文化
一歩、外へでるとやはりそこは知り得る街とは違う別世界にいることを実感させられた。
上から見ていたトカゲや鳥が目の前で通り過ぎていく。
今までこんなに間近で人より大きな生き物を見る機会がなかった。
おそらく見ていても空想上、いるはずないと思っていた生き物が目の前にいるのだからきっと驚きは隠せなかったと思う。
それは思わずエマの手をぐっと握ってしまうほどだ。
「ドラグニカとミューの馬車。安全。人は襲わない」
その力みを察したのかエマは説明してくれる。
ドラグニカがトカゲで、ミューが鳥らしい。
「そ、そうなんですね。すいません、ちょっと近くて驚いちゃいました。強く握っちゃってごめんなさい」
「気にしない。別に痛くない。最初アカデミー方面。買うもの見ながらいこ」
そういうとエマは繋いでいた手をギュッと握り自分の方へ引き寄せ歩き始めた。
ドラグニカもミューも人を避けながら馬車を引いて行く。
臆病なのか、命令なのかはわからないがそもそも人には近づいてこないので安全なのだろう。
馬車も見慣れてきた頃、僕の目は周りを歩く人たちに奪われていた。
目線の先には獣人や魔人の尻尾や羽。
身長が縮んだせいで頭の耳や顔の特長よりも先に下の方へ目線がいってしまうのだ。
ただあまりにジッと観察し過ぎた。
ペシッと頭を叩かれ「見過ぎダメ」と注意された。
尻尾や羽にコンプレックスがある人もいるらしくあまりジロジロと見られるのは気分のいいものではないようだ。
僕もジロジロと見られたら嫌だしな。
申し訳ないことをした。
物珍しいからといってあまり見るのはやめておこう。
気をつけてと注意されたからか、エマが時折僕の方をじっと見る。
「もう大丈夫だよ、見てないよ!」
「そう。でも不安」
この会話を数回繰り返し最初に立ち寄る場所へやってきた。
着いたのは八百屋のような小さなお店だ。
外には野菜が乱雑とまでは言わないが置かれており、
店舗内には肉や魚もあるようだ。
「もう買うんですか?」
まだ歩き始めて10分も経ってない。
まだこれからアカデミーへ行くのに今買えば邪魔になるのではと思ったが。
「下見。先にもう一つお店あるから」
値段と商品を比べるみたいだ。
買い損ねて戻るなんてたしかにめんどくさいからな。
並べられた商品の上にわかりやすく商品名が書いてあるようだった。
しかし全く読めない文字なのだ。図形と言えばいいだろうか。文字ではなく絵に近い印象だ。
試しに茄子らしき野菜の上に書かれた2つの図形の読み方をエマに聞いてみた。
「それ?ナス」
この世界でも茄子はナスらしい。
それと文字に関しては1つの図形で五十音の1つの読み方のようだ。
何個か読み方を聞いて行くと見たことある野菜だけに関して言えば元の世界と同じ呼び方をしていた。
ただ見たことのない形をした葉物や根菜、果物があったり、魚も異形な形をしていて美味しそうではなかった。
エマにそれぞれ聞いて見たがどれも聞いたことないものばかりだったのでこの世界だけの食べ物だと思う。
肉に関してはすでに加工されているものがほとんどなので元がどんな姿かはわからないが一応牛肉、豚肉、鶏肉と普通に分けられているようだった。
たまに見たことない肉質のものがあったが鹿や熊だろうと勝手に決めつけておいた。
人型の魔獣の肉だったりしたらと考えたら怖いし、食べたくないからな。知らぬが仏だ。
店内を一通り見終わると「次」と店内では離していた手を掴み店内を出ていった。
「エマさんはメモとかとらないでよかったんですか?」
下見と言っていたから値段等を見ていたはずだが何かに書いたりしていなかった。
「メモ?それなに?」
「えっと、値段とか商品とかの種類を忘れないように紙とかに書いておくことです」
「必要ない、紙は貴重。買い物くらいで使えない」
それに記憶管理を使えばいいとエマは言う。
多分魔法だろうが詳しくは教えてくれなかった。
アカデミーで習う、基礎的な魔法らしいことしかわからなかった。
買い物は気にしなくていい、大丈夫と言って握った手を引いて進み始めた。
魔法はさておき、メモのように軽く使えるほどまだ紙は安いものではないらしい。
羊皮紙なのか、樹皮の紙なのかはわからないが大量にら作られていないのだろう。
理由はさっきエマが使った魔法だ。
多分あの魔法が一般的な魔法扱いだとするならメモはいらないし、何か書いて覚えたりする必要もない。
それに手紙や書状は破れたりしてはいけないためかなり丈夫に作るだろう。
わざわざ脆い安い紙など作るのは手間になるに違いない。
そんなことを考えているうちにもう一つの店へやってきた。
多少配置の違いはあるが商品に関してはそこまで大きく差はなくみえた。
