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入学前日 その1

 


 その日夢を見た。



 朝、アラームの音で目を覚まし、時計を確認する。


 いつものように学校へ遅刻しないか、ギリギリの時間の起床だ。


 リビングに出された朝食を急いで食べ、制服に着替えて家を出る。


 駆け込みセーフで教室へたどり着いた時にはすでにヘトヘトだ。


 そんな姿に友達たちが笑ってからかってくる。


 授業が始まれば友達と喋ったり、つまらない授業では居眠り。


 もちろん、ちゃんと受ける教科ももちろんあるが。


 昼休みには母の作った弁当を喋りながら食べる。


 午後の授業は満腹からくる睡魔と闘っているうちに終わりの鐘を告げていった。


 放課後は数人でカラオケへ。


 夕飯前に帰宅をし、制服をハンガーへ掛け、ラフな部屋着に着替える。


 我が家は家族が揃ってから夕飯だ。


 ゴールデンタイムと呼ばれる時間帯に食べ始めることが多い。


 今日もだいたいそのくらいの時間だった。


 夕飯が済んでしばらくリビングでくつろいだあと、お風呂へ入る。


 風呂から上がったあと、自室で流行りのゲームやSNSをする、夜はあっという間に過ぎていった。


 深夜、皆が眠りにつく頃同じように布団へ入り眠りにつく。



 毎日過ごしていた日々の夢。



『大丈夫。また会おう』



 眠りについたはずの青年が不気味に笑いながらつぶやいた。


 それが自分の知る自分じゃないことに気づいたときにはもう、意識は遠くなってしまっていた。



 ――――――――――――



 朝の目覚めは極端だ。


 スッキリと目覚めた朝はとても気分がいい。

 疲労は取り除かれ体も軽い、最高の朝だ。


 しかし眠さを引きずり起きる朝はとにかく最悪だ。

 布団から出ることすらもイヤになる。


 今朝は最悪だった。


 寝汗でぐっしょりと濡れた寝間着が不快な上、体は冷えて寒かった。


 疲れが取れたわけもなく、後から睡魔がやってくるだろうと何となくわかるほど。


 なにもかも嫌な夢を見たせいだ。


 しかし、どうにも夢の内容が思い出せず、ただただ嫌な夢であったとしかわからない。

 霧散した記憶が取り戻せない、もやもやとした気持ちだけが残っていた。



 異世界へ送られてきて数日、明日はようやくアカデミーの入学式だ。


 ここが第一関門、と思っていたのだがもっと前の段階でつまづいていることに気づいたのはこの世界2日目。


 エマと出かけた翌日、1人で外を歩いてみようと少しばかりのお金をもって出かけた時だった。


 目の前にある店名が読めないということはまず何屋なのかもわからない、ましてやお金の相場も知らないことに気づいたのだ。


 その時自分がいる世界の無知さが不安に変わり、次第に恐怖へと変わっていった。


 今の自分では何もやれることがないのだ。


 逃げるように宿へ戻りギドとエマに相談をした。


「文字が読めるようにねぇ。そういえばエマに昔買ってやったやつあったよな?」


「ある。ちょっと待ってて」


 そう言って渡されたのがひらがな表のような五十の文字が書かれたものだった。


「読み方教える。右上からさ、ち、ぬ、へ、も……」


 エマが読み上げる音を白紙の紙にひらがなで書いていく。


「……か、ろ、ん、で終わり。これでだいたい読める」


「ありがとうございます!ところでこの文字は何語になるんですか?」


「マール語。マール国が使うから、マール語。まんま。」


 たしかにそのままだな。


 表を元に文字の読み書きをすることに決めた。


 まず読めるようにしよう。


 読み方は言葉が通じていたのでもしかしたらと思い調べたところ予想通り、あ行から順に並び変えることができた。


 そのおかげで読みも書きも覚えやすかった。


 1日かからずに覚えてしまったので随分と驚かれてしまったが。


 しかし、すぐに読めるほど馴染んではいないのでまだしばらくは復習しないといけなくなるだろう。


「基礎語覚えたんなら次は略語だな」


「略語?それなんですか?」


「わかんねぇか。今テスラが覚えてきたのが基礎語だ。それだけでも文書とか作れる。ただ、いざ作ってみるとわかる思うが基礎語だけは長ったらしい文になるんだよ、そこで略語が使われるわけよ」


 ギドが言うことを聞いていくと漢字と同じようなものだというのがわかった。


「略語はかなり難しいぞ、一文字で読み方が何個かある上に合わせるとさらに増えるんだ。おりゃ途中でやめたよ!街の中歩いてりゃ自然と必要な略語だけ目に入ってくるからよ!それだけ覚えりゃ生きていけるからな!」


