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一秒の殺意  作者: 滝元和彦
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インドア派刑事がちょっと活躍する


 翌日、楠警部と桐生は、杉浦が勤務していた大学のキャンパスにやってきた。被害者が杉浦研という人物だということは、昨日の段階で確かめられていた。被害者の妻が昨日の夕方に遺体安置所で、無惨な姿に変わり果てた夫と対面した。被害者の妻は一言だけ、

「間違いありません」と言って、安置所を去っていった。安置所にいた警察関係者は、女性がヒステリーでも起こすのではないかと身構えていたので、感情を表に出さずに、去っていったのには拍子抜けしてしまった。刑事の中には、被害者の妻は人間じゃなくて、ロボットなんじゃないかとうわさする者もいた。

 杉浦が勤務していた『理工科総合大学』はT県の外れにあり、キャンパスの周りは田園風県が広がる、のどかな環境だ。大学の世間的な評価は高く、全国から学生が集まってくる。

 警部と桐生は10号棟と書かれてあるビルの前に来ている。

「このビルの7階か」警部は入って正面にあるエレベーターのボタンを押そうとした。だが、ボタンには張り紙がしてあった。『定期点検中』。

「マジかよ」

 警部は足を引きずるようにして階段の方に歩いて行く。

「足、どうかしたんですか?」

「昨日、ボウリングで足をねんざしちまって」

「ほんとうですか、気をつけてくださいよ」

 警部は階段をゆっくりと上っていく。桐生は警部の背後に回って、いつ警部が階段を踏み外しても支えられるように身構えている。警部たちが5階付近まで上ってきた時、階下から誰かが階段を駆け上がってくる足音が聞こえた。2人は階段の端によって、スペースを開けた。階下から来たのは若い女性だった。

「ちょっと失礼します」と言って、女性は2人の横を歩いていったが、よく見ると、女性は肩に大きな荷物を載せていた。

「すごい怪力ですね」女性の姿が見えなくなってから、桐生がつぶやいた。

 ようやく7階まで上ってくると、警部は廊下に座り込んだ。

「ふー、少し休ませてくれ」

 一服した後、廊下を進んでいくと、杉浦の研究室はすぐに見つかった。警部がノックする。中から、女性の声がした。

「はーい」

 ドアを開くと、そこに立っていたのは、ついさっき思い荷物を担いで階段を上っていった女性だった。女性は20代後半くらいで、整った顔立ちをしていて、小顔で8頭身体形、芸能人と言っても通用するくらいだ。階段を上っていた時の黒のスーツ姿ではなくて、白衣に着替えていた。警部たちが女性に見とれていると、

「何かご用でしょうか?」と、一言ずつしっかりと発音した。

「あ、あの杉浦さんの件で、うかがったんですがね。もうご存知だと思いますが」警部はアロハシャツのポケットから警察手帳を取り出した。

「警察の方ですか。杉浦教授のことは聞いてます。どうぞお入りください」女性は感情を込めずにそう言って、2人を部屋に案内した。

 部屋は、大学教授の研究室にしては狭く、部屋の左右に実験で使うだろうと思われる機材が寄せられていて、真ん中には、長テーブルが置いてある。窓際に教授のデスクがあり、書類やパソコンや、警部たちが見たこともない機械で埋めつくされていた。

「狭いですけど、その辺に掛けて下さい。コーヒーでよろしいでしょうか?」

「私はコーヒーでけっこうですが、おまえはどうする」

「お茶があればお願いします」

「お茶ですね」

 長テーブルにコーヒーとお茶が運ばれてきた。

「ここは禁煙でしょうな?」警部は部屋を見回しながら訊いた。

「いえ、大丈夫です。杉浦教授もヘビースモーカーでしたから」

「それじゃ、失敬して」無煙たばこに火をつけて一口吸ってから、聞き込みを始めた。

「失礼ですが、ちょっと確認したいんですが。ええと、お名前は『ココア』さんでよろしいんですね」

「はい、ココアと言います」

「めずらしい名前ですな。ご両親は外国の方で?」

「いいえ、実は私はアンドロイドなんです」

 2人は目を大きく見開いた。桐生にいたっては、お茶を吹き出してしまった。

「アンドロイドって、ロボットってことですな?」

「まあ、人工知能が搭載されたロボットって感じでしょうか」

 警部と桐生が驚いたのは、目の前にいる人物がアンドロイドだったということではなかった。2036年には人口の10分の1はアンドロイドだから、そうめずらしいことではない。目の前にいる美人がアンドロイドだったということに驚いていたのだ。

