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トライアングルフォース~都会と魔物とラブコメと~  作者: INONN
第2章 学園生活~幼なじみと好敵手と恋敵と~
41/83

番外編 浴衣見るとドキッとする奴

番外編ですがかなり長めな上にローカルネタが多いので飛ばして読んでも構いません。その場合はまた今度お会いしましょう。話分からなくても鋼也と美空のイチャイチャ+その他大勢との漫才を見たい方はどうぞご覧下さい。

 武演祭終了から数日後、


 「今夜、戸塚で夏祭りあるんやって。せっかくだから一緒に行こうや」


 鋼也の家にいきなりレイコがやって来てこう言った。その問いに鋼也は露骨に嫌な顔をする。因みに戸塚とは横浜南端にある地名で横浜駅から東海道線で次の駅でアクセスは楽である。


 「戸塚の祭り?あれマジで人混みに疲れるやつだろ。昔、一回行って懲りたわ」

 「そんな事言うなや。あのお祭り、横浜の指定無形文化遺産的なもんなんだって聞いたら行くしかないやろ」

 「そんな売り文句にホイホイ釣られるお前は何だ。ゴキブリホイホイに全力で走ってくゴキブリか?」


 ノリの悪い鋼也にレイコはだんだんイライラしてくる。


 「何やねん、その例えは!?」

 「例えじゃない。お前はゴキブリだと言っている」

 「あーもう!!何でそこまで行きたく無いんや!?」

 「何でそこまで行きたいんだ!?」


 最後には両者喧嘩腰になっていたところを美空が「まあまあ」と宥める。


 「何でって青春と言えばお祭りやん」


 落ち着きを取り戻したレイコが夢を見るような目で言った。


 「その台詞はリア充───いや、お前の言葉を借りるなら腐れ外道になってから言え」

 「そんな事言うて、コウヤもウチやミソラの浴衣姿見たい癖にー素直じゃないんやから」


 レイコはそう良いながら肘で鋼也をつついた。


 「うるせぇ!!美空さんはともかくお前は美人になってから物言えっつの!!」

 「残念だなぁ、私はお祭りって行ったことないから行って見たかったのに」


 レイコの誘いを断固として受け入れない鋼也に美空は少し残念そうな顔をする。そんなチャンスをレイコが見逃す筈もなくゴキブリホイホイに全力で走ってくゴキブリのように食い付く。


 「せやろーミソラもお祭り行きたいよなぁ?ほらーミソラも行きたい言うとるぞ、コウヤ!!」

 「っ、じゃあねーな。他は誰か誘ったか?」

 「ソウタにも声かけといたで。集合は横浜駅付近への転移陣のところやからまた後でな」


 そこまで言うとレイコはさっさと帰ってしまい、無言の時が流れる。


 「…嵐のように来て嵐のように去って行きましたね」


 何と言って良いものかと戸惑ったが美空は苦笑いで言った。鋼也は美空の言葉を聞くとため息を漏らした。


 「まあ、美空さんが行くなら仕方ないな。前みたいにナンパにあってもいけないし」

 「あの、無理言ってごめんなさい。私そんなつもりで言ったんじゃなかったんですけど…」


 美空は鋼也の顔色を伺い申し訳なさそうに謝る。しかし、鋼也はなんでもないように笑って見せる。


 「別にお祭りが嫌いって訳でもないのでかまいませんよ」


 鋼也の気遣いに美空の胸の内がすっと軽くなった。その後に「武演祭はもう嫌いになったけど」と付け加えた鋼也には苦笑いを返すしかできなかった。


 「そういえば、美空さんは浴衣いりますか?欲しいなら今からでも買いに行っても良いですよ」

 「浴衣なら持ってますけど、今は持ってないですね」

 「それってまさか…」


 鋼也の顔が引きつる。


「はい、叔母さんの家にあります」


面倒臭い状況になって鋼也は海外のアニメのように顔を叩いた。



 横浜のビル街にて、少年少女がそらに浮いて移動しているが普通の人には見えていなかった。美空は《風》属性魔法を使い彼女と鋼也を浮かせて、《光》属性魔法で姿を周りから見えないようにしているのだ。