ただやはり値段が違うようで、こっちで買うものを選んで購入していた。
持って歩くには多い量に思えたがエマが突如出した木のカゴで道具箱を思い出した。
「エマさんの道具箱はどれぐらいしまえるんですか?」
突然の光景も最初に見せてもらっていたおかげで落ち着いている。
おじさんに感謝だ。
「このカゴなら100は入る」
なんてことないように言っているが少し自慢げなのが可愛らしい。
しかし実際大きな袋100は大したものだと思う。エマの魔力量はかなり高いのかもしれない。
「100ですか。普通の人だとどれぐらいなんですか?」
「一般的だと5入れば優秀。冒険者の魔法系なら25が最低。50入れば優秀」
50袋で優秀なら100入るエマは天才的な魔力だ。
「優秀の倍ですか…エマさん戦闘でもかなり強かったりします?」
「わからない。でもギドの方が私より強い」
マジか。ギドさんすげぇな。
「アカデミー行こ。帰りに残りのもの買う」
話は終わりのようで再び手を繋ぎ通りを連れて歩いていった。
アカデミーまで寄り道しながら歩いていろいろとわかった。
まず文字は読めないが言葉はこの国にいる人には通じる。
これはとりあえず助かる。
言葉が通じれば困ることはないし、何かあっても助けを求めたりできるからな。
食べ物も屋台のものを少し食べさせてもらったが美味しかった。
この国の名前はマールというみたいだ。
屋台のおじさんがエヴァリア名物の揚げ鶏の薄焼き包みいかがーと言っていたから最初はエヴァリアかと思ったが、そのあとエマに聞いたらここはマール王国の王都エヴァリアだと言われた。
話が逸れたが食べ物は美味しいのだ。
揚げ鶏の薄焼き包みは唐揚げのクレープだった。何より普通にマヨネーズや、ラー油といった比較的新しい調味料があるようで普通に美味しいクレープだった。
他にもエマがはい。と買ってくれる食べ物を食べたがどれも味付けに関してはクセもない日本のファストフードのような感じで美味しかった。
ポテトや肉の串だったり祭りの出店のような屋台が多かったが。
ギルドと呼ばれる冒険者が立ち寄る場所も途中あった。
ここでクエスト受注や、獲得品の売買ができ、特殊クエストの指導だったりもしてくれるみたいだ。
登録すれば誰でも使える施設らしいが登録は15歳から。
登録すると免許証のカードのようなものを発行してもらえ、それが身分証明書に使えるということだ。
ランクに応じて免許の色が変わるようで最初はミドリらしい。
まるで自動車免許だな。エマも登録しているようでミドリの免許を見せてくれた。
なぜ登録してあるのかきいたら
「帝国から出るのに必要だった」らしい。
国から出ても身分証明できるものがないと入国審査や下手をすると危険人物として捕まったりすることがあるようだ。
人の数は獣人、魔人、人間それぞれ同じような比率らしい。
ただ種族ごとに個性がある獣人、魔人は見た目がそもそも違うため数が多く見えるが見える範囲で数えてみると大体同じぐらいの割合でいた。
わかったことを頭だまとめていたが気づくとアカデミーのそばまで来ていた。
想像よりもかなり立派で歴史のありそうな建物だった。
ゴシック様式、バロック様式、ロマネスク様式、ルネサンス様式さまざまな建築技術を使い混ざり合った建物がそこにはあった。
歴史的遺産を見ているような気分になる建物だ。
周りには壁が囲むように立っているので中は見えないがその壁の長さから敷地の広さがよくわかる。
入り口は一つだけのようでそっちの方へ歩く人や派手な馬車に乗って向かう人がかなり多い。
その流れのまま連れられていくと目の前に校門が現れた。
中へはまだ入れないがそこから見る景色はまるで映画の世界の光景だった。ファンタジーに忠実な景色がそこには広がっている。
そんなことも意に返さずいつも通りという感じで校門を通っていくのがアカデミーの生徒だろう。
貴族も平民も関係なく8歳から14歳まで入れる冒険者養成学校なだけある。
馬車から降りてくるのはいかにもなお坊ちゃまや傲慢そうなお嬢様でそこへ地位に群がる付き人の生徒がいる。
徒歩でやって来たいくらかの生徒たちは貴族から離れるようにアカデミーの中へ入っていく。
格差が歴然としてあるのが見てわかった。
いくら関係なく入れる冒険者養成学校でもそこはしっかり上下があるようだ。
「なぁ、きいたか?」
「なにがだよ」
校門近くまで来ていた僕たちの後ろから声が聞こえてきた。
「今年の入学者に例のやつがくるらしいぞ」
「マジかよ、よく入学許したな」
「本当だよ、よりによってここに来なくてもいいのにな」
「うちの親も文句言ってたよ、もし暴れたらどうするんだーって」
