がないから早くしてくれよ!そこの着物の女の子からどうぞ」

「は、はい。水面(みなも)スイハです。」


 かざした手に何か変化があるわけではないがイヌの獣人はじっと石柱の上の方を見て確認している。


「よし、オッケーだ。目の前に見える大聖堂へ向かってくれ、そこでまず式典を行う」

「はい、わかりました。ありがとうございます」


 律儀に頭を下げ校門を抜けたあたりで僕たちのことを待っていた。


「次はエルフの君!」

「は、はい!日和(ひより)コハルです!」


 スイハと同じように確認したあと同じく大聖堂へと言われコハルもスイハの元へ駆け寄っていった。


「次は金髪の君だな!」

「日向テスラです」


 問題ないだろう、おじさんが入るようにしたって言ってたしな。


「ん?日向テスラ?本当に君がそうか?」

「え、ええ。僕がそうですけど」

「申し訳ないが、君は大聖堂よりも先に行ってもらうところがあるらしい。ちょっと待っててくれ」


 そういうとイヌの獣人が隣にいる同じ赤黒いローブを着た女性に話に行った。


 門を超えたところにいるスイハとコハルは何があったのかとそわそわしている。


「スイハ!コハル!なんか先に行かないといけない場所があるらしいから大聖堂に行っててくれ!後から合流しよう!」


 聞こえる大きさの声で喋りかけると2人は頷き、そのあと何回か振り返りながら大聖堂へと向かって行った。


「待たせたな。」

 先ほどまで来ていたローブを脱いで戻ってきた。

「連れの子たちは…先に言ってもらったか、すまないな」

「いえ、それで僕はどこへ?」

「んー、着いてからの秘密ってことにしてくれ。そもそも君がなぜこんな扱いなのか俺にもわからないからな。どこまで言っていいのか正直わかんねぇんだ」


 異例ってやつか、変なことに巻き込まれなければいいんだが。


「まっ、怖いところではないから俺の後についてきてくれ」


 そう言って歩き始めたイヌの獣人を追うように僕はアカデミーの門をくぐった。




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