第57話 夢は自由に見るもの
鋼也、美空が煌治に初めて会った日の翌朝。
美空はいつものように豪華な朝食を作り、鋼也の部屋を訪れる。カーテンを開け日差しが鋼也の顔に届くと不機嫌そうに寝返りを打ち安全圏に移動する。
「コウヤ君、起きてください。今日は大事な日だって言いましたよね」
「…後、5分…」
鋼也が簡単に目を覚まさないのもいつものことなので美空もそこまで怒ってはいない。むしろ年相応な──よりかは幼い──反応で可愛く思えた。
「…揉ませて…」
最後の一言を聞くまでは。美空には鋼也がどんな夢を見ているのか分からず、もしかしたら誤解かもしれない。が、デリカシーを欠片でも良いから持って欲しいと思う美空の思いは開いた手に移り、美空の華奢な腕は鞭のようにしなり綺麗な音を立てた。
(はぁ、こんな人でも勇気を与えてくれるのがやっぱり不思議。だからこそ、なのかな?)
赤くなった頬──本人は知らない──をさすりながら鋼也は上半身を起こす。
「おはよう、美空さん。何かほっぺたが痛い気が「気のせいじゃないですか」…そうですね」
「朝ごはん、用意できてますので早く用意してくださいね」
鋼也の言葉を遮り、美空は満面の笑みで部屋から立ち去る。
今日は美空にとって運命の日。これまで通りこの上ない幸せな日常を送るか、それとも…
だが、昨日とは違い美空は少しも負けることを考えていない。魔物の特殊効果による混乱が解け落ち着いたのもあるが、彼女にとって一番大きい要因はやはり鋼也だ。
◆
今回は──前回のカノセの時とは違い──集合時刻より早くギルド『竜と女神』に付いた。煌治が「せっかくだから女神や貴女のお知り合いの方にも見て貰えるよう、貴女との出会いの場、あのギルドで行いましょう」とのことで本部ではなく『竜と女神』で行うことになっていた。
その言葉通り『竜と女神』にはレイコとソウタが来ていた。
「久しぶりやな、二人共」
「お前ら、何で来てんの?」
「会って2秒でそれはひどい!!」
「何でも何もないわ。あのいけ好かない男が『ミソラさんが誰を選ぶのか、しかと見ると良いさ』とか抜かしやがって」
「俺もそう。アイツってアレだろ?じいちゃんの孫で有名な《七光りの魔術師》だろ?」
ソウタの問いに応えたのは後から来た意外な者だった。
「そのじいちゃんというのが、かの寿善治様のことであるならそうだな」
「カノセ、お前も来たのか」
「私も彼女の友なのでな。有給を取って来た」
言葉通り、カノセはいつも着用している武装をしていない。髪飾りも羽をモチーフとした金属のものではなく、少女らしいカチューシャだった。
「煌治様は多くの意味で名高い。それこそ添い遂げようと口説いた回数と人数は星の数とも言われ、本部の同僚内でも話題になっている。それを美空が倒してくれるというのならば私としても鼻が高い」
「本当いるんだよなーそうやって力があるからって好き勝手やる奴」
鋼也はカノセに同調したつもりだったが全員が鋼也の顔を見た。鋼也はたじろぎ、
「ブーメランだな」
「ブーメランやな」
「ブーメランですね」
ソウタもレイコも美空も口を揃えて言った。
「…そうだ。お前みたいな馬鹿がいるから備品の再調達費や隊員への手当てで予算がカツカツになるんだ。分かっているのか、コウヤ!!」
「決闘で負けたんだから文句言うなよ。でもそこまで差し迫った感じなら俺も責任を感じるからな。だから」
鋼也を指差し豹のような恐ろしい目付きで叫ぶカノセに、鋼也は少し間をあけ自信満々で提案をする。
「このイケメンの俺がアイドル紛いなことして貢がせた金を寄付してやっても良いぞ。ついでにソウタもセットだ」
「何で俺がおまけなんだよ」
「…だ、ダメですっ!!」「…だ、ダメに決まってるだろうっ!!」
「なんや間があったな」
一瞬でも想像に浸ってしまった美空とカノセが否定するのはレイコの言うように間が空いた。
「ふ、ふん。お前なんかがステージに立とうと、喫茶店で執事をしようと、膝枕とかなんとか…」
「欲望駄々漏れやな。それに『なんか』なんてアンタがよう言いおるな」
「と、とにかく!!何をしようと客など来るはずがなかろう。そんな無駄なことをする余裕があるなら仕事をしていろ」
「計画段階で既に二人程来そうだけどな」
カノセは素直になれず必至に抵抗していると外に車のタイヤが擦れる音がし、5人は扉に目を向ける。原則としてマイカー通勤禁止のこのギルド、『竜と女神』の前に白昼堂々と路駐をする人物は鋼也達にとって一人しか心当たりがない。
「さあ!!今日の主役にして世界一幸せ者な花婿の登場だ!!ボクのことを讃えたまえ!!それと…」
煌治は美空の周りを取り巻く鋼也達を見下すように睨む。
「キミ達、特にコウヤだっけぇ?よく見ていれば良いさ。ミソラさんがどんな選択をするのかをね。ボクか、それとも何の価値もないキミ達か」
憎まれ口をたたく煌治にはいつもとは違う根拠のある絶対的な自信がみなぎっているように見える。美空は前日と同じような恐怖を感じるかと身構えたが不思議とそれは来なかった。
(そうか、皆がいてくれるから。一人とは違う。昨日の何も出来なかった私とは…違う!!)
「勝負です、煌治さん!!」
美空の目に闘志が宿り力強く宣戦布告をする。今、本当の意味で美空の戦いが始まった。
レイコ「今回の後書きはウチらトラフォガールズでお送りするで」
カノセ「何だそれは?」
美空「初耳なんですけど」
レイコ「そんなことはほっといてやな、ウチには気に食わんことがあるんや」
美空「また突然ですね」
レイコ「ええやろ?ここ女子会なんやから」
カノセ「ツッコむのも面倒だから早く用件を言ったらどうだ?」
レイコ「それはな…あんのいけ好かない薄ら笑い野郎が一切ウチを口説こうとせんことや!!」
カノセ「そう言えば私もだな」
美空「レイコは煌治さんみたいな人がタイプなの?」
レイコ「そうゆことやなくてな、奴がウチを女性として見てないんやないかってことや」
美空「言いにくいけど、そもそもレイコは女の子っぽくないけどね」
カノセ「いや、ちょっと待て。今、煌治様に口説かれた人物リストを見たところ」
美空「そんなのあるんだ」
カノセ「全員がその…」
レイコ「なんや?焦らすなー」
カノセ「全員がきょ、巨乳のようだ…」(ぼそぼそ)
レイコ「な、なんやて!?」
カノセ「…許せん、女を胸でしか見ないとは」←着けてる防具と変わらない
レイコ「せやせや!!カチコミ行ったろうや!!」←ない訳ではない
美空「まあまあ、二人共落ち着いて。次回私が代わりに倒してきますから」←圧倒的
レイコ「なああぁぁぁ~」
カノセ「これが、質量差かっ…!!」
美空「ど、どうしたんですかー?二人して走り出してー…行っちゃった」
胸は色んな意味でステータスなんですよね。下手に転べば巨乳はデブに、貧乳もスレンダーになりますからね。別に貧乳が悪いとは言いませんが。