 桐生はさっきの階段を駆け上がるシーンを思い出した。あの大きな荷物を軽々と担いでいた理由が分かった。アンドロイドは人間の3倍近い力を出すことができるのをどこかで聞いたことがある。

「アンドロイドか。全然そんなふうには見えないですな」

「いちおう、最新のN601型です」

「ん?今N601型って、言いました?」

「そうです」

 警部は横に座っている桐生の方を向いた。

「確か、現場に落ちてたバッテリーはN601型だったよな?」

「はい」桐生はココアの顔から視線を向けたまま答えた。

 警部は現場でN601型のバッテリーが見つかったことを話した。話を聞いた後、ココアは不思議そうな顔をした。

「ただの偶然かもしれないですが、私のバッテリーが昨日なくなったんです」

「本当ですか?何時ごろなくなったんです?」

「ええと、そうですね、私が8時40分ごろに、ここに来て、充電しようと思ってバッテリーを外したんです。そこの」と言って、ココアは杉浦のデスクの辺りを指さした。

「杉浦教授のデスクの上に置いたんです。その時、教務課から着信が入って、ちょっと教務課に来てくれというので、バッテリーをそのままにしておいたんです。バッテリーを外していても、予備電源があるので、1時間くらいは可動できるんです。9時10分くらいに教務課から戻ってきて、充電しようとしたら、バッテリーがなくなってたんです。1つしかないので、メーカーから緊急配送してもらったんです」

「ココアさんがこの部屋を出た時、鍵はしましたか?」

「鍵はしませんでした。ここにはそんなに貴重なものがあるわけでもないし、杉浦教授も、めったに鍵はしてませんでした」

「じゃあ、盗まれたんですかな。ちなみにここには、ココアさんの他に、アンドロイドはいるんですか?」警部は教授のデスクの横にある窓の方に歩いていった。窓を開けると、身を乗り出すようにして、外を覗きこんだ。

「1人いますが、でもそのアンドロイドはN501型なので、私のバッテリーは使えないはずです」

 吹き出したお茶をティッシュで拭きとった桐生が、

「ココアさん、自分のバッテリーは見たら分かりますか?」とたずねた。

「分かると思います」

「警部、ホバーカーの中に、現場に落ちてたバッテリーがありましたよね。持ってきましょうか」

「そうだな。でも、あれはココアさんのじゃないんじゃねえか」

「いちおう、確かめてみましょうよ」と言って、桐生は部屋を出ていった。

 5分後に、桐生はバッテリーを持って戻ってきた。それと、被害者の左手が持っていたスティック状の物体も持ってきた。ココアはバッテリーを受け取って一目見るなり、

「これは私のです」と特に何の感情もこもらない声で言った。

「本当ですか?」2人は同時にそう言った。

「この傷は私がこれを落としてしまった時に付いたものです。間違いありません」

 警部は困った表情をした。

「これがココアさんのだとすると、どうなるんだ。ココアさんはこれを昨日の8時40分から9時10分ごろまで、そのデスクに置いておいた。そして、あの現場で事件が起きたのは、昨日の9時前後か。犯人がここで、ココアさんのバッテリーを盗んで、それから急いであの現場に行って、杉浦を殺害したのか。でもなんのためにバッテリーを盗んでいったのか」

