第6話 別れの挨拶?
こんにちは、天法院美空です。
先ほどのコウヤ君の言葉──記憶を書き換える──をずっと考えていました。一体、どういうことでしょうか?叔母に私についての記憶が残っているといろいろ大事になりそうなのは分かりますが…
と悩んでいたのも馬鹿馬鹿しく思える程、私の頭の中のもやが簡単に吹き飛びました。コウヤ君達魔物ハンターは魔法が使えるのでした。自分から聞いておきながら忘れていました。魔法は今の私にとって未知の物です。どんな効果が存在してもおかしくありません…よね?
私の家のビル──これからは元家──に着いて、衣類・化粧品・そして持ち出してもバレない額のお金──正確には5000万円ほど──を旅行用のバッグに入れ終えた時、私の部屋のドアをノックする音が聞こえました。ドアを開けると困った表情の叔母が立っていました。
「何をなさっているのですか?今日も一日中家に帰って来ないで。今日はお料理の先生がお見えになる日だったのに…」
叔母は私に親切に接してくれますが、自分が嫁げなかったからか(叔母は40代)私にあれこれ花嫁修業をしろと言って来ます。
私も絶対に結婚できるとは思ってなかったのと良くして貰っている叔母の提案だったのとで私もちゃんと花嫁修業をしていました。
ですがもう私には関係ありません。|コウヤ君〈お慕いしたい人〉ができたから、もう花嫁修業をする必要はありません。
「今までお世話になりました。これからは私のこい…いえ、友達と一緒に暮らします」
「何を言っているの?美空さん。貴方が居なくなったら一体誰が我が天法院家を継いでくれるというの?少しは自分の立場を考えてから行動しなさい」
「後継ぎぐらい私じゃなくても養子を取れば良いはずです。それに叔母様のお姉さんも──」
「あの人の話はよしなさい」
「ともかく、私は一緒にいたい人の側にいたいんです!!1人だった私を引き取ってくれた恩には感謝していますがこの気持ちだけは曲げられません」
私が言い張ると叔母は唖然としていたので荷物を持って家の外で待っているコウヤ君の元へと急ぎました。途中で正気を取り戻した叔母は後を追って来ました。直感的に速く逃げなくてはと思った私はドアを開けた時、私に叔母が追い付いて肩を掴まれてしまいました…どうしましょう?辺りを見てもコウヤ君はいないし…
「さあ、ゆっくり落ち着いて話しましょう。フフフ」
…もう悪役の台詞にしか聞こえませんね。
と思って笑った時、後ろにいた叔母の手が緩むのと同時に私の背中に叔母の体重がのしかかって来ました。どうした事かと後ろを見ると…
「美空さん、この人が叔母さんですか?」
気を失っている叔母とその上の何かに立っているコウヤ君がいました。どうやってやったのかは…相変わらず分かりませんね。
「…じゃあ記憶を書き換えますね」
そう言ってコウヤ君が取り出したのはカードとカードがちょうどすっぽり入るス〇カのカードホルダーのようでした。コウヤ君はカードホルダーにカードを入れると叔母の頭にかざしました。すると、コウヤ君の目の前に青い画面のような物が現れました。
「どういう記憶にしますか?」
なんて聞いて来ました。さて、どうしましょう?
「じゃあ私は交通事…?」
「どうかしましたか?」
不思議な違和感──既視感とでも言うのでしょうか?──を感じた私は言葉を詰まらせてしまいました…何でしょう?何が引っ掛かっているのかも分からないのに。
ずっと考えているとコウヤ君が心配そうに顔を覗いてくるので、(恥ずかしくなり)考えるのを一度止めました。
「私は交通事故で死んだとしておいてください」
「…分かりました。他に記憶を書き換えた方がいい方はいらっしゃいますか?」
「いえ、思い当たりません」
両親は事故で他界して…それです。私の両親は交通事故で私が小さい時になくなって…それで既視感を感じていたのです。でも、まさか私の記憶まで変えられてません、よね?はっきり覚えていますし。
「ふぅ…では、行きましょうかMTポリスへ」
今、私の幸せな世界へと通じる扉が開かれました。
ついにコウヤと美空の生活が始まります。