第44話 二度あることは三度あるが四度はないといつから錯覚していた?(タイトル長い)
横浜の街中を一歩一歩ゆっくり、それでも地面を揺らして歩く巨大生物。重厚感のあるゴツゴツとした岩のような体を運び自らの餌を探す。しかし、逃げたのか見つからない。そのことを落胆する感情もないその生物は進み続ける。先に自らを倒す為に待ち構える者達がいるのも知らずに、いや、そのようなことは気にも止めずに。
「魔物接近、魔物接近」
上空で偵察していた一人からの連絡が一斉にその場にいた全員に伝わる。〈風〉属性の魔法で一人一人の耳にだけ声が届くようになっていて聞こえないということはなかった。
「各員、戦闘配置に付け!!確実にここで倒すんだ!!」
カノセの命令でビルの縁に集まりその時を待つ。静寂の中に腹の底まで揺らす程の足音が鳴り響き緊張を増幅させる。本格的な実戦経験が少ない美空だけでなく場数をこなしているリュウジやリオ達でさえも体が震える。そして、ついにその時が訪れる。
『ギィィヤァァァ』
真下に来た魔物の咆哮と共に近接部隊がそれに目掛けて飛び降りた。背中に着地するとそのまま地面に武器をぶつける。しかし硬い表皮がその攻撃を弾く。それで諦めることなく何度も試み傷を付ける。
「魔法部隊、用意!!撃てぇ!!」
自らの鎧の力で背中に光輝く翼を携えたカノセの号令で更に上から後衛の魔法の雨がうまく人の間を縫うように通り抜け着弾して爆発し、ついに強固な表皮を破り体が剥き出しになる、と思われた。
「…な、何だ。これは…」
魔物の中身は空洞になっていて中には紫の丸い物体がところ狭しと並んでいた。得体の知れないそれを見た者は驚き次の瞬間には恐怖を感じていた。球体の中で動いている影を見つけてしまったからだ。蠢く影はしばらくすると形を禍々しい姿に変え、殻を破る。翼を持つその魔物は抉じ開けられた穴から外に飛び出す。それに驚き巨大な魔物の中を覗いていた男は後退る。それが隙となり小さい魔物は男に襲いかかる。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
男は卑屈な叫びをあげるも止まらなかったが傷を負うことはなかった。
「ったく、油断してんじゃねぇ!!」
リュウジが大剣を降り下ろし魔物を消して元から強面な顔を更にしかめる。その睨みは情けない男ではなく、いつの間にかところどころに飛んでいた先の魔物と同じものに対してだった。
「クソッ!!面倒な小細工しやがって!!」
悪態をつきながらも次から次へと魔物を薙ぎ払っていく。しかし、前に出過ぎて一体に背中を取られてしまう。リュウジも多少のダメージも覚悟したその時、魔物の胴が細剣で的確に貫かれた。
「偉そうなこと言う割に背中ががら空きじゃない?リュウちゃん」
「んじゃ、俺の背中預ける」
「もとよりそのつもりよ。夫婦はお互いの欠けているものを補いあってこそでしょ」
リオの援護に少し顔を緩め心にも余裕が生まれたリュウジは改めて大剣を握り魔物と対峙する。背中を最高の安心感に守られて。
◆
おーすっ、史上最強の魔物ハンターにして最高の男(笑)の『だだだだだだだ』──銃声で邪魔された。
「だぁー、うるせぇ!!撃つのやめろ!!まともに一人称もできねぇだろうが!!」
「訳の分からんことを言うな!!攻撃を止めて欲しくば降伏して大人しくここにいろ!!」
「降伏しろだ?誰に向かって言ってるか分かってんのか?史上最強の魔物ハン『だだだだだだだ』わざとだろ、恨みでもあんのか!?」
全く、厨二発言してテンション上げてこうと思ったってのに邪魔しやがって。何だかんだあったが今回の一人称も史上最き『だだだだだだだ』…うん、そう来ると思ったよ。二度あることは三度あるってか?そうかい、分かったよ。名乗るのは諦めるよ、今はな。と言う訳で、
「そのうるさいスピーカー、全部ぶっ壊して殺るぜぇ!!」
(注意:主人公です)
その後、隙間もない程の銃撃の嵐に一発も当たることなく(どうやってそんなことできたかはナ・イ・ショという名の尺のご都合です)5分ぐらいで全部ぶっ壊して参加した奴全員を気絶させた。リーダー格っぽい男は分からんがな、死んでるかも、ゴメンね、てへぺろ。ってそんなことより、