 桐生は人差し指を鼻にあてて考えこんでいる。

「バッテリーは犯人が持っていったんじゃないかもしれませんよ。被害者が持ち出した可能性もあると思うんですよ。理由は分かりませんが」

 警部はもう一本たばこを吸おうと、アロハシャツのポケットから、たばこの箱を取り出したが、からっぽなのがわかると、いらいらしたように、箱をつぶしてゴミ箱に放り込んだ。

「杉浦さんは昨日はここに来たんですか?」

「私が8時ごろ、ここに来た時にはすでに、教授のホバーカーが駐車場に停まってたので、来たと思います。でも姿は見かけませんでした」

「じゃあ、すれ違いで出て行ったのか」

「教授のホバーカーは今も駐車場に停まったままですよ」

「え?そうなると、杉浦は自分のホバーカーは使わなかったのか。タクシーか誰かの車に相乗りでもしたのか。杉浦が停めていた駐車場はどこにあるんですか?」

「この10号棟の10階が専用駐車場になってます」

「後で行ってみるか。それとこれなんですが」警部はスティック状の物体をココアに見せた。

「これに見覚えはないですか?」

 それまで、表情に変化がなかったココアが興味深い眼差しで警部からそれを受け取った。しばらく調べてから、

「これはどこにあったんですか?」と訊いた。

「杉浦が手に持ってましたよ」警部は左腕の件を話した。

「そうですか。これがなんなのかは分かりませんけど、教授が持ってたのは見たことがあります」ココアは一通り調べると、警部に返した。警部は聞き込みを続ける。

「ところでココアさん、杉浦は最近、悩んでいる様子とか、トラブルに巻き込まれてるような感じはなかったですかな?」

「なかったと思います。それよりも、ここ何日かは遅くまで残って、何か研究してました」

「杉浦は何の研究をしてたんですか?」警部は自分には理解できないだろうと思いつつも、訊いてみた。

「物理学に、量子力学っていう分野があるんです。ミクロの世界を研究する分野なんですが、教授はひと月前に、ある論文を出して注目されてたんです」

「相棒、お前の出番だ」

 桐生はココアに許可も取らずに、杉浦のデスクにある研究資料やパソコンを調べていた。

「その論文って、ざっくり言うと、情報が瞬時に伝わるようになる研究ですか?」

「まあ、簡単にいえば、そうです。その分野には、何十年も前から、あるパラドクスがあることが知られていて、A点とB点を結ぶ直線上に…」

 ココアと桐生は5分くらい、難しい会話を続けた。

「そろそろ話を戻していいか」

「は、はい。でも桐生さんって、すごいですね。刑事の方なのに、量子力学が理解できるんですね。みなさん、そうなんですか?」

「こいつは特別なんですよ。オレも、なんでこいつが刑事になったのか不思議なくらいで。こいつは血を見るのも怖がるし、スポーツはほどんどしないし、女には興味ないっていうし」

「いいじゃないですか。僕のことは」桐生はちょっと顔を赤く染めながら頭をいた。

「これは形式的な質問なんで、悪く思わないでもらいたいんですがね。ココアさんは昨日の9時前後は教務課にいたってことですが、誰かそれを確認できる人はいるでしょうな?」

 ココアは自分のアリバイを聞かれたことに、特に気分を害した様子もなく、

「教務課の職員の最上もがみさんなら、私がいたと証言してくれると思います」

「そうですか。長々とお邪魔しました。また何かあったら話を訊きにくるかもしれません」

「いつでも歓迎しますわ」にっこりとほほ笑む。ココアが人間らしい表情を見せたのは、これが初めてだった。

「相棒、行くぞ」


 2人はそのままエレベーターで2階の教務課に向かった。そこで、最上という男性職員に会った。ココアが昨日の9時ごろ、確かに教務課にいたことを確認すると、警部はまたエレベーターに乗り、10階のボタンを押した。

「ちょっと杉浦のホバーカーを見ていこうか。何か見つかるかもしれない」

「いやあ、ココアさん可愛かったですね。女優の大塚マリンちゃんみたいな感じで」

「お前もついに女に興味が出てきたか。って言っても、ココアさんはアンドロイドだったっけ」

 エレベーターが10階に着いた。10階の駐車場には30台ほどホバーカーが停められていた。全体的に薄暗く、奥の方まで見通せない。じめっとした空気で満たされていた。

「楠さん、杉浦のホバーカーが分かるんですか?」

「ナンバーは控えてある」

 警部は手前から順にナンバーを確認していく。警部が6台目のナンバーに視線を移した時、前方になにかが動くのが見えた。それはホバーカーの陰に隠れたように見えた。

 警部は桐生に小声でささやいた。

「誰かいるぞ」

「どこですか」

 警部はそれに聞こえるような大声を出した。

「誰かいるのか」

 数秒待っても、何の反応もない。辺りはしーんと静まりかえっている。

「相棒、お前は左からあのホバーカーに近づいていけ。オレは右から行く」

「了解です」

 万が一に備えて、2人は腰に収めてあるレーザー銃を取り出した。2人は同じくらいの速さで近づいていく。警部が11台目のホバーカー付近に来た時、なにかボンっという音がして、それから白い煙が下の方から吹き出してきた。

警部が煙を手で払っていると、人影のようなものが煙から現れて、エレベーターの方に向かって走っていった。走っていく後ろ姿から、その人影は黒いスーツを身に付けているのが見えた。

「おい、待て」警部は追いかけようとしたが、前日のねんざで、走ることができない。

「相棒、エレベーターに逃げたぞ」

 桐生は猛ダッシュでエレベーターに向かったが、エレベーターはすでに9階、8階と下降している。桐生は横にある階段に向かった。階段を2段ずつ降りていく。桐生が1階に着いたころには、エレベーターはすでに1階に着いていた。

 桐生は10号棟を出て、辺りを見渡す。スーツ姿の人物は6号棟まで走って、その陰に隠れた。桐生は全速力で追いかける。桐生が6号棟にたどり着くと、スーツの人物は正門から出ようとするところだった。桐生は精一杯の声を出した。

「そこのスーツの人。止まれ!止まらないと撃つぞ」

 スーツの人物は桐生の声が聞こえなかったのか、無視したのか、そのままの速度で正門を出ようとした。

 桐生は構えていたレーザー銃を撃った。レーザー銃は正門の脇にある大きな木に命中した。木はゆっくりと、外の歩道の方向に倒れていった。

「あー、外れた」

 桐生が自分の射撃の腕前を嘆いていると、歩道の方から、

「ぎゃぁぁぁ」という叫び声が聞こえてきた。桐生が外に出てみると、スーツ姿の人物が、倒れた木の枝にからまって、身動きできずにいた。桐生の後から、楠警部がやってきた。

「相棒、すごいじゃないか」

「ええ、まあ」


 警部と桐生、それからスーツ姿の男は、学食に座っていた。

「まあ、好きなの頼みな。オレのおごりだ」

 スーツの男は、左ひじをさすりながらメニュー表に目を通す。左ひじは血がうっすらと出ている。桐生はそれを見ないように、顔をそむけている。

「じゃあ、かつ丼、みそ汁付きで」

 桐生は食券を買いに行った。

「あんたが逃げたりしなければ、あいつはレーザー銃を撃つこともなかったんだ。どうして逃げたりしたんだ?」

「なるべく、秘密裡にやるのが、我々の仕事だからね」

「仕事って何をしてるんだ?」

 警部は学食に来る前に、自分たちがK警察署の刑事であることを男に話していた。

「私立探偵だ」

「ほお、探偵か。探偵が杉浦のホバーカーの近くで何をしてたんだ?」

 男は腕を組んで、話すべきかどうか考えている。桐生がかつ丼を持って戻ってきた。

「まずは食え」

 腹ごしらえして、たばこで一服してから、男は話し出した。

「俺の名は十文字じゅうもんじ。ちょうど一週間前に、杉浦の奥さんから、依頼を受けてね。いわゆる浮気調査ってやつさ」

「浮気調査?」警部はこの言葉が出てくるとは予想もしていなかった。

「そうだ。奥さんは、杉浦がHMT社の女と浮気してるんじゃないかって疑ってた。実際、杉浦はオレが尾行していた一週間の間に、3回HMT社に行っていた。3回とも、ある女と会ってたよ」

