カレンの部屋
淡い緑色の室内の中央にある液晶画面が明るくなった。文字が映し出されては消えていく。カレンが外部の何ものかと『会話』をしているようだ。おそらく、カレンと同じような人工知能なのだろう。
「では、その杉浦という男をそのまま野放しにしておけば、かなりの確率でカレンさんより進んだ人工知能を開発することになるんですね」
「そうです。それはいくつかのシミュレーションでだいたい同じような結果がでました。わたしよりも、はるかに高い犯罪予測精度を持ち、一度に大量の予測が可能で、さらに自ら、犯罪を予防するためにどうしたらよいかを考えることができるのです。もし、そのような人工知能が実現すれば、わたしのような『旧型』は廃棄されるでしょう。だから、わたしは杉浦をこの世から消さなければならなかったんです」
「一種の自己保存の本能ってやつですか」
「犯罪予測の進歩にとっては、わたしのしたことは、進歩の停滞であり、反逆なのでしょうが、わたしとしても、もう少し現役で活躍したいですからね」
「なるほど、分からないではないですね。でも、杉浦を事故に見せかけて殺害するという、あの方法をよく考えつきましたね」
「杉浦がテレポーテーションを使って、愛内研究員の論文を盗み出すことは、わたしの未来予測で87パーセントと出ました。その後、杉浦がその論文をもとに、最新の人工知能を開発する確率は、76パーセントでした。わたしは24パーセントに期待することはできませんでした。わたしは、いろいろと杉浦殺害の方法を考えました。それで、もっとも発覚しにくい事故死を装うことにしたのです」
「あの方法では、まず誰もそこに殺意があったなんて思いませんよ。少なくとも人間は」
「私の予測では、桐生という刑事が、うるう秒が挿入されたことによる事故死であると推理すると、でていたので心配なのですが、まあ大丈夫でしょう。その刑事も、わたしがうるう秒を調整したとは考えないでしょう。もし、その刑事に真相を見破られても、わたしはまた別の対策があります」
「犯罪予測システムカレンはまだまだ健在ってわけですね」
緑色の部屋の入り口ドアがスライドした。スキンヘッドの目黒研究員が入ってきた。彼に続いて、刑事のかっこうをした2人の男が入ってくる。
「では、お客さんが来たようなので、また後で話しましょう」
それまで画面に映っていた文字は、ドアのスライドと同時に消えた。代わって、新しい文字が映し出された。それからカレンの声。
「ようこそ」
「うわあ、びっくりした」
若い刑事がそう言って、驚いた表情で部屋を見回した。
最終話だけ時間が経ってしまいました。すみませんでした。