三話
目が覚めると俺は何故か家にいた
いつも通り散歩していた筈なのに、なぜだろう?
工事現場の近くに来てからの記憶が全くないんだけど・・・というか後頭部が痛い
・・・まさかとは思うけど記憶喪失!?ヤバイどうしよう!先ずは自分の情報を確認しないと!
えっと俺の名前は春川美乃、何の変哲もない高校に通う普通の学生だったはず。それで家族は俺含めて三人の一般家庭
・・・ちゃんと覚えてるってことは記憶喪失ではないね。じゃあなんで工事現場から家に戻ってきた時までの記憶だけ綺麗に抜けているのかな?
取りあえず外の風に当たって考えようか・・・うん?ちょっと待って。なんか窓の外が見慣れない景色になってるんだけど・・・具体的には現代日本じゃ絶対あり得ないファンタジーな城が見える
・・・何があったんだろう。これはアレかな?所謂異世界転移って奴かな?・・・ちょっと待って!ホントに異世界転移だと母さんと父さんは?普段なら聞こえてくるはずの声が全く聞こえないよ!?
まさか俺だけ異世界に転移した?でも家ごととか親が困るだろ。でもどうしよう日本には友達も勿論いるのに。あ、そうだスマホは使えるかな?
・・・ない!なんでないんだ!まさか日本にいるときに落とした?なんでそんなへまをするかなぁ俺は!
じゃあステータスの確認とかは・・・そもそもステータスの確認方法知らないよ!畜生!
「ああもおおお!どうすればいいんだよおおおおおおおお!」
もう外に出るしかないか?いやでもステータスが分からない俺が外に出てモンスターに出会うと死ぬ可能性ある気がする。
・・・いやでも覚悟決めて外出るしかない気がしてきたんだけど。こっちに来てから戦闘できる能力を取得している可能性に賭けて外に出てみよう。
目標はあの城だ。俺は勇気を出してなんとか外に出た
正直この城の近くに来て後悔しました。
「この城どう見ても魔王城じゃんかああああああああ!」
もう嫌だ・・・なんで転移した近くにピンポイントで魔王城があるんだよ!
なに!ラノベ風に言ったら異世界転移して最初に見た景色は魔王城でしたってことかな!当事者としては全然笑えないんだけど!
・・・もう帰ろうかな。それとも勇気出して魔王城に乗り込むか?無謀だけどぶっちゃけ家にあるだろう食料じゃいつか餓死するだろうし。・・・そもそも電気とかガスとか通ってるかすら分からないし
「・・・もう生きれる可能性なんてここに乗り込むしかないだろうし。正直死にたくないけど」
ええい!頑張れ俺!死ぬにしても餓死よりも魔王城のモンスターにやられる方が圧倒的に苦しみが少ないだろ!
・・・駄目だ!勇気出ないよ!こうなったら暗示掛けよう!怖くない怖くない怖くない
よし!多分今なら行ける気がする。暗示が効いてる今のうちに突撃だあああああああ!
魔王城っぽい所に入ってきたはいいけど、・・・誰もいないのはなんでかな?
「すいませーん誰かいませ」
ちょっと待って、俺はなんでわざわざ誰かを呼んだんだろう?自分で生存率下げてどうするのさ!
(出来るだけ声は出さないようにしよう)
このまま真っ直ぐ行ったらどこに着くかな?取りあえずこのまま進もう
(それにしても結構色々あるなぁこの城)
そう思っていると直ぐ近くの部屋から声が聞こえてきた
(誰かいるのかな?)
取りあえず声のする方に行ってみることにした
「よしお前ら!この会の名前は?」
『超絶美少女の魔王様を愛でる会』
「その通りだ!では目的は?」
『名前通りとても可愛らしい魔王様を見守ったり、少しだけミスをしてしまった場合こっそりとフォローすることです!』
(え?なにこれ?)
取りあえずこの扉を少しだけ開いて中の様子を確認してみたけど・・・見てはいけないものを見てしまった気がする
(・・・見なかったことにしよう)
音を立てないように扉を閉めた
ずっと歩いていると赤い扉が見えてきた。
「・・・如何にもここに魔王がいますって感じだなぁ」
・・・どうしよう?もうここで帰ろうかな。でもこの部屋になにがあるかとか気になるし
「・・・よし、折角来たんだし入ろうかな」
俺は何を狂ったのか怖い物見たさでこの扉を開けてしまったのだ
そして俺が扉を開けた先でみたのは先ずとにかく広い部屋だった。そして
「・・・・すぴ~」
この世の物とは思えない程に可愛らしい少女だった。
「・・・かわいい」
気付くと言葉が漏れていた。ひょっとするとこれが俺の初恋かもしれない
「・・・このまま眺めていたいけどずっとここにいるとこの少女を驚かしてしまうかもしれないし。家に帰ろう」
何故だろう、この少女を見ることが出来たのならこのまま死んでしまっても構わないと思ったのだ。餓死しても構わない。未練もない
そして俺が部屋から出ようとしたその時だった
「うわあああああああああ!」
後ろからその少女の物と思える悲鳴が聞こえてきたのだ
「どうしたの!?」
思わず声を掛けてしまった。見知らぬ人が入ってきて尚且つ話掛けられるとか恐怖しかないと思う。それなら何故彼女が悲鳴を上げたのかなんて分かるのに
「あ、あ、あ」
やっぱり俺を見て怯えているみたいだ
「アンタ、今日は私が寝てる間に何したの!」
・・・え?今この子今日は?って言ったよね。どういうことだろう。俺はついさっきこっちで目が覚めたんだけど
「ごめん!勝手にここに上がり込んで、しかも部屋に入ってきたことは謝るよ・・・本当にごめん。でも俺はここには初めて来たんだ。今日はってどういうこと?」
「なに!?また恍けるの!?ここに来たら毎回私に対して酷いことしかしてないのに!」
「本当だよ!何も分からないんだ!酷いことって何をしたの!?」
「ねぇまたなの!?また言わせるの!?二日前はスカートを無理矢理脱がしたり、同じ日にパンツも脱がせようとしたりしたでしょ!昨日は怖い話聞かせてきた!」
酷いことの内容がホントに酷すぎる!特に二日前!俺そんなことしないよ!というか昨日とか二日前とか、全く身に覚えがないんだけど!