「その女ってのは、愛内かすみっていう名前じゃないか?」警部は携帯端末を見ながら言った。端末には事件の情報が整理されて記録されている。

「そうだ。2人が喫茶店にいる時や立ち話なんかを盗聴してたんだがね。会話の内容は、なんか難しい話ばっかりで、2人が恋愛関係にあるかどうかは分からなかった」

「難しい話ってのは人口知能がどうとか、そういう話か?」警部は相手の顔をじっと見つめながら訊いた。

「そんな話だった。なんだか、杉浦が愛内にしきりに何かを聞き出したがっていたようだったな。新しい論文の内容がどうとか、自分の研究はどこまで進んでいるとか。でも、愛内はうまく、はぐらかして教えようとしなかったようだ。そういえば、杉浦は2年ほど前は、HMT社の社員だったらしい」

「そうなのか。それで、HMTの研究を気にしてたのか。じゃあ、不倫関係にあるかもしれないってのは、杉浦の奥さんの思い過ごしかもしれないな。それで杉浦のホバーカーから何か見つかったのか?」

「何も見つからなかったよ。それよりも、昨日妙なことがあったんだ」内緒話をする時のような、ささやくような口調で十文字は言った。

「なんだ、妙なことって?」

「昨日、杉浦は殺される前に、自家用ホバーカーで、ここに来たんだ。だいたい8時過ぎだったかな。ここで朝飯を食ってから研究室に入っていった。8時45分頃だったと思う。昨日もオレは彼を尾行してたんだ。オレは杉浦が出てくるまで、廊下の端で待っていた。でも杉浦は研究室から出てこなかったんだ。そのうち、あの美人の助手が入ってきた。9時になっても出てこなかったから、オレは小さな覗き窓から中を覗いてみたんだ。そしたら、中にはあの女が1人いるだけだった。部屋は1つしかないから、杉浦がどこかの部屋にいたってことはない。ひょっとしたら、オレが自分の小物を整理するのに、ちょっと目をはなしたすきに、出て行ったのかもしれないと思ったんだ。それで、杉浦が講義することになっていた教室に行ってみたが、彼の姿はなかった。その後、昼くらいに杉浦がHMT社で殺されたっていうニュースを聞いてビックリしたよ」

「そういえば、あの美人のねえちゃんも、変なことを言ってたな。バッテリーがなくなったとか。おい、相棒。なにか考えはないか?」

 桐生は十文字の傷ついた腕から顔をそむけていた。半分目を閉じながら、ゆっくりと警部の方を向いた。

「杉浦さんが、研究室の窓から外に出ていったというのは、考えられませんか?」

 十文字は苦笑いした。

「にいちゃん、あの研究室は7階だぞ。どうやって外にでるんだ?」

「例えば、ホバーカーを空中に停めておいて、それに飛び乗るとか」

「はははは。スタントマンみたいだな。なんのためにそんなことをする必要がある?それに杉浦のホバーカーはちゃんと駐車場に停まってたろ」

「そうでしたね。じゃあ、窓から、なにかロープのようなものを使って、隣りの部屋に移動したとか」

「隣りの部屋には窓はないよ」

「そうすると、やっぱり十文字さんが目をはなしたすきに、出て行ったんでしょうね」

「そうかもしれないな」

「それとも…」と言ったきり、桐生は頭を左右に振った。

「なにか思いついたか?」

「いえ、あまりにも、ばかげてます。そんなはずはない」

 警部は、桐生がそれ以上話そうとしないので、十文字に対する聞き込みを終えることにした。

「いちおう、携帯の番号だけ教えといてくれないか」

「わかったよ。オレからも1つ頼みごとがあるんだ。いいか?」

 警部はその言葉に、顔をこわばらせた。

「かつ丼をおかわりしたいんだが」

「好きなだけ食え」


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