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トライアングルフォース~都会と魔物とラブコメと~  作者: INONN
第3章 実践昇華~竜と女神と戦乙女と~
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第62話 死する時の平等

 ムログの化け物のような額に表情という概念はほとんどないが唯一存在する嘲笑をその時、鋼也に向けていた。


 『さあ、絶望しろ。己の──人間の無能さを』


 上空に漂うムログに鋼也は加速し急接近する。ムログは剣を交差させ剣を迎え撃つ。剣に力をいくら加えても変わらない状態を瞬時に理解し、もう一度振るう。それをムログは受け止める。それを何度も繰り返し、それでもなお鋼也は突破口を見出だせず、ムログは嘲笑を崩すどころか更に口がつり上がった。


 『ヒッヒッヒ。どうした、オス。その鎧も見かけ倒しか?伝説にあやかって験担ぎってか?』


 聞く者を不快感に襲わせる挑発も意に介さず、それでもどこか鋼也の攻撃は熾烈化していった。ムログの狙いにも気付かずに。


 『ッハ!!化け物っつっても所詮人間。ちょっとそそのかすだけで調子に乗って足元を救われてんじゃ、世話ねぇよな!!』


 人間は誰しも完璧を目指す。しかし、到達できないから目指すのだ。何か一つを極めれば綻びが生じる。攻撃の速度を速めれば、今まで回っていた防御が疎かになる。その一瞬の隙を突かれ、胴と右手首に剣を突き刺された。

 残像しか見えなかった程の動きは止まり、剣がこぼれ落ちる音がなる。


 「…」


 ガクッと頭がうなだれる。ムログは戦意喪失と見なし声を上げて笑う。後はこの人間が守ろうとしたモノの行く末を見せつけて絶望の表情を楽しむだけだと。がすぐにその気は失せる。鋼也の後ろで眩しい光に身を包まれ杖を構えるそこにいるはずのない少女を、その者が放つ忌み嫌う魔力を感じて。次の時にはもうその魔力を自らを貫くとは露ほども思わずに。


 『グッ!!小賢しい、この程度…ッ!!』


 睨み付け反撃を試みたが、その時にようやく気付けた。少女の──美空の真の目的は攻撃ではなく、鋼也の救出であり、


 「『聖宝剣(エクスカリバー)』!!」


 鋼也の止めの一撃をサポートすることにあったのだ。



 束縛から脱出しようとは思ってはいたものの、急に崩れるとやっぱり驚きますね。なんて呑気に考えている暇もなく、私は重力に引っ張られています。

 と、パッとそれでいて優しく後ろから受け止められました。これはもしかしてコウヤ君が──そう思って振り向くと、


 「悪いな、嬢ちゃん。助けに来たのがおっちゃんで」

 「リュウジ…さん」


 そう、私を助けてくれたのはリュウジさんでした。まあですよねって感じです。よく考えれば今コウヤ君は魔人と戦っている訳ですし、そもそも目の前で魔人に勢い良く飛んで行ってるではありませんか。私の事など目の端もくれず。


 「そんな露骨に残念そうな顔すんなよ」

 「ソ、ソンナコトナイデス、ヨ?」

 「棒読みな上に目が泳いでんぞ」


 バレバレでした。取り繕いようがありませんね。


 「って!?リュウジさん、その傷どうしたんですか!?」


 リュウジさんの腹部には何で普通に喋れているのか不思議な程大きく丸い穴が開いていたので、すぐに回復魔法を使いました。


 「話逸らされたような気がするが「そんなことないです」分かった分かった。嬢ちゃんの目の前で体張ったんだがな。本当にあのバカしか見てねぇな」


 リュウジさん曰く、〈竜〉属性──特殊属性の一つで〈火〉属性の完全上位──の魔法は攻撃と身体能力を限界まで高めるという二つの種類に分かれるらしく、その内の身体強化を使い、少ない血液でも酸素が少量しかなくても生き抜けるレベルの魔法を使ったのだとか。リュウジさんも規格外ですね。

 穴が塞がるとリュウジさんは安堵のため息をつき、


 「ありがとな。さて、嬢ちゃん。やる気になったのは良いがどうすんだ?」


 見上げる先にはコウヤ君と魔人は入り込む隙もない空中戦が行われていました。もはや、姿もよく見えません。それでも、黙って見てる気なんてさらさらありません。


 「私に考えがあります」


 今日は言ってなかったので、

 私、天法院美空、大切な人の為、自分の為、行きます!!



 『グウォォァ、俺様があんなメス風情にィィィッ!!』


 凝縮された『聖宝剣(エクスカリバー)』を持った鋼也の一撃は胴体を貫通し、その有り余ったエネルギーを放出しムログを瓦解させる。消え損ねたムログの頭は美空に今まで以上の憎悪を放ち、そんな状況であるにも関わらず頭の回りは衰えていなかった。


 『このガキとオマエの心に一生消えねぇ傷を負わせてやらぁ!!俺様をこんなにした罪をそのチンケな人生で償えぁ!!』


 視点を目と鼻の先にいた鋼也に移し、怒りに任せ肩を噛みちぎる。鋼也は唸りもあげないが上がる血飛沫からその痛みは容易に想像でき、美空は声を失う。そこまで計算尽くだったのか、鋼也は動じず、まだ実態の残る『聖宝剣(エクスカリバー)』を振り、ムログを祓う。


