第73話 抗戦
美空が去ったギルドの静寂を破ったのは招かれざるもの、魔物襲来のサイレンだった。
「ちっ、こんな時に!!」
「…行ってくる」
多くは語らず目線すら合わせない。他者との繋がりを断とうとする鋼也の姿にリオは心を痛めていた。
「…元に戻っちゃった感じね。ミソラちゃんの来る前に」
「あれが野郎の本来の姿だ」
だが対照的に、リュウジは淡々と答える。それがリオに火を付けた。
「じゃあリュウちゃんはコウヤちゃんがあんなになって、ミソラちゃんがあんな顔をして、それで良いって言うの!?」
「そうじゃねぇ」
「だったら、リュウちゃんが止めてあげるべきだったんじゃないの!?そしたら…」
激昂するリオをリュウジは目で制止させた。
「アイツが自分で望んだ結果なんだよ。アイツだって、自分にとって嬢ちゃんが必要なことくらい嫌と言う程分かってる」
負傷して足取りの重い体を動かし、ギルドの奥の部屋へと向かう。
「だから、アイツが自分でケリを付けるまで、サポートしてやることしかできない」
ギルド長室と書かれた寂れた扉を開き、埃を被った革製の椅子に深く腰かける。
「何をする気?」
「サポートしかできないって言っただろ?知り合いのギルド長の奴らに連絡して少しでも人員を回して貰う。本当は自分で助けてやりたいんだがな」
体に巻かれた包帯を擦り悔しげに歯軋りする。
「俺が不甲斐ないせいで、迷惑をかけてすまねぇな」
「リュウちゃん…」
普段の倍以上の数の魔物による同時襲撃というイレギュラーな状況下で、人手を集めるのはかなりのコストがかかる。妻にもその一端を背負わせてしまうのがリュウジにはどうしても許すことができなかった。
「柄にもないこと言ってる暇はないわよ!!さっさと電話でもメールでもしちゃって、一人でも多くコウヤちゃんを助けてくれる人を見つけましょ」
「リオ…」
「その後のことは二人でまた考えましょ。私達は夫婦なんだから」
リュウジの後ろから手を回し、頭を擦り寄せる。
「でもごめんなさいね。私、リュウちゃんを信じてなかった」
「俺こそ言葉が足らねぇばっかりに、余計な心配させちまった。おあいこだ」
「ふふっ、そうね」
二人の時間はいとおしくも、すぐに終わりにして、二人の未来への選択の為に動き出した。
◆
「…」
無心になって斬り続けた。美空さんが来てすぐの頃、稼ぐ為に倒した数の何倍もの量を。時間はどれ程経ったかも分からない。それでも本当の意味で無心にはなれない、美空さんを忘れることはできない。
「っはぁ、はぁ…」
剣筋のブレがそれを嫌という程分からせようとしてくる。肩で息をするのも疲労感よりも自分への苛立ちから生じている。
「奴と戦うのは面白かったかぁ?」
どこからともなくラスタが姿を現し、俺のことを嘲笑う。
「まだまだこんなもんじゃ物足りないだろ?そうだよなぁ」
裂けそうな程口角を吊り上げて、不気味に笑う。顔に巻かれた包帯の間から垣間見える眼は玩具を前にした子供のように無邪気で不気味さは増し、俺の苛立ちも蓄積される。
俺は所詮、お前の実験体ってことか。
「まだ終わらねぇからよ、絶望って奴は。楽しみにしてろ」
何をするでもなく、話すだけでビル街の影に溶けて消えた。雑魚魔物達も全て倒し尽くした後、夕焼けを背中に受け一人、装備を解いた。
「…っ!!」
苦虫を潰したように顔は歪み、腕から力みが取れなくなっていた。ラスタの術中にはまっていることは分かっていても憎しみを抑えることはできない。失ったものがあまりにも大きすぎた。
あの時と同じように。
レイコ「なんでや!?今回ウチが主役とちゃうんか!?」
鋼也「主役の座は俺が頂いた!!」
美空「私だって譲りませんよ!?」
ソウタ「良いよなお前らは、主役争いに参加すら出来なそうなんだから」
レイコ「せやな」
鋼也「そうだな」
美空「そうですね」
ソウタ「簡単に同意しないで!!フォローって奴を忘れてるよ!!後、ミソラさんもそっち側行かないで!!」