新入生の噂っぽいな、よっぽど危険な人物のようだ。
「そのときは先生方がなんとかするんじゃないか?今年から英雄ラング先生もここに赴任してきたんだし」
「ラング先生か、たしかあの人も経験してるんだよな、黒い月の夜明けを」
「らしいな。あの話聞くたびにほんとかどうか疑わしく思うよ」
「でも現に争いの跡が残ってるんだろ?それにあの時の化け物ってうちのーー」
そう言いかけた少年がこちらを向いた。
するとひっ、と声をあげ「い、行こうぜ」とそそくさと中へ入っていってしまった。
なにを見たのかと彼らが見ていた目線の先、エマを見ると鋭い目で彼らの後ろ姿をじっと睨んでいた。
これか。なにか恐ろしい魔力でも出していたのだろうか、明らかに周りが避けるようにして歩いていく。
「え、エマさん?大丈夫ですか?」
するとハッとした様子でこちらを向く。
「問題ない。ちょっと見つめてただけ」
誤魔化すように冗談を言うと、そろそろ戻ろうとアカデミーを後にした。
背後からはざわざわとした声と時間を告げる鐘が一回、二回と響いていた。
ーーーーーーーー
アカデミーから少し離れ、エマは休憩しようとカフェのような場所へ立ち寄った。
メニューが読めないのでエマに任せ、しばらく待っていると宿で出してもらった香薬草水ーー紅茶が出てきた。
宿のものとは違って少し香りが弱いが飲む分には気にならない程度だ。
紅茶を飲んで一息つくと、お待たせしましたと店員の獣人が頼んだ品を運んでくる。
フレンチトーストと同じく既視感のある食べ物が目の前には置かれていた。
薄く丸く焼かれたものを数段に重ねて上にはホイップクリームらしきものが乗っている。
上からかけるよう小さな小瓶に入っている透明な黄色の蜜はハチミツかメイプルシロップだと思われる。
そう、まさしくパンケーキだ。
エマがどうぞと取り分けてくれ先に一口もらった。
「うん、美味しい」
パンケーキは甘くないことがあるのだがここのパンケーキは甘い、ホットケーキに近いかもしれない。
ただ上のホイップクリームがかなり甘さ控えめでハチミツをかけることで上手い具合に甘さ調節され食べやすい。
「ここのパンはふわふわ。美味しい」
フレンチトーストのパンとは別物だろうがこれは扱いとしてはパンになるようだ。
それにしてもエマは甘いものが好きらしい。何かこの世界にないものでいつか甘いものが作れたらあげよう。
のんびりと食べ終えると時間も時間なので最初に下見へ行ったスーパーへ向かった。
そこでも買うものを選び、木カゴを出し商品を入れるとまた道具箱の中へしまった。
予定通り夕暮れ前に宿へ着いた。
宿屋の名前を知らなかったがうさぎの森だった。
居酒屋じゃなくてカフェだな。こりゃ。女性しかこないわけだ。
宿へ戻るとお店には出る前よりも少し人が多く座っていた。
「お、戻ったか!」
扉についたカウベルの音を聞きギドが気づいた。
「エマ、帰って早々悪いが手伝ってくれ!少しやることが溜まってきちまった!」
「すぐ準備する。まってて」
そういうと裏の部屋へ小走りで入っていった。
「テスラはここ座りな!」
出かける前まで座ってた椅子へ再び座る。
「どうだった!アカデミーは!」
「すごい綺麗でした!歴史的な情緒がたまらなかったです!」
「おう、そうかそうか!なんにせよ通う場所だからな!良い印象のほうが楽しめるってもんだ!ガハハ!」
豪快に笑うギドの手元は器用に注文された料理を作っていた。
見た目に似合わぬ光景だがそれがまた安心感溢れる光景に感じる。
「おまたせ」
裏の部屋から出てきたエマは素早く溜まっていた仕事をこなしていく。
夕飯時になってきたせいか、人が続々とやってきて2人は慌ただしく動いている。
途中、宿代の中に含まれている夕飯を出してくれた。
パンケーキも食べていたが食べ盛りなのかお腹は空いていたようで全て食べることができた。
あまり居座り続けるのも邪魔になりそうなのでギドとエマに部屋へ戻ることを伝える。
「おう、世話できず悪いな!シャワー室あるからそこで体洗ってもいいからな!」
そういうと再び戦場になっている店へ戻っていった。
シャワーを浴びたかったが着替えを持っていなかったので仕方なく部屋へ戻る。
戻った部屋にはカバンと手紙が置いてあった。
おじさんからのようで
着替えと少しだけのお金を置いていくという内容の手紙だ。
タイミングが随分よかったがあまり気にせずにシャワーを浴びに着替えを持っていった。
相当疲れていたのだろう。
シャワーを浴びた後部屋に戻りベットへ寝転がるとそのまま気絶するように意識をもぎ取られていく。
異世界初日がようやく終わっていくのであった。




