第75話 引き継ぐ思いと不安
美空がシャワーを浴び終わり、湯船に浸かるレイコを見た時、不意に口を開いた。
「さっき、アイツの心を見たんや」
アイツ、そう言われても誰のことか容易に判断が付く。口を開くも声には出ない。美空には恐怖があった。
「分かるで。「本当に聞いて良いのか」「聞いてしまった後どうなるのか」って不安になる気持ちも読まなくても分かる。だから無理して聞かなくても良いんやで」
一滴の水滴が落ちる音が響く。湯冷めする体が緊張で更に強張る。それでも進まなくてはならない、美空は内心焦りながら震える声を出した。
「…聞かせて、お願い」
「分かった。実はな…」
「はぁ」と深くため息をつき、レイコは俯いた。最悪の答えも覚悟していた。
「見えんかったんや。アイツの心」
「…え!?」
拍子抜けした。緊張感のある雰囲気から一転、後ろ頭を書きながら言うおちゃらている時のレイコの顔で、美空はすぐに理解できなかった。
「もー、勿体ぶって言うから怖くなっちゃったじゃない」
「だから言うたやろ?「そんな良いもんでもない」って」
美空が湯船に浸かり、入れ替わりでレイコがシャワーを浴びる。
「こんな時だからこそ、ウチの能力で力になれたらって思ってたんやけど…」
「レイコ…」
レイコの小さな後ろ姿に心配させている自分が申し訳なくなり、顔から視線を落とし、しばらく背中を見つめていた。ふと、あることに美空は気が付いた。
「レイコ、その傷…」
「ん?ああ、これ?こんなもん、魔物ハンターやってれば普通やろ。むしろ少ない方や」
「そうなの!?」
「傷口は塞げても、後は残るもんやしな。男の中には手、切られても義手着けて戦ってる人もおるからな」
「どうしてそこまで…っ!?」
言ってはいけないと、話してから気付いてしまった。慌てて口を押さえるも言ってしまった言葉はなかったことにはならない。
「そりゃ、守りたいもんがあるからやろな。自分はどうなっても、戦えるなら守れる。戦えなくなったらそれで終わりや。仕事は斡旋して貰えても、大切な人を守ることはできない」
今日だって、戦えなくなった人を見た、自分もそうだ。美空は自分の状況にまだ自覚できていないことに気付いた。それも、レイコが平穏を与えてくれているお陰だ。
「その点、ミソラは肌が綺麗よな。流石、お嬢様って奴やな。そりゃ触りたくもなるわ」
湯船から手を上げて見ても、叔母の家を出る前と大して差はなかった。
「私、守られてたんだ。コウヤ君から」
「そういうこっちゃな。幸せ者や、ミソラは」
「ごめん、レイコ」
「なんで謝んねん」
レイコは洗い終わった長い髪をかき揚げ、美空を見て笑う。
「…ウチのが少し頼りなかっただけや」
「え?何か言った?」
「な~んも。それより背中洗ったるわ!!」
「また体触りたいだけでしょ!?もうダメ!!」
熱を取り戻した美空の表情を見て、ほっと安心する。
◆
「こ、コウヤ君?」
ミソラがコウヤに連れてかれ、ソウタを担いでその後をついていった。その時、
「ごめん、こんな方法でしか守れなくて…」
こんな言葉が耳元に囁かれた。まだ意識も戻ってない。荒い呼吸がそう聞こえただけかも知れない。それでもウチは──
◆
(ソウタの為にもウチも守る。大切な物を)
そう意気込むも、湯気で美空が見え辛くなることに不安を拭えなかった。
明けましておめでとうございます
と2月になっても言うことになるとは思いませんでした。はい、更新遅れて申し訳ありません。今回の話を先月分として今月分も更新する予定ですので今年もよろしくお願いします。