 『チッ、気に食わねぇ!!オマエらだけは絶対に呪ってや──』

 「消えろ、お前らの呪いなんざ怖かねぇよ。今更」


 光の粒子となり消えるムログに鋼也は装備を解き、終わったにも関わらず睨み付ける。


 「あんな腹黒い奴が変に綺麗な光になりやがって、不平等な世界だ」


 武装を解除した鋼也に当然翼はなく重力によって導かれる。痛みが走り顔を歪めてなお皮肉った口調は変えなかった。


 「──コウヤ君!!」



 「あんな腹黒い奴が変に綺麗な光になりやがって、不平等な世界だ」


 俺はぼやいた。世の中の不条理に。だからと言って俺が死んだ時、あいつより輝くなんて思ってはない。罪の重さで言えば十中八九あいつよりどす黒いだろう。それでもあいつがああやって消えてくのを見ると、俺も許されるんじゃないかって思えてしまう。それがこの上なく気分が悪い。


 「試してみるか」


 そっと目を閉じ、肩から胸にかけての痛みも楽になる為の手段と思い力を抜く。するととても心地よく静かに風を切る。俺が許されるなら助かるんだろうか、それとも地に引き寄せられられても無事で生き殺しにされるという罰なのだろうか。俺には分からない。どちらにしても今より悪くなることはない、そう思っていた。


 「──コウヤ君!!」


 そんな考えから救ってくれたのはいつも彼女だった。


 「何考えてるんですか!?このまま落ちたらタダじゃ済みませんよ!!本当に、戦闘以外は私がいないと駄目ですね」


 後ろから優しく受け止めてくれる美空さんの目は心の真から心配して、それを呆れることで隠そうとしていた。どっかでその手口見たことあるな、と思ったら俺だわ。

 まったく、心配なんてしなくても良いのに。って俺もバレてるのか?


 「だから私も、コウヤ君を助けたいと思うんでしょうね」

 「いや、美空さんにはいつも助けて貰って「それは家事の話ですよね?」…はい」


 遮られた。機嫌を損なうこと言ったかな?ちょっと怒った顔を覗かせてるけど顔整ってるからむしろ可愛く見える。


 「最初はそれでも良いかと思ってましたけど、私も人間なんです。欲張りなんです。てもコウヤ君は守れそうにないので、コウヤ君を守る為に魔物との戦いを1日でもはやく終らせようと、考えるようにしようと思いました。コウヤ君の隣を一緒に飛んで」


 美空さんも、やめてくれよ。そんな顔で俺の為なんて言われたら、自分が許されてるみたいに思えてしまう。それだけはしてはいけない。美空さんは知らないだけで、俺は教えた後のことが怖くて言えないだけだ。


 「…全部、俺のせいだ」


 心の声が漏れてしまった。脈絡もなく美空さんもきょとんとした顔をしている。


 「え?…ふふ、そうですよ。分かってるなら、もう危ないことはやめてくださいね?私もいるんですから」

 「は、はい」


 後悔から返事にも身が入らない。この笑顔を向けられているのは俺じゃない。それは苦しいが話すことはできない。どこまでも臆病だなと思う。


 「コウヤ君、胸に顔を埋めすぎではありませんか?」


 そう言われれば、頭から落ちた俺を美空さんは横から胸で受け止めていた。当然後頭部に見えずとも主張の激しく柔らかい感触が直に伝わる。


 「あ、バレました?」


 悪びれもせず、顔をニヤつかせて見せる。


 「でも普段は美空さんからくっ付けてくるじゃないですか、歩いてる時とか」

 「女の子からなら良いんです!!」


 美空さんは恥ずかしいのと怒っているのとの間の表情で主張する。ゆっくりと降下し、地面に足が付いたので仕方なく離れる。


 「ああっ!!怪我の手当てを忘れてました!!」


 離れたことで俺の肩の怪我──傷は胴体まで来てるようだが──が目に付き、美空さんは慌て始めるかと思ったが、何かを思い付いたのかその場に座る。


 「そ、その…手当てしますのでどうぞこちらへ」


 そう言って促している場所は正座した美空さんの太ももだった。むしろ俺が慌てる番だ。何せ今の美空さんは動き易いように中に短パンを履いているとは言えミニスカートなのだ。つまるところ生足と触れる訳で…


 「あ、あの、美空さん?別に膝枕しなくても治療は」

 「安静な状態で処置した方が効率的です」


 そうだ。モトが違うんだから口喧嘩で勝てる訳なかった。にしては嬉しそうだな、美空さん。ポンポン、と太ももを叩いているからもう行かない訳にはいかないな。

 流石に緊張しもたついて、美空さんを枕にする。美空さんは満足そうに俺の肩に手をかざし、魔法を使用する。

 美空さんの太ももは温かく柔らかかった。視線を上げれば双丘の間から垣間見える慈愛に満ちたような笑顔に癒されることもできて良かったかも知れない。


 「ソレはボクのモノだ、愚民が気安く触れるな!!」


 耳障りな叫びは次回に回して、もうちょっとの間は至福のひとときを堪能した。

鋼「後半に美空さん飛んでませんでしたか?描写はあんまりなかったですけど」

美「そうですね。それでは行ってみましょう!!」

鋼「は…?」

美「美空先生のトラフォ講座ー!!という訳で、このコーナーでは作者の不手際で描写にできなかったシーンの解説を私がさせていただきます」

鋼「お、おう。いきなりですね」

美「ムログを倒すシーンから、私は飛行状態にありました」

鋼「でも魔法を使って飛んでなかったように思ったのですが」

美「コウヤ君がくれた《白翼を与える靴(ウイングブーツ)》はMPを送るとカノセさんの鎧のように飛行が可能になるのです」

鋼「説明不足解消できましたかね?」

美「これで大丈夫でしょう。今年もこの作品をよろしくお願いします」


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