第41話 二つ名命名、その名も…
「そう言えば、リオさんがこれから私が前線に出るなら学園で支給された武器じゃなくてちゃんとした武器を買った方が良いって昨日言っていたんですけど、どうしましょう?コウヤ君」
こんにちは、久しぶりの一人称の天法院美空です。
どれくらい久しぶりかと言うと私の名字が予測変換に出てこないぐらい…何の話でしょうね?シリアス伏線をはるためにしばらく一人称が使えなかった…本当に何の話でしょうね?
この話はともかく、今朝は何故か早く起きれず現在朝の9時に少し遅めの朝食をとっています。昨夜何があったのか全然思い出せず、少し頭も痛みます。
救いと言えばコウヤ君を起こすのも遅れたのに笑顔だったことですね。朝寝坊はあまり体に良くないのに、コウヤ君はお寝坊さんなんですかね。それで食事中に昨日の記憶に残っている出来事の中で最後のリオさんの言葉を思い出し相談しました。
「学園の物も充分強いけど私の実力的にはもっと上のランクの武器を使った方が良いって言ってくれて」
コウヤ君は口に入った食べ物を飲み込み、
「…確かに美空さんすごい強くなりましたよね。この前の武演祭も他を寄せ付けない感じだったし」
少し遠い目で褒めてくれました。あ、私が強くなり過ぎてチート主人公の座を盗られるかもしれないとコウヤ君は心配していましたね。
「そ、そんなこと…ないですよ。コウヤ君の方がまだまだ全然強いだろうし…」
すかさずフォローをいれてコウヤ君のご機嫌を損ねないようにしました。
「それで…ですね、どうするのが良いと思いますか?私的には今の武器でも充分戦えますしこの家にも住まわせてもらっているのでこれ以上お金を払ってもらうのも気が引けるのですが…」
私がそう言うとコウヤ君は少し考え込み少し開きずらそうに口を開けました。
「…それなら、ちょうど良いのが家にあるからそれをこれから使うのはどうですか?それも名工が作った一品物です」
コウヤ君はそう言って立ち上がると第8話以来出番のなかったモニターの前まで足を運び何回か押すと今までなかった部屋が現れました。少し戸惑いながらもその部屋に入るコウヤ君に私も続きました。
その部屋の中はしばらく使われてないのか所々埃が舞っていました。無造作に段ボールが積まれその隙間から剣やハンマー等の武器の端や束になって積まれたカードが見えていました。
「何で武器をカードに戻さないんですか?」
私はそれらを指差して聞きました。本来、魔物ハンターの武器は持ち運びの為等の理由から使用時以外はカードにしておくのが常識だそうで気になりました。
「ああ、あれは旧式の武器でカード化が開発される前にできた奴なんですよ」
「カード化が開発される前…ということはかなり古いんですね。やっぱりコウヤ君の家も代々戦ってるんですね」
私は感心してるとあることを思い出しました。
「そう言えば、結局コウヤ君のご両親はどうしているんですか?この前、渋って教えてくれなかったので気になって…」
「それは…」
「それは?」
「実は、両親は魔物ハンターの仕事ほっぽりだして海外に行っちゃって今いないんです。全く酷い話ですよね」
それでも清々しく笑うコウヤ君。どこか無理している気もします。何か隠してる?という私の心配もよそにさっさと奥に進んでしまいます。
部屋の一番奥には博物館のようにガラスのケースで囲まれている数枚のカードがありました。照明がある訳でもないのに不思議と光っています。
「これは…」
その光は暖かく不思議と私の心を安心させてくれました。
「母が前に使っていた装備です。ちょうど美空さんと同じ魔法使いの後衛職だったのでぴったりかなと思って」
ケースの鍵を開け、中のカードを取り出すと私に差し出してくれました。
「良いんですか?コウヤ君のお母さんの大事な物じゃ…」
「あんな人達のことなんて今更…考える必要もないんですよ」
俯いて恨めしそうに言い放つコウヤ君。その姿も格好良い、それに…
「…少し羨ましいな」
「え…」
「私、両親が事故で死んでほとんど思い出無いんです。元々仕事が忙しくてあまり一緒の思い出が無くて…嫌な記憶なのかもしれないけどそれでも無いよりかは良いなと思ったんです」
「…」
コウヤ君は俯いたまま私の話を聞いてくれた後、黙って部屋から出ていってしまいました。一人になり改めてコウヤ君がくれたカードを見ました。コウヤ君のお母さん───まだお義母さんではありません───の物だったからか子供を守りたいという優しい気持ちを与えられます。持ち物にまで籠っているほど深い愛を持っている人が子供を放ってどこかに行ってしまうなんて…そんな違和感を再び尋ねる事もできずその部屋をゆっくりと出て行きました。
今日も仕事を受けに新装備を纏ってコウヤ君と『竜と女神』に行きました。着いて早々リオさんが話しかけて来ました。
まあ、なんとなく予感はしてましたけどね。
「あら、新しいの買って貰えなかったの?可愛そうにねーケチな男はこれだから…はぁ」
リオさんがため息をつくとコウヤ君はムッとしました。
「そりゃ悪うございました。つーか、リオさんも知ってるだろ?それならそんじょそこらの武器より断然上質だから」
「それもそうね、コウヤちゃんの給料3ヶ月分は軽く越えるしね」
「うん、軽く馬鹿にしたね。後、それは結婚指輪の話だろ」
けっ、結婚指輪!?
