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第1話:初めての戦場は泥の味

はじめまして、みなさん

僕は『クリス=クレイス=クラウド』といいます

クラウド王国の王子をやってます


今僕は森の中で泥の下に沈んでいます


正確には泥沼の中に入って伏せているところです


こんな状態なのは、話せば長くなってしまうのですが


ああ、ちょうど相手がきましたね、説明は後ほど




見つからないように息を殺しながら、こちらへ歩いてくる人間が1人

僕は緊張と恐怖で気を失いそうなのを必死で抑えながら

その人が横を通り過ぎるのをじっと待つ


そして・・・


長い間伏せていて固まった体を奮い起こし

相手が振り向くよりも速く

相手の背中に剣を突き刺す


その人は一瞬声を出してすぐに息絶えた


死んだ


殺した


それは初めて人を殺した瞬間だった



「ご無事ですかい、大将」


死体を見つめて固まっている僕は、背後からの声に驚き意識を取り戻した


そこにいたのは強面で大柄な男

彼の名は『ジム』数少ない僕の部下であり戦友だ


普段は僕をからかってばかりのジムも

この状況で再開すれば頼もしいことこの上ない


「うん、生きてるよジム」


「生きてるのは分かりますがね。怪我とかはしてないんで?」


「あ、あぁ・・・大丈夫」


「反撃されることなく1撃ですか・・・なかなかやりますな、王子」


ジムは死体を確認しながら背中に刺さったままの剣を抜き取って僕に渡してくる


「ありがとうジム。でも大将とか王子って呼ぶのはやめてって言ったじゃないか」


「了解、隊長殿」


僕は剣を受け取りながら散々言ってきたことを改めて言い直す

彼とのこんなやり取りでさえ、今の僕には大きな安らぎとなる気がする

以前はこんな風に思うなんて考えもしなかったのに

これが戦場の空気って奴なのかな


「他の敵兵は?」


「それなら俺とユニで片付けておきましたよ」


「・・・私の仕事なかった」


背後に立っていた彼女の存在に今の今まで気が付かなかった

驚いて飛びのくなんて彼女に失礼だったかな

どうしよう、何て言えばいいのか


「え〜っと・・・お疲れ様、ユニ」


「だから、仕事はなかった・・・」


彼女は『ユニ』

僕の部下の1人で希少な魔術師だ


今は全身を覆うローブのせいで見えないけれど

とても綺麗な銀色の髪と宝石のように輝く瞳を持っている


普段はあまり話さないから

最初に会った時には嫌われているのかと思ったけれど

彼女が本当はとてもやさしい女の子だと僕は知っている


彼女のような女の子が戦場に出るのは僕自身としては反対なんだけどな


この2人が僕の部下

僕を含めた3人がクリス小隊のメンバーだ

小隊としても規模が小さすぎるけど

この2人は僕の護衛役として付けられているにすぎない

僕が前線で活躍できるなんて誰も期待してないってことさ



「とにかく、偵察任務は切り上げて本隊に戻ろう」


「まあ、敵が森の中に偵察を出していることは分かりましたからな」


「・・・迂回攻撃の可能性大」


本隊は敵陣と正面から睨み合いを続けているんだ

本陣の後ろに広がる森の中に敵兵がいたってことは

敵が森を抜けて攻めてくる可能性がある

そうなれば本陣は大混乱になる


「急いで戻ろう!」


僕らは本陣へと駆け出した











クラウド王国は森と草原の広がる豊かな王国で、大陸一の国土面積を誇る大国家だ

そんな王国の王様の息子の、そのまた息子が僕になる

つまり王様の孫にあたるわけだね


今の王様

僕のお爺ちゃんには7人の妻がいて

その間に12人の子供達がいる


僕はその中の1人である父さんの息子だから

王族と言っても他の貴族と大して変わらない


それでも王族の義務って奴があって

僕は何年か軍に入って勤めなきゃならないらしい


それで士官学校に入り

卒業して小隊長に任命されて

ジムやユニと出合って


後は義務を果たすだけだと思っていたのに・・・


僕が小隊長になってすぐのこと

周辺各国が『反クラウド同盟』を結成して宣戦布告を行ってきた


王国首脳部及び国王陛下は

『大陸統一の良い機会だ』

とか言って全面戦争に踏み切った


何も僕が軍にいる間に戦争にならないでもなぁ・・・






僕らが本陣に戻る頃には日が傾き始めていた


そこには大勢の兵士がいて

みな忙しく動き回っていた


そろそろ夕食の準備をする時間かな

ここでの睨み合いはいつまで続くのだろうか



僕は報告のためにアラド将軍の元に向かう


アラド将軍は一兵卒から将軍にまでなった叩き上げで

その下に配属された僕を可愛がってくれている


普通なら小隊長如きが将軍に直に報告することなんて考えられないことだけど

今回だけだ迅速な報告が鍵を握るだけに利用させてもらおう


「クリス小隊長、入ります」


将軍のテントの中は様々な報告書や多数の地図が大きな机に乗っており

その奥には顔中に髭を生やした熊のように大きな男性が座っていた


「うむ、ご苦労」


形式上の挨拶を済ませると、いつものようにフランクな喋りに戻る


「はっはっは。初めての作戦行動はいかがでしたかな? ちょっとした冒険気分を味わえたでしょう」


「ははは・・・まあ冒険はできたかな」


それどこじゃなかったよ、実際には


「それよりもアラド将軍、大変なんです!」


「む? どうしましたかな?」


「僕らが偵察にいった森の中に敵兵の偵察部隊がいて、遭遇戦になったんです」


「なっ! なんですと〜!!! それで、王子にお怪我はございませんでしたか?」


「僕のことは心配いらないよ。それより敵が後方の森に部隊を迂回させているのかもしれない。早く手を打たないと」


「確かに・・・」


将軍はしばらく考え込んでいるようだったが直ぐに結論を出してきた


「後方の敵を迎撃するには兵が足りません、直ちにランデル王子の部隊に応援要請へ向かってくれませぬか?」


「僕がランデル様の部隊へですか?」


「はい。王子ならランデル様に直接お会いして援軍要請が行えます。今は一刻を争う事態ですので」


「・・・・・分かったよ。ランデル叔父に援軍要請に行って来る」


「おお! それでは早速伝令書をお書きしますので、クリス様は出立の準備を」


「分かった」


言葉には出さなかったがアラド将軍の意図は理解できた


将軍ほどの名将ならば挟撃に晒されても十分に勝ち目はあるだろう

しかし、混戦になれば安全な場所などなくなり、僕の身の安全は守れないかもしれない

そのために僕を遠方に送ろうとしているのだ


おそらく援軍を連れて戻る頃には決着が着いているのだろう

僕はアラド将軍が僕の心配をしてくれたことよりも

僕を1人の兵士として見てくれていないことが悲しかった


確かに僕がいても何の役にも立てないかもしれない

それでも将軍の部下としてこの場に留まっていたかった





夜闇の中、僕とジム、ユニの3人は出発した

森の中の敵が奇襲をしかけるなら今夜か明け方だと将軍は考えたらしい


悔しかったけど

もしもの時のことだってあるんだと気を取り直して

ランデル叔父のいる砦へ向かい出発したのだった


これが僕にとっての大冒険になるとも知らずに

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