 ギドの考えも一理あるがある程度読めたほうがきっといい気がする。


「略語の辞書。これで覚えて」


 略語の話が出たあたりで部屋に行っていたエマが渡してくれたのはとてつもない厚みの辞書だった。


 その日から数日は略語の勉強だけで過ぎ去っていった。


 努力の甲斐あってか、小学生レベルまでは行けたと思う。

 実際外へ出て見ないと使えるのかわからないがまだ知りたいことがあるので文字に関しては一区切りにすることにした。



 まずこの世界の常識が僕には足りなかった。


 一番大事なのはまずお金に関してだ。


「そうか、価値がわかんなきゃどうしようもないからな、それに1人で買い物もできねぇのは困るな」


 そういうとギドがお金のことを教えてくれた。



 まず世界のどこでも使える通貨、共通通貨というものでエクト硬貨というものがあるらしい。


 銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨の5種類の硬貨で、相場としては銅貨1枚=約10円くらいのようだ。


 それぞれの価値は、


 銅貨10枚=大銅貨1枚=約100円


 大銅貨10枚=銀貨1枚=約1000円


 銀貨10枚=大銀貨1枚=約1万円


 大銀貨10枚=金貨1枚=約10万円


 らしい。


「昔はここに白金貨っつうのがあったんだがな。1枚で金貨10枚分の貴重な硬貨だ。これはまぁ商人とか国が高額取引とかで使ってたんだよ、金貨を大量に持ってくのは重いし、運ぶ金もかかるからな。」


 発行されてしばらくは随分と重宝されたらしい。


「ただな、盗みが多発した!いくら警備を増やされても硬貨一枚盗めたら金貨10枚になるからな!盗賊も捨て身で盗みに来たって話だ!そのうち白金貨は盗むために作られた硬貨だとか商人のなかで言われ始めてな、使用禁止にまでなったんだ。今では幻の硬貨なんて呼ばれてるよ」


 当時は相当な損失を国も商人も出したらしい。


「夢があるよな!1枚で金貨10枚はよ!おっ、そうだ今エクト硬貨の話をしたが、この国で普段使われてるのはマール硬貨なんだ」


 どうやら各国々でも独自の通貨があるらしい。


 ここマール王国も例外なく独自通貨のマール硬貨がある。


 大中小の銅貨、銀貨、金貨に種類わけされており価値としては小銅貨1枚=10円なのだが


 銅貨1枚=小銅貨10枚=100円


 大銅貨1枚=銅貨5枚=500円


 小銀貨1枚=大銅貨2枚=1000円


 銀貨1枚=小銀貨5枚=5000円


 大銀貨1枚=銀貨2枚=1万円


 小金貨1枚=大銀貨5枚=5万円


 金貨1枚=小金貨2枚=10万円


 大金貨1枚=金貨5枚=50万円


 と随分と細かく分かれている。


 ただ日本の円に似たような分け方だったのでそんなに複雑には思わなかった。


 ただエマ曰く

「普通はエクト硬貨と同じにする。この国だけ狂ってる」とぼやいていた。


 なんでもこの国にきた当初はかなり間違えてぼったくられるなんてことざらにあったらしい。


「よく高い金で粗悪品買わされてたからな!ガハハ!」


「あの頃の自分を止めたい。無駄金でいいもの買えた」


 かなり悔しかったのだろう、エマが唸っていた。


 初日ギドがエマに渡したのはこのマール硬貨だ。

 小金貨1枚と小銀貨5枚、5万5千円を渡していたことを思い出した。


「別に多くねぇだろそれぐらい。一応、店の材料費も込みで渡してるからよ。子供が持つには多すぎるかもしれねぇがな」


 物価はそんなに高いほどではないらしい。

 たしかに思い返せばなかなかの量をエマは買っていた上に食べ歩きをしてもまだ硬貨は余ってた記憶がある。


「そういえばなんでマール硬貨とエクト硬貨の2つをおしえてくれたんですか?別にマール硬貨だけでもこの国なら問題ないんじゃ?」


「そうだったな、これにはちゃんとしたわけがある!まずエクト硬貨はエンドルっつう一国のみで作られてる」


 このエンドルは特に強国なわけではないし、特に力を持っているわけではなかった。


「エンドルは鋳造技術が他の国より一日の長。ようは少しだけ秀でたんだな。そこに大国が目をつけた。普通どこでも使えるお金ってのはどんなところのを使うと思う?」


「えっと…大きい国で、流通の起点となる国のお金とか?」


「まぁそんなとこだな!でもなんで大国じゃないといけないんだ?」


 意地悪そうにギドが聞いてくる。


「それは…価値を落とさないため?大国でも攻められて国が滅亡したらそのお金の価値がなるから?」


「まぁ正解っちゃ正解かな。ただ一応どの国も金銀銅で通貨は作られてるからそもそもの価値は変わんねえんだ。大事なのは信用だ。この国のお金だっていうのが偽物のお金じゃない、ちゃんとした取引だって証明にもなるんだ」