 「そう言えば、美空さんはお祭り行ったことないのにどうして浴衣持っているんですか?」


 移動中、鋼也がふと疑問に思った事を尋ねる。浮いているので美空の豊満な胸が時折揺れている姿に見入ってしまわないように話題をふったのだ。そんな事は知る由もなく美空は笑いながら答える。


「まだ叔母さんと一緒に住んでいた頃、私は叔母さんにやたらと花嫁修業をさせられていてその時に必要だからと何着か買ってもらったからです」

 「何でそこまで花嫁修業を?もしかして、婚約者がいたとか…」

 「そんな相手絶対にいません!!」


 鋼也が話している途中にも関わらず全力で否定したが実際には叔母に言われて何度か名家の嫡子とお見合いのようなものもしてきた。想い人に自分から進んでした訳ではないがそんな過去を知られたくないと言う乙女心からついた嘘だった。


 「そ、そうですか…」


 しかし、あまりに必死に否定しているところを見れば鋼也でなくともそれが嘘だと分かる。鋼也は何となく美空の心情を察して特に問い詰めない事にした。

 そんな話をしていると美空の叔母の家があるビルに着く。


 「と言うかこのビル自体が叔母の物ですけどね」

 「ええぇぇぇぇ~!!このビル全部が美空さんの叔母さんの物!?」

 「あ、聞いた事ありませんか?天法院ホールディングスって言う会社」

 「天法院ホールディングス!?あの有名な!?」


 天法院ホールディングスとは、明治時代後期から続く外資系企業の大手で最近では東大生ですら場合によっては入社困難な事もあるとニュースで話題になっている会社である。


 「同じ名字だったけど流石に違うよなって思ってたけど…マジだったか…」

 「何度か言いましたけど私も一応お嬢様でしたからね」


 美空は自分の元キャラを鋼也に忘れられていて不機嫌になる。顔には出さないものの怒ってるぞオーラを出していて、しっかり鋼也にも伝わり汗が流れる。


 「あ、あはは、ゴ、ゴメンナサイ…」


 笑って誤魔化そうとするもそれを許す空気ではなく鋼也は大人しく頭を下げた。


「にしても…ここがの根城か」

 

 鋼也は目の前にそびえ立つビルを見上げるように睨んでいる。


 「言い方に刺がありますけど、何かありましたか?」

 「あ、いや。あの時の追いかけて来た姿がホラー映画のゾンビみたいに見えてしまって…」


 苦笑いしながら後頭部を掻く。


 「そ、そんなに怖かったんですか…良かった振り返らなくて」


 美空は胸を撫で下ろし、ふとある案を思い付く。


 「コウヤ君が怖い(・・)ならここで待ってても良いですよ」


 敢えて怖いを強調することで挑発すればむきになって一緒に来てくれると美空は考えていた。


 「え、でも記憶処理とかできますか?」

 「私だって日々立派な魔物ハンターになる為に勉強しているんですよ。嘗めすぎです」

 「そうですか、じゃあお願いします」

 「えっ…」

 「え?」


予想外の返事に美空は思わず驚きを口に出してしまう。よほど怖かったのか鋼也は全く付いて行こうとしない。美空は自分の作戦が裏目に出てしまい不機嫌そうに顔をしかめる。


 「そんなに怖かったんですか…」


 さっきと同じ台詞だか今度はため息混じりだった。しかし、美空は更なる妙案を思い付く。


 「想像してたら私も怖くなって来ちゃいました。コウヤ君も責任取って一緒に来て下さいよ」

 「う…」


 嫌な顔をしながらも自業自得だと思い鋼也は美空に付いて行く事にした。美空は未だに鍵を所持していたらしく迷うことなくