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旅犬/りょけん

【旅犬/りょけん】


 旅犬の申請の為、県庁へ向かう。


 書類一式を揃えるのは大変面倒な作業であるが、海外へ赴く人間にとって旅犬は必要不可欠な動物である。入出国する際には必ず肉球スタンプが必要だ。

 旅犬を手に入れるには時間がかかる。早めに飼っておくに越した事はない。

 まず身元確認の為の書類を手に入れるのに丸一日。私の様な出無精な者は全てを揃えるまでに一カ月かかった。

 次に、飼い主であると認められるまでの審査が一週間。この時点で飼い主の匂いを旅犬に覚え込ませる。

 そうしてようやく、旅犬を手に入れる事が出来る。


 県庁の旅犬センターに近づくと、ワンワンキャンキャン騒がしくなってきた。

 初めての海外旅行に緊張した面持ちの学生。老後の楽しみに海外旅行へ行く年配のご夫婦。旅犬を飼う理由は様々だ。誰もが皆、大事に旅犬を抱えている。抱えられている犬は楽しそうに尻尾を振っていた。


 柴犬、豆柴、秋田犬、土佐犬。旅犬にも様々な種類がいる。

 渡された手のひら大の柴犬は丸い目で私を見上げると、尻尾を丸め小さな声でワフと吠えた。

 なるほど、これは愛らしい。

 海外に渡航した際には旅犬の盗難に気を付けろと口をすっぱくして言う人の気持ちがようやく理解できた。

 ポケットに入れていると盗まれる恐れがあるので、リードでしっかりと繋いでおく事が奨励されている。

 待合室のテレビには、リードでつないでいた旅犬が少し目を離した隙にオヤツで釣られて盗まれたという例が紹介されていた。

 犬用クッキーを持っている人間に注意! と旅犬が怪しげな人影に尻尾を振っている写真付きの広告ポスターがあちこちに貼られている。

 最近、日本の旅犬が人気であるとどこかで聞いた。一体どういった意味で人気なのか。掌の中で丸くなって眠っていた柴犬がくぅと悲し気に鳴いたので、それ以上は考えないことにした。


「三十七番さん」

「はい」

 名前を呼ばれ窓口で書類に名を記す。その間、旅犬は私の服に抜け毛を擦り付ける作業に夢中になっていた

「大事にしてあげてください。此方は注意事項を記載したパンフレットです。くれぐれも葱は食べさせないように」

「はい」

 事務的に終わった手続きにどこか拍子抜けしながら、県庁の外に出た。旅犬は勝手に鞄から顔を出し、キラキラした目で散歩を催促してくる。


 私は、ついに旅犬を手に入れた。同時に、大多数の旅犬取得者が初めて直面する問題に頭を悩ませることになる。


 今すぐ粘着テープ付のコロコロが必要である。

 ちょうど、抜け毛の季節であった。

  

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