「ちょっと待って!ホントなんだよ!というか俺自身もよく分かってないんだって!」
「嘘!どうせ嘘でしょ!アンタはそうやってこっちの油断を誘ってセクハラするような奴だもん!昨日はお前の胸揉んでやるとか言ってきたじゃない!」
・・・俺は別にセクハラなんてする勇気はないし、そもそもそんなゴミみたいな勇気は持ちたくないんだけど
「ホントなんだって!信じられないなら目を見てよ!嘘ついてるように見える!?」
「・・・あれ?なんか言われてみれば確かに嘘はついてないような気が・・・」
よし!信じれて貰えたかな?
「分かったよ・・・取りあえず信じるよ・・・でもこのどさくさにセクハラしてきたらもう二度と信じないから」
「ありがとう!ところで君の名前を教えて欲しいな!」
あれ?なに聞いてんの俺?知り合ったばかりでいきなり名前なんて聞いたら警戒されるよ?
「・・・イル。私の名前はイル。一応ここで魔王をやってるの」
「え!?魔王!?」
ホントなのか!?
「驚いた?」
「凄く驚いた!だって魔王ってもっとおどろおどろしいイメージだったし、まさかこんなにかわいい女の子だなんて!」
「か、かわっ!?からかってるの?」
からかってるなんてそんなことはしない
「違うよ!本心からそう思った!」
俺が正直にそう伝えると少しだけ赤くなって、少しだけ嬉しそうにこう言った
「ま、まあ女の子としてはそういうことを言われて悪い気はしないけど」
あ、少しだけ笑った、そうだ!
「ね、ねぇ笑ってみてくれないかな?」
「え?なんで?」
「いいから!」
「こ、こんな感じ?」
ヤバイ、どうしよう!今まで見た中で一番だ!
「やっぱり思った通りだ!笑うと凄くかわいいよ!」
あれ?俺はいったい何を言ってるんだろう。なんかこれじゃあ口説いているみたいじゃないか
「あ、アンタは何言ってるの!?本当にあの・・・ごめんアンタの名前は?」
そういえば言ってなかったな。人に名乗らせておいて自分が名乗らないのはどうなんだろう
「俺の名前は春川美乃っていうんだ!よろしくね!ところで本当にあのってどういうこと?」
「だって昨日までのアンタってお前は泣き顔が素晴らしいとか言って嫌なことしてきたから・・・」
・・・おい待て。なにやってるんだ俺は。こんなに可愛い子泣かすとか流石にクズ過ぎるって。
「ごめんイル、俺はそういうの覚えてないけど何故かむかむかしてきた、ちょっと自分を全力で殴るから、固い棒状の物を貸して」
「・・・別にそこまでしなくても」
「いや・・・そこまでするべきだよ!そうしないと自分の気が収まらない」
「そ、そういうことなら・・・」
そうしてイルは奥から鉄の塊を持ってきた
「ありがとう。・・・俺の馬鹿野郎!」
そして自分の頭、特に後頭部を思いっきり殴った。・・・あれ?なんだかそれだけにしては意識がなくなってきたような気が・・・
あ、駄目だ立ってられない。強めに殴りすぎたかな。
あぁ頭が(物理的に)痛いなぁ。『あいつ』俺が思った以上に全力で殴りやがって・・・
「ね、ねぇミノ?大丈夫」
「あぁ大丈夫だぞ、大丈夫よ、大丈夫なのですよ!」
後頭部が痛いが問題は無い。折角『俺』が乗っ取ってやったのにさぁ
『あいつ』はなんで戻っちゃうかなぁ!まぁいいやこいつは困惑してるだろうし説明はしてやろう
「・・・喋り方がまた変わってない?」
「そりゃあそうでしょうよ、戻ってきたんだから」
「戻ってきた?それってどういう」
どういうもなにも
「俺は『二重人格』だからねぇ!さっきまでお前が喋ってたのが『表』なんだよぉ!」
俺は事実を話してやることにした