第60話 冷淡と狂乱
「愚民ごときが、ボクを見下ろすな!!」
「……」
天を羽ばたき、銀色の光を反射──いや自ら放つ姿は煌治には忌々しくて仕方なかった。それは彼の性格の一部でもあるが大部分は魔人──ムログの感情に支配されていた。そのせいか元の煌治の声にしゃがれた声が含まれている。
「いつまでボクに逆らってられるか、なぁっ!!」
杖──今度はカードをスキャンしていない──を鋼也のいる上空に振りかざし、いくつもの魔法弾、それも負の感情を込めたかのような邪悪な深紫をしたそれを放つ。個々の魔法弾が列を成し、その行く先全てを凪ぎ払う斬撃となって鋼也を襲う。
「…」
斬撃の襲来と同時に鋼也の姿は書き消され、次に現れたのは煌治の背後だった。
鋼也が剣を降り下ろすのと同時に先までろくに動かなかった煌治がそれに反応し、深紫の矛先があしらわれた杖で向かいうつ。両者の激突で火花、衝撃波、負のオーラまでも飛び散る。自らの翼で推力を上げる鋼也、いつの間にか両足にも深紫を纏い弾きかえそうとする煌治。二人の均衡を破ったのは、
「『赤竜の咆哮』!!」
大剣を大地に突き刺し、柄と刃の間に埋め込まれた宝玉がリュウジの言葉に応じ瞳のように見開き赤く輝く。宝玉から出でる長い体をくねらせ深紅の残像を残しながら煌治めがけ突き進む。
「忌々しい。ボクに勝てる訳ないのにっ!!分からないなら見せてあげるよ、最強の力を!!『冥府の鳥籠』!!」
高々と叫ぶ煌治の周りを闇が球体で囲み、『赤竜の咆哮』か到達する前に煌治ごと姿を消す。見渡すもどこにも煌治を見ることはできない。ただ唯一、声だけはした。魔人──ムログの時のように脳内に響く不快な声として。
『はっはっはっ!!無様だなぁ、ギルドマスターなる者でさえボクを倒したくてもキョロキョロ首を傾げるしかないなんて!!ボクはここさ』
深紫の闇の攻撃はリュウジの真下──地面から複数発生し、リュウジを串刺しにする。
「ぐっ…!!」
『せっかくとどめを刺さないであげたんだから、ボクを殴って見ろよ。ギルドマスターの威厳の一つでも見せてみろよ!!まぁ、そんなこと誰もできやしない!!ボクは誰も到達しえない強さを手に入れたんだ!!』
一度は付いた膝を上げ、強がる。致命傷はないが腕など各所から出血している。立つのもやっとのレベルだ。
「ふん、さっきからギルドマスター、ギルドマスターってよくもまあ代行に言ってくれるじゃねぇか」
『はぁ?この期に及んで何を言ってるんだ?愚民に何かに何ができるって言うんだ!?力を持たない愚民が』
煌治の問には答えず、縛られ無気力に俯く美空に問いかける。
「お嬢ちゃん、何で俺がまだ笑ってられると思うかい?敵は手の届かないところにいる、コッチはぼろぼろ。それでも必ずアイツならやってくれる───っていう希望があるからだ。お前さんもそうだったんだろ?あのバカに魅入られた一人なんだろ?なら、それを信じて、自分にできることを探せば良いんだ!!それで、アイツを暖かく迎えてやれば───」
『ボクを無視するな!!』
リュウジの言葉を遮り、リュウジの影から黒い刺が一本、飛び出し、胴を貫通する。傷口から赤黒く流れ、口から吐いても止まらぬ程、血液を失い、同時に気力も薄れていく。それでもなお立ち続け、言葉を振り絞る。
「お前、影の中にいるんだろ?それくらい、うちの大将ならやってのけるぜ。本物の、な」
その台詞が根拠のない強がりにしか聞こえない煌治には、影の中にいた煌治には見えていなかった。彼の眼差しの先に真の希望──煌治にとっての絶望が異なる世界へと羽ばたこうとするのを。
「トライアングルフォース──アドバンス〈光〉」
11月にあまり投稿できなかったので年末にかけてペースを上げて行こうと思っているのでお楽しみに。




