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トライアングルフォース~都会と魔物とラブコメと~  作者: INONN
第3章 実践昇華~竜と女神と戦乙女と~
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第50話 新槍到来

 『お待たせ致しました!!バトルある所に私あり、とも言われることもまあなくはない?このマサミ!!僭越ながらこの度本部での公式戦の実況をさせて頂きます!!』


 鋼也達が戦闘前の体ほぐしをしている闘技場に機械を通した声が鼓膜を破りそうな勢いで響いた。当然全員が耳を防いだ。


 「っだぁ!!うるせぇ!!つうか、なんでお前がいる!?」


 鋼也が実況席のようなものが見える場所を指差して叫ぶ。


 『おや、そこに見えるのは《大空の遊挟(スカイピオーネ)》の片割れとして巷で話題のコウヤ選手ではないか。ども、お久しぶりです』

 「な、なんて?」

 『説明しましょう。《大空の遊挟(スカイピオーネ)》とは、最近、巨大な魔物を実質二人で撃破したと言う化け物の噂が周り回って付いたパーティの二つ名のことです。由来は二人とも空を飛びながらの空中戦の圧倒的強さ、だそうです。ご存知ありませんでした?』


 マサミがさも当然のように言い放ち、最後は煽り調子だったので鋼也もイラついた。


 『とまあ、積もる話もここまでにして「喧しい!!お前とする話なんかねぇ!!」今回、あの魔物ハンター界に舞い降りた天使、カノセ様が公式戦を執り行われると聞いて黙っても居られず、本部の受付係さんに直談判したところ』

 「まてまて、どこに直談判してんだ!?受付係さんが可哀想だろ」

 『そこを偶然、カノセ様に止めて頂いて事情を伝えると快く了解を得ることができましたので、こうして特設実況ブースを設立し実況を担当させて頂くこととなりました!!』


 バンと音がなる程、強く特設実況ブース──正確には机と板で周りを覆い学園の実況室のような状況──を叩き自慢気に話す。


 『はぁ、実家のような安心感があります』

 「うん、なんかもう疲れたから、ツッコまない」

 『そしてっ、私とカノセ様がいるだけで既に花畑状態なこの試合に更に花を添えてくれるのはっ、今話題のパーティ《大空の遊挟(スカイピオーネ)》のミソラさんにゲストとして来て頂きました!!』


 マサミがいつの間にか隣に置いてあった麻袋を取ると口を布で塞がれた美空が姿を現した。目に涙を浮かべ唸っている。仕方ないと思いマサミは口の布をほどく。


 「ど、どうしてこんなことに…」

 『今日はゲスト&コウヤ選手の弱み提供を担当して頂きたいと思います。お楽しみに!!』

 「ねじ伏せた!!つーか、完全に拉致だろ!?」


 鋼也が叫んでいると、


 「うるさいぞ、《白銀の槍騎士(シルバーランスロッド)》!!試合前だというのに緊張感のない」


 カノセは剣を何度か素振りしながら注意する。その態度もムカついたが話が進まないと考え、


 「はいはい、俺が悪ぅございました!!じゃあ、さっさと始めっか?」

 「ああ、二人は準備良いか?」


 カノセがリウとソノに振り返り聞くと「「はい!!」」と元気な声で答えた。


 『それでは!!ミソラさんもご一緒に!!』

 『え、あ、はい』

 『『3、2、1、バトルスタート!!』』


 美空とマサミの掛け声と同時に鋼也とカノセが走り出す。リウとソノはガラスのように透明な杖を持ち左右に別れて移動する。


 『おっと!!コウヤ選手、いきなり《加速する槍(スピードランス)》の加速&飛行でカノセ様の上を取った!!』

 「喰らえっ!!」


 そのまま《加速する槍(スピードランス)》をカノセのいる方向に向けてもう一度能力を発動させて突撃した。しかし、ぶつかる直前でカノセは鎧の背部から翼を展開して上空に逃げる。


 『出ました!!カノセ様の十八番、鎧の装甲にMPを流し込むことによって擬似的な魔法の翼を生成し、それを駆使して自由自在に大空を飛ぶ───これこそ神の使いこと《戦乙女(ヴァルキリー)》の由来です!!』


 鋼也がカノセに気を取られているうちにリウとソノは鋼也を挟み撃ちする位置に移動して〈氷〉属性の魔法を放つ。


 『〈氷〉属性の魔法、『翔氷塊(ダイヤモンドダスト)』ですね。威力よりも冷却能力が高い物です』

 『流石本業、良くご存知で!!では、何かを狙っていると考えて』

 『良いと思います。わざわざ『翔氷塊(ダイヤモンドダスト)』を二人とも撃って来たのですから』


 冷静に話してはいるがその目は鋼也を悲しげに見ていた。

 そんな心配は気にもせず鋼也は笑ってカノセを見上げている。


 「これくらいじゃ俺は止められねぇぜ!!」

 「なら、これでどうだ!!『火炎弾(ブレイネンクーゲル)』」


 剣を持っていない左手から炎の弾を出現させて鋼也に向けて放つ。鋼也は盾で防ぎ再度槍で加速してカノセ目掛けて突撃する。直線的な攻撃だったので簡単にカノセは避けたが鋼也はカノセの後ろで槍の向きを変えて旋回しもう一度突撃する。


 「ふっ、そう来たか…『紅蓮壁(グラナーウォール)』」

 『〈炎〉属性魔法で壁を作りコウヤ選手の攻撃を防いだ!!流石、カノセ様!!』


 攻撃を防がれた鋼也は何度か力強い突きを放つ。


 「まだまだっ!!」

 「力任せで私に勝てると思うなっ!!」


 全ての突きを剣でいなした。力では鋼也には敵わないがいなす剣技は美しく無駄のなかった。

 立て直す為に鋼也はバク転で後ろに引く。そこをリウとソノが狙い打ち『翔氷塊(ダイヤモンドダスト)』を確実に当ててくる。追い討ちにカノセが剣に炎を纏わせ斬りかかる。


 「喰らえっ『豪炎剣(レーヴァティン)』!!」


 縦に振られたその一撃は横にずれて避ける。ギリギリのところで剣先を曲げて再度鋼也を狙うが盾で弾かれた。


 「『魔装剣』にこの魔法の組み合わせ…なるほどな」


 鋼也は自らの槍と盾を見て関心した様子で頷いてカノセに向けて手招きする。


 「来いよ、その戦法で勝てるならな」

 「言われるまでもない!!リウ、ソノ!!」


 カノセは二人に指示を出し魔法が放たれる。それをジャンプして避ける鋼也の動きを先読みしたカノセが鋼也の頭上で待ち伏せして魔法の当たる地点に叩き落とす。


 『またも『翔氷塊(ダイヤモンドダスト)』命中!!しかし、大きなダメージはなさそうだ』

 『これは…』


 カノセは翼で滑空し『豪炎剣(レーヴァティン)』となった剣を向けて鋼也に突撃する。鋼也が盾で受けると、


 『な、なんとっ!!コウヤ選手の盾がカノセ様の一撃で砕けた!!この戦法どこかで…』

 『レイトさんの得意戦法──〈炎〉、〈氷〉属性の連続攻撃により温度を急激に変化させて武具の強度を下げて壊す──と言うことですねって実況してましたよね?覚えてないんですか?』

 『戦局にも変化があったようです!!』

 (誤魔化した)


 呆れながら美空が視線を戻すとそこにはリウとソノしか居らず、鋼也とカノセの姿がどこにも見えない。横のマサミが上を向いているのに気付き同じように見上げると上空に進む二筋の光が微かに見えた。


 『空中戦に入ってしまったようなのでモニターに映像を映します。ちなみにこの闘技場はオゾン層まで再現されており闘技場内であればどこでも映像が見れるというご都合主ゲフンゲフン…システムになっています』


 画面には《加速する槍(スピードランス)》で先を飛ぶ鋼也とそれを鎧の背部から生えている光の翼をはためかせて追う。どちらもどんどん高度を上げて行き地上からの肉眼では最早見ることは不可能になっていた。


 『…こうなるとコウヤ君が有利ですね。《加速する槍(スピードランス)》とカノセさんの翼───《天からの恩寵(ヒメルグナーテル)》の翼の出力値ステータスで言うと、ですけどね。それを見越して時間稼ぎをして体勢を立て直そうとしてるのでしょう』

 『このままではカノセ様は追い付けないと?』

 『カノセさんもそれは重々承知の上、こうして追いかけているのでしょうから何か策があると見て間違いないですね』


 一方、上空。二人の周りは暗くなっている程上昇を続けてきたことになる。結構な差が開いてしまったので鋼也は後ろを振り返りカノセに叫ぶ。


 「このまま鬼ごっこしても俺にゃ追い付けねぇぞ」

 「いいや、そんなことはない…そろそろだな」


 カノセが言い終えた時、鋼也の槍──《加速する槍(スピードランス)》が突如音を出して破裂した。


 『ここに来てコウヤ選手の槍が爆発!?』

 『おそらく武器破壊の過程でひびが入っていたところで出力限界まで効果を使ったのでオーバーヒートしたのでしょう』


 鋼也は槍を失い自由落下をする他なくその軌道の先にはカノセが剣を鋼也と垂直に持って待ち構えている。何も持っていない鋼也に打つ手はなかった。


 「これで終わりだ!!」

 「それはどうかな?…って言える余裕があるのは美空さんのおかげだな」


 そう言うと腰に着けてあるカードケースから新たなカードを取り出す。青くメタリックに輝くそのカードはまぶしい程の光を放ち姿を変える。

 カードの色と同じ色の槍を逆手に持ち勢いを付けて振るう。槍先から衝撃波が全方向に飛びすぐ近くにいたカノセは勿論、遥か遠くのリウやソノのいる地上にまで届き体を上下に引き裂いた。

 これまた勿論、闘技場内でのことなので三人共実際に死んではいない。



 「…馬鹿な、お前が武器を新たに出すなんて──」


 今度はカノセが闘技場のシステム処理の影響でゆっくり落下して行く中、発した。鋼也は槍の力で飛翔してカノセの落下速度に合わせて降下する。


 「俺もコイツが──《錬成銀の風(ヴァン・アゾット)》がなかったら勝てなかったかもな」


 ふと、鋼也は昨日のことを思い出す。



 俺達───俺と美空さんの前には倉庫から持って来た山積みのカードが並んでいた。


 「この中に前に使っていたカードがある…はずです」

 「はず!?ないかも知れないんですか?」


 美空さんもいつものノリで少しオーバーにも思えるリアクションをするがそんな暇もないから椅子に座り黙々とカードを見る。美空さんも諦めて同じようにカードを漁り始める。


 時折、美空さんが作ってくれた物をつまみながら探したが中々見つからない。夜になり美空さんには先に寝てもらう。俺一人にやらせるのを気の毒と思ったのか部屋に戻ろうとしなかったから、


 「夜更かしは肌に悪いって良く言うじゃないですか。任せてください。美空さんを安心させてあげますから」


 と格好付けて大見得切ったものの朝になっても見つからなくギリギリまで探した結果、一番下にあった。流石にイラッと来て危うくカードをそのまま握り潰してしまうところだったが思い留まりカードケースに忍ばせた。時間に遅れたのもこれのせいだ。



 「お前もセコいことするな。分かってて武器壊しただろ?俺が直接女性に手を上げないこと──少なくとも女と見てる奴にはだけど」

 「それも戦術だ」


 冷淡な台詞だったがいつもの勇ましさは感じられずぼそぼそと呟いた。決まりが悪いのか目も反らしていた。


 「まあ、それで恨まないがな。両親との約束だから」

 「それだけではなく、昔の《武器破壊の双剣(デュアルブレイカー)》との試合を見てな。まんまと武器を壊され苦戦していただろ?昔の失敗でもまた繰り返してしまうこともある、と思ってな」

 「レイトとやったのも随分前のことだ。ある意味賭けだな」

 「ふふ、そうだな。私らしくもない」


 カノセが自嘲気味に笑うと鋼也もつられて笑った。


 「焦って…熱くなり過ぎたのかな…」


 少量漏れた乙女としての気持ちは鋼也の耳には届かず「ん?何だって?」と聞き返すが「…何でもない」としか返ってこないのでただゆっくりと落ちて行くのを無言で、それでも不思議と悪くはない空気で過ごす。