「女性に送る物だったらそれくらい重く考えなきゃダメってことよ。「んなこと言ってたら生活費無くなるわ!!」はいはい、それはともかく…」
コウヤ君のツッコミを華麗に受け流してリオさんは私をじっくり見てきました。いくらリオさんが女性でも少し恥ずかしいです。
「…うん、決まったわ!!」
「え、決まったって何がですか?」
「二つ名よ、ミソラちゃんの」
「二つ名」とリオさんが言った途端、ギルドにいた人達がざわつきました。二つ名って…確か魔物ハンターの称号でコウヤ君が前に(第14話参照)言っていた《白銀の槍騎士》みたいな物ですよね。他にも《地を駆ける刃》とか《武器破壊の双剣》とか《格好良い射撃者》とか…最後のはネタですけど。
「二つ名って…美空さんはまだ入って二日目だよ?」
「それくらいの実力あると思うけど?」
「う、まあそれはそうですけど…」
コウヤ君は周りの目を気にするように少し警戒してます。何か悪いことなんでしょうか?
「二つ名は二種類あってね、勝手に付けたり付けられたりする物とギルドから付けられる物、ってね。それでギルドから付けられる物は魔物ハンターにとって名誉な物で、それでいて一種のステータスなのよ。因みにここ『竜と女神』の二つ名命名は私が任されてるの」
「それだけじゃないでしょ。リオさんは信者が多いからリオさんに二つ名付けられるのは妬みの原因になるんだよ」
なるほど、妬みからトラブルに巻き込まれる可能性があると。コウヤ君は心配してくれたみたいですね。それにしてもリオさん、信者が多いんですね。確かに美しくて大人の色気がありますし。
「やだもうミソラちゃんたら、そんなに褒めても何も出ないわよ?」
「あれ、もしかして口に出てました?」
「それはもうおもいっきり…まあ、そんなことより本題よ。美空ちゃんの二つ名は───」
緊張で思わず唾を飲み込んでしまいました。楽しみなようで責任の重さもあって…
「は、速く言って下さい!!心臓に悪いんです!!」
「ごめんなさい、じゃあ改めて、《天空の白鳥》なんてどうかしら?」
……………
「…なんで白鳥何ですか?」
ときょとんとした顔で尋ねるとコウヤ君とリオさんがギャグ漫画のように転びました。私何か変なこと言いましたか?白鳥なんて全く身に覚えが無いのに…
「ミソラちゃん、その装備の名前知らないの?」
「え、名前があるんですか?」
「ちゃんと教えてあげなさいよ、コウヤちゃん…その杖は《白鳥の翼》ローブは《白き羽衣》靴は《白翼を与える靴》って言う名前で全て白鳥をイメージして作られた物なのよ。それに空を舞いながら戦うミソラちゃんの身のこなしはまさに《天空の白鳥》の名に相応しいと思うの」
「なるほど、これが…」
私は自分の纏っているローブを改めて見て感心しました。
「確かに白鳥ぐらい真っ白ですね、気に入りました」
「はぁ、良かった。この瞬間が一番苦しいのよ、気に入ってくれるか心配になってね」
「でも、ネーミングが少し厨二臭いのはなんとかならないんですか?」
「…そこは昔からの伝統っていう設定だから」
設定って…ご都合主義ですね、分かります。
それはともかく、これで魔物ハンターの第一歩を踏み出しコウヤ君へも少し近付けたような気がします。《天空の白鳥》天法院美空、頑張ります。
ミニコーナー モブキャラ紹介⑤
蒼生六
蒼生颯
タッグマッチ初戦の双子です。連携であれば双子に勝るものは無い!!って主人公達を苦戦させるのが本来の役どころですがチート主人公の前では風前の灯火でした。名前の漢字は後付けサクサクのキラキラネームです。