「なら、なんでエンドルは大国じゃないのに信用を?そもそも滅ぼされる危険とかを考えたら、大国じゃないと成り立たないんじゃないんですか?」


 信用だって大国の方があるにきまってるだろうしな。


「そこなんだな、たしかにエンドルは鋳造技術だけの小国といってもいい。昔なら滅ぼされる可能性も大いにあった。けどな、この国が共通通貨発行を任されたその時から世界一安全な国になったんだよ」


 正直信じがたい話だ。


「まずだ。今エンドルを滅ぼす理由としてはエクト硬貨の独占が目的だろう。だがな、もし一国がそれを行おうとしたら他の国はどうすると思う?許すと思うか?」


「絶対許さないです。そんな権利取られたらどの国も使ってる商人だって痛手になります」


「そうなんだよ、その権利をみすみす渡すほど他国は優しくない。そもそもエンドルに決まるまで何度も権利のための争いがあったらしいからな。確実に戦争勃発、間違いなしだ」


「でも許さないからって確実に攻めてこないとは限らないじゃないですか。戦争も辞さないって国もありますよね?」


「ある、あるが攻めきれない理由があるんだ。今現在まで数ある大国の戦力には特に差がない。まぁ個々で多少の秘密兵器みたいなものはあるんだろうがそれでも確実に勝てるとはいえない、それぐらい均衡してるんだ。」


「均衡ですか」


「あぁ、それが何を意味するかわかるだろ?エンドルを攻めるにも今の戦力差程度ではどの国も一国じゃ力不足ってわけだ。攻めれば1対すべての国なんて構図になりかねないしな。」


 1対すべての国か、だが大概世界を巻き込む戦争はどの時代も複数国同士のやり合いだ。


「何国か協力してエンドルを滅ぼすとかしそうなもんじゃないですか?」


「ガハハ!テスラは頭が良いのか悪いのかわかんねぇな!そんなの協力する国がいるわけないだろ?」


 どうやら、言い切れるらしい。


「仮に半数の国がエンドルを滅ぼす計画を協力して立てたとしてもだ、その先の利点がないんだよ。戦争ってのは今よりも良くするってのが目的だ。均衡してる国同士がぶつかれば被害は甚大、もし勝ってもお金よりもまず物資が足りなくなるはずだ。そうすると協力関係の国同士でその物資の取り合いでまた戦争だ。俺でも予想のつくことを国がやるわけないだろ?」


「そうか、エンドルを滅ぼすにしても現状の治安とか流通を保ったまま権利だけ得ないと攻める意味がないってことですか」


「まぁそういうこったな。ようは国同士を抑止力にして、エンドルは全世界の国の庇護下に置かれた世界一安全な国にさせられたってことだな!」


「エンドルが手の平を返すことは……ないですね」


「それは絶対ないな、する意味がない。わざわざ世界と戦いに行くようなものだからな。別にエンドルじやゃなくても共通通貨の候補になる国なんていくらでもあるから容赦なく潰されるだろうし」


「これだけ安全さを保ったっていうならエクト硬貨を国内で使えばいいんじゃないですか?」


「それが難しい。というか無理なんだよ。前置きが長くなったがエクト硬貨は安全安心だがとにかく数が限られている。それはなぜか、最初に戻るがエンドル一国でしか作ってないからなんだよ」


「供給が間に合ってないとか?」


「そうなんだが、そもそも世界中に普段使えるほどエクト硬貨を持たせるのは現実的に無理なんだよ、生産量とかも考えると500年フル稼働しても作りきれないって話だ。だから重要な国の財政や、世界を行き来する商人()()が使うっていのが基本なんだ」


「ん?それなら別に僕は知らなくても良かったんじゃ?」


「いや、その()()ってのに冒険者が含まれてんだ。ギルドからの報酬はエクト硬貨ってのが決まってるからな!これでわかるだろ?」


冒険者養成学校(アカデミー)に行くんだからってことですよね?冒険者の素質のあるなしにしろエクト硬貨は知ってて損はないわけですね」


「そういうことだな、とりあえずお金に関してはこんなところか」


 あとは自分の目で確かめながらぼったくられずに買い物できるかだな。


「慎重にお金は使うようにしときます」


「ガハハ!そうしとけ!間違えないようにな!」


 これで外に出ても問題なく歩ける知識は得ることができたのだ。



 一安心したところにエマがやってきた。



 この世界の更なる常識、そこで夢にまで見た魔法の知識をこの後、得ることになる。



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