 地上に戻って来るとバスケットボールの大会のような大きなブザーがなった。


 『決まってしまったぁ!!オゾン層付近まで及んだ戦いも決着!!なんと、我らがカノセ様が敗北!!そんなことがあって許されるのか!?』

 「実況が一方を贔屓し過ぎじゃねぇか!!」


 戻って来るなりうるさくカノセの敗北を嘆いていたので鋼也もツッコまざるおえなかった。


 「「カノセ様ぁ~」」

 「ああ、分かった分かった。二人共ありがとう」

 「「お役に立てず、ごめんなさいぃ~」」


 二人揃ってカノセに泣きつき、カノセは頭をポンポンと軽く叩いて宥める。


 「いや、十分力になってくれた」


 そう言っても中々泣き止まないので一度外に出て休ませる。鋼也もすることがなく付いていった。

 とそこに、特設実況ブースから脱した美空が駆けて来た。


 「良かった、信じてはいたんです!!信じてはいたんですけどやっぱり…心配で…」


 笑っている顔が鋼也を改めて見るなり涙を浮かべる。


 「えっ!?ど、どうしたんですか!?美空さん」

 「信じてるって泣かないように必至になって堪えてて、でもコウヤ君の顔を見たら、止まらなくて…」


 鋼也の腕に抱き付いて声を出して泣いた。


 「貴様のせいで皆が泣いているではないか。まったくひどいことをするな、コウヤ(・・・)


 カノセもいつものような固さはなく冗談ぽく言っていた。そこで美空ははっとした。


 「って、今名前…」

 「ああ、仕事は終わったからな。二つ名は仕事名でもあるから公私混同しないように仕事ではそう呼んでる」

 「そうなんですか」


 実に真面目なカノセらしい理由だと美空も感心した。


 「君のこともミソラと呼んでも良いだろうか?」

 「はい、構いませんよ」


 カノセが手を差し出すので美空は応じて強く握った。その強さと同じくらいの友情が生まれたような気がして二人は顔を見合わせて笑う。


 「今度はミソラとも一戦交えてみたいものだな」

 「えっ!?わ、私、後衛職なのでカノセさんみたいに俊敏に動く方とソロは難しいと思いますよ?」


 カノセが強敵なのは分かっていて流石の美空もいきなり対戦を挑まれては臆するしかなかった。だがカノセも食い下がる。


 「君だったら広範囲攻撃もできるんじゃないか!?」

 「いえ、高々『極限の吹雪アブソリュートブリザード』ぐらいしかできないので」


 そう遠慮がちに言うが鋼也以外が目を丸くした。


 「超級の魔法じゃないか!?それを高々、とは…更に本部に呼びたくなったよ」

 「だ、駄目ですっ!!言いましたよね…って」


 後半は口ごもり良く聞こえなかったがチラチラと鋼也の方を見ていたので察しが付いた。当の本人は気付いていない様子だった。


 「分かっている、分かっているが…やはり許さん、《白銀の槍騎士(シルバーランスロッド)》!!」

 「あ、カノセ様が仕事モードに戻った」

 「何で俺何だよってあぶねっ!!」


 いきなりカノセは鋼也に斬りかかった。間一髪で避けて鋼也も槍で応戦──ただ受け身をとるだけ──する。


 「おい、闘技場の外なんだから本当に死ぬぞ!!」

 「ふん、黙って殴られれば良い話だ」

 「良い訳あるかっ!!」


 これも一種の戦いではあるが辛さはなく自然と笑いがこぼれるようなどこかおかしさがあった。

 斬りかかりながらカノセは泣いていた。手に入れる最後のチャンスを失ってしまったことと、二人を見て失って良かったという安堵で。

作者「あーっ1話でカノセ編完結するって言ったから長くなったけど(言い訳)やっと終わったー!!」

美空「お疲れ様でした。肩でも揉みましょうか?」(幻聴)

鋼也「まったく、いつも遅い癖に疲れた自慢ばっかしやがって。さっさと俺の勇姿を書けば良いのによ」(幻聴)

作者「それより、胸揉ませて」

美空「それもうセクハラですよ?」(幻聴)

鋼也「話聞けーっ!!」(幻聴)

こんな幻聴聞こえるようになったら本当に終わりだなって思うけど望んでいる自分もいる。でもこうやって見ると鋼也もツンデレ属性持ったヒロインと分類できなくもないところが笑った。

と言う訳でカノセ編は無事終了です。次回からは新キャラ登場予定!!お楽しみに!!(予定は未定です←ここ重要)

追記、一応出してなかった《錬成銀の風(ヴァン・アゾット)》の情報を載せておきます。


錬成銀の風(ヴァン・アゾット)

青い透明なMP産特殊金属を穂先に使用した細身の槍。その金属の力により振るうことによって風を取り込み原動力として持ち手のいる方向以外の全方向に高火力の衝撃波を打ち出す。その代わりに硬度がなく直接攻撃には向かない。

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