第71話 伝わらない真意
後はソウタを斬るだけ、そう思っていた鋼也の目に映ったのは、
「レイコっ!!」
人質にされていたレイコを震えながら必死に庇う美空の背中。突然投げ込まれた情報は鋼也の剣を鈍らせるのに充分な力を持っていた。彼女の叫びはその意図を激しく訴えられ、鋼也の体も半強制的に動かされる。ソウタの胴に直撃するはずが僅かに左にずれて掠めるに留まった。
傷口から鮮血と共に黒い風が意思を持って飛び出る。風が鋼也を通り抜ける一瞬の間、鋼也は幻覚を見た。何もない空間に二人きり。鋼也と、彼に姿形がそっくりな影。影は微笑しながら口を開く。
『またやろうぜ。ゲームはまだまだ始まったばかりだ』
幻覚が消えるとソウタが倒れこんだ。彼の装備も元の姿に戻っていた。ソウタを地面に寝かせると美空が慌てて傷口を塞ごうと回復魔法を使う。止血される頃にはレイコも目を覚ました。
目の前で行われているそれらのことも、鋼也にはどこか遠い場所のことのように思えていた。
「どうしてここに来た…んですか?」
「そ、それは…私達、パ、パートナーじゃないですか。だから──」
パートナーという言葉を恥じらいながら使うも言い終わる前に止められた。座り込んでいる美空は簡単に持ち上げられる。
「こ、コウヤ君?」
美空の呼び掛けにも答えない鋼也の目は彼があの鎧を纏っている時のように冷酷で、1度も美空を見ることはなかった。
鋼也はワープ用のカードでギルドへのゲートを開き、ただ黙って進んでいき、その後ろをソウタを担いだレイコがふらふらしながら追いかける。
『竜と女神』のフロントに着くとリュウジとリオが慌てて出迎えた。
「おっちゃん、過去持ちだ」
「えっ…」
「お、おい。お前何言って…」
その場にいる全員が鋼也の言っていることがすぐには理解できず、視線を鋼也に集める。
「ギルドマスターとしての命令だ。コイツは過去持ちになった。戦闘では役に立たない。適切な処理をしろ」
「…はい、かしこまりました」
「ちょっとリュウちゃん!?」
止めようとするリオを片手で拒み、ミソラの方に向き直す。リオから見たリュウジの表情はどこか寂しげだった。
「今日から《天空の白鳥》、ミソラのハンター資格を剥奪する」
沈黙の中で放たれた言葉の重みに最初の内は誰も反応できなかった。怯えて震える声を絞り出して美空が沈黙を破る。
「えっ…あの…何かの冗談、ですよね?」
「コウヤ君」と続けようとしたが彼の顔を見て押し黙ってしまう。鋼也の表情は険しく、冷たく突き放す物。何を言っても無駄なことを本能的に察してしまった。
「俺の家からもすぐに荷物をまとめて出て行くように。いいな」
「っ!?はい…」
俯いて声を吐き出すように口にし、そのまま他の誰にも目をくれず、走り去ってしまった。
「ごめんなさい…」
自らの不甲斐なさに漏れた謝罪は誰に届くこともなく溢れる雫と共に死角へと消えて行った。
美空「月見の季節ですね」
鋼也「あ、そう言えばもう過ぎてますね」
美空「え?まだ2月ですよ?」
鋼也「あ、はい。さいですか…ってそれそもそも月見の季節じゃない!!」
美空「さて次回は!!」
鋼也「唐突にカンペ読み始めた!?」
美空「コウヤ君も読んでください」
鋼也「えー何々…10月ということで後書きのネタが(思い付か)ないです。って何言わせとんねん!!本編の話しろよ!!」
美空「来週もお楽しみに~」
鋼也「楽しみにできない」
作者「ここでは二人も仲良くしてて欲しい人生でした(過去形)」