第48話 束の間の休日
お久しぶりです。作品の前半部分の変更や段落を付けて読みやすくしましたので時間があれば目を通してください。きっと分かり易いと思います(いままで分かりずらくてすみません)
赤い空の下、逃げる場所も力もなく、少女は一人、いびつなシルエットの何かに怯えていた。
何かは獣の爪のような刃が先に付いた武器を振り上げる。その動きは躊躇いがあるかのようにギクシャクしていた。それでも目を紫色に光らせ、少女めがけて武器を振るう。
赤いしぶきが飛び、何かは疲労のためか肩で息をしている。
「っコラコラ、駄目じゃないか。女性には優しく接しろって言ってるだろ?特にこんなかわいい女の子が相手なら」
割って入った男は少女を庇い腕から血が流れていたが、気にすることもなく少女の頭を撫でて笑っていた。
何かも言われたことも気にせず再び迫って来る。
「はぁ、言っても分かんないようじゃ、お前、コミュ障になって一生童貞貫くことになるぞ?んなことで魔法使えるように成りたくはないだろ?」
「何をふざけているのよ、こんな時に」
「ふざけてねぇって、本当にそうなるから」
男は後から来た女に怒られても平気な様子でポケットからカードを取り出し、何かに投げつける。
すると、カードは何かの体に吸収されていき、動きが変わりどこかへ飛んで行った。
「すまん、嬢ちゃん。助けた恩を返してくれって訳じゃねぇんだがちょっと巻き込まれてくれ」
男は少女に振り返ると少女の頭に別のカードをかざすと何の抵抗もなく吸い込まれていった。
「あら、あなたもしかして───?運命ってすごいわね」
◆
こんにちは、天法院美空です。
巨体な魔物と戦い、コウヤ君がカノセさんに大見得を切った次の日、また戦いが始まる前日の今日。コウヤ君が明日のために何か用意をするのかと朝早くから起きて───緊張して眠れないという理由もあったが───身構えていたのに、コウヤ君は中々部屋から出て来なかったのです。かといって自室で何かをしているということでもない、物音一つしない朝でした。
結局、いつもの時間ぐらいに起こしに行きました。私は自分のことでもないのに緊張して眠れないと言うのに、コウヤ君は普通に眠っていました。
「…ん、おはようございます」
「「…ん」じゃないですよ。緊張感とかないんですか!?」
ベッドから体を起こし腰かける体勢になったコウヤ君の隣に座り、横から抱き付きました。咄嗟のことでコウヤ君も驚きます。
「え、ちょっと、美空さん!?」
「…昨日、コウヤ君があんなこと言っちゃって、もしかしたら、もう二度と一緒にいられなくなるかも知れないんですよ!?」
私の心からの言葉、これが届かないなら、もうしょうがないと諦めます。でも、言わないまま終わらせたくない。
「…まだ心配していたんですか?そんなこと「そんなことなんて言わないでください!!」」
私が叫んだのでコウヤ君は押し黙りました。
「もちろん、コウヤ君が強いのは知っています。信じてもいます。それでも、何が起きるかも分からないのが戦場ってことは魔物ハンターになって日が浅い私でも分かっています。コウヤ君も覚えてますよね?あの日のこと」
◆
美空が魔物ハンターになってから数週間後のこと、
「今回は弱い魔物が広範囲に多く出現したそうなので手分けして終わらせましょう。僕も終わったら速めに戻って来ますから」
横浜のビル街の一つの屋上にて話し合い、鋼也は向こうに言ってしまった後、美空は少々残念に思いながら自分の担当地域に向かった。
話の通り、小型魔物が多く出現していた。中には人が襲われている場面もあり、美空は迅速に魔法を放ち正確に魔物だけに攻撃して人を解放していった。美空もだんだん鋼也もおらず単純作業を退屈と思い始める。その油断が命取りとなることも知らずに、
「きゃっ、な、何が!?」
いきなり背後から衝撃を受けて体勢を崩す。辺りを見渡すもそれらしき力を持った魔物はおらず、他への攻撃を続ける美空へ再度攻撃が行われた。今度は運悪く、杖を持っている手に攻撃が及び杖を手放してしまう。そうしてやっと美空にも敵の姿を捉えることができた。
魔物は狼のような見た目をしていて高速で動き続けているようだ。ようだ、とは実際に見える訳ではなく魔物が残す残像や僅かな知識から導き出した解だからだ。
しかし、その正体が分かったとたんそれ以上考えることができなかった。今回の魔物のように動きの速い魔物は壁役が引き付けている間に横から攻撃するか、多少の傷は覚悟で正面から高火力で迎え打つか、の二つが主流である。当然、美空もそれは覚えていたが、だからこそ打つ手が思い付かなかった。
壁役どころか戦える人すら周りにいなく、高火力を出そうにも杖がなくては魔法の威力を上げることは難しく、もしそれで倒してもMPを使い切ってしまったら、まだ他にいる多くの魔物を倒すことができなくなってしまう。こんな時に限って魔物に襲われる人々の悲鳴が聞こえてきて余計に焦る。
満身創痍になって俯いていると上から自分の杖が目の前に落ちた。その方を見上げると鋼也がいた。それだけで美空の心に余裕がもたらされた。しかし、美空の心情とは裏腹に鋼也は静かに怒っていた。
「…美空さん、油断してましたね?」
目を合わせずに言われ美空もすぐに恐怖を感じ、言葉を発せずただただ頷く。それを見なくても分かっているのか鋼也は続きを話す。
「…っ!!油断は自分だけでなく他人をも危険に晒すことになるんです!!」
話の途中に全速力で飛び込んで来る魔物にも怯まず、その姿をしっかり目で捉え魔物の芯を槍で正確に突く。
「それを理解していない者に戦場に立つ権利はない、立つ踏み入ることさえ許されない…んです!!」
その後は美空もしっかりと魔物を倒し任務をクリアしたが家に帰り夕食の時間になるまで鋼也の張り詰めた空気が続き美空にとってはとても息苦しかった。
◆
「「油断は自分だけでなく他人をも危険に晒すことになる」って、教えてくれたのはコウヤ君じゃないですか」
「いや、でも明日は一人で」
「…コウヤ君が負けたら何でもするって言っちゃたからいけないんですよ」
今までのカノセさんの言動から考えるとほぼ確実にコウヤ君を独り占めしたり、あんなことやこんなことをさせて…ぐへへ…
「美空さん、どうしました?急に呼吸が荒くなって、顔も赤くして」
「そ、そんなことより!!もし、万が一にでも、それこそ油断して、コウヤ君が負けてしまったらカノセさんが何を言い出すか分かりませんよ?本当にもう戦わせないなんて言われたら?言う事聞かないからどこかに閉じ込めるって言われたら?私、そうしたら誰に料理作ってあげれば良いんですか?」
さっき考えた変な例えではないものを挙げて、後々考えるととても恥ずかしい台詞ですが、それでも心からの本当の気持ちを伝えました。コウヤ君はしばし目を瞑りため息をついて、
「…そうですね。どんな時でも戦いに行くなら準備を怠ったらいけませんよね」
優しく笑ってくれました。少しは、気持ちが伝わったのかな?
私が抱き付いていた手を離すとコウヤ君は部屋から出て行きました。後を付いて行くと、行き先は私にくれたカードがしまってあった部屋でした。
「…さて、ここから探さないとな」
ドアを開けてさっきとは違い自嘲気味に笑い部屋の中を見ていました。中には前と同じく雑然とカードやカードにできない武器が置かれています。まさか…
「…まさかここから何か探すんですか?」
「はい、確実に、100%勝つための秘密兵器を、ですね」
今の言葉を聞いて、嬉しいようで、悲しいような複雑な気持ちになり、
「…とりあえず、朝食食べましょうか?」
「そうですね」
戦意喪失しました。それでも、食べた後はちゃんとコウヤ君の手伝いをしました。最後の二人でいる時間にならないように。
次回、カノセ編完結予定です。その後はまた新キャラ出して新シリーズになる予定ですのでよろしくお願いします。