「俺は…史上最強の魔物ハンターにして最高の男、天文字鋼也だぁぁぁぁぁぁぁ!!」
誰も聞いていない中今日できなかった自己紹介を大声で言ってやった。え?フルネームあると呪い殺されるって設定のこと?ワスレテナイヨ、誰も聞いていないって言っただろ、問題なーし。それとすぐ魔物のとこに行くと思った?残念、おれだよ!?し『だだだだだだだ』
…意外と前線がすぐ近くで戦闘音が響いてまたも遮られた。はいはい、二度あること(以下略)ね。タイトル回収っと。さて、そろそろ行かないと話進まないな。鋼也、行っきまーす。
◆
飛翔する人型の魔物は素早く魔物ハンターの手練れをも翻弄していた。更に数も多く殲滅するのにも時間がかかっていた。
「くっ、ちょこまかと!!」
集団で陣形を組んで戦う一人が攻撃が当たらず痺れを切らして前に出過ぎてしまう。それに三体の魔物達はすぐに目をつけ取り囲み袋叩きにする。周りの者も自分が対峙している魔物の相手に手一杯で助けに行くことはできなかった。
しかし横から火の玉がまっすぐ魔物の一体に向かい吹き飛ばし爆発させた。続けてもう1つ火の玉が放たれ二体目の魔物を消す。最後に残った魔物が焦って長い爪を振り上げる。しかし、それを降ろす前に魔物は切り裂かれ光を放ち消散した。その光から現れたかのようにカノセが飛んでいた。しかし、神秘的な光景とは裏腹にカノセの顔は怒りに満ちていた。
「何をしている!?陣形を崩すな!!はやく持ち場に戻れ!!」
「は、はいぃ~」
カノセのあまりの剣幕に男は慌てて戻った。男を見届けると縦横無尽に飛び回り魔物を倒していく。背部に乗り甲殻を破壊すれば後は時間の問題だと思っていたカノセにとって多くの魔物が現れることは予期していない事態だった。中々終わらない戦いからの焦りもあり頭に血が上っている。
(ちっ、あいつが来るまでに方を付けなければいけないと言うのにっ!!)
「はあぁぁっ!!」
焦って行動が速くなるも努力の賜物であるその剣さばきが乱れることはなく魔物を倒し続ける。しかし、一向に数が減っているようには見えず、流石のカノセも息を切らし始める。自分一人では限界があると察し普段から親交もあり経験も豊富なリュウジ達のもとに行った。
「はぁ、はぁ、数、減ってませんよね」
「っおら!!確かにそうだな。結構、数を殺ってる筈だが、なっ!!」
剣を振るいながら背中を合わせ状況とそれに対する最善の策を考える。
「…まさかとは思うがな」
「何ですか?ったぁ!!」
「この小さい奴、無限増殖してんのかもな、なんて、あって欲しくねぇけど、よっ!!」
「っ!!」
最も想像したくないケースだが現状から考えてそれが一番筋が通っている。カノセは驚きを隠せない。
「だとしたらとんだ食わせ物だな」
リュウジは笑っていた、いや、こんな状況では笑うことしかできなかった。このまま倒しても再生体数を越える数でなければ意味はない。むしろ、長期戦になればこちら側の体力低下によりますます不利になる。
カノセは瞬時にそこまで理解してしまった。そのせいで更に焦りが生じ、解決策を絶対に使いたくない一つ以外見出だせなくなっていた。
「これはもう、頼るしかねぇんじゃねぇか?総隊長さん」
リュウジの呼び方にカノセは彷彿させられる。最も使いたくない、最も頼りたくない、そして、最も守りたい者を。
「それだけは、絶対に───」
「全員さっさと魔物から離れろぉ!!」
カノセが言い終わる前に遠くからそれでいて大きく腹まで響く声が叫ばれた。戦っていた者全員が驚いて声のした方を向く。そこには、
「俺が一撃でぶっ飛ばして殺るからよ!!」
槍の飛翔能力で全速力で近づいてくる鋼也がいた。
メインストーリーの途中ですが次回の更新はクリスマスイブに番外編『清き夜』(勿論、クリスマス仕様)を計画しています。とりあえずクリボッチ集まれ!!と思ってクリボッチじゃない人達書きます。区切りの良いところで書ければ良かったのですが力不足故こんな形になってしまいました。メインストーリーは出来れば今年中、最悪新年の落ち着いた頃になると思います。
長くなりましたが、これからもよろしくお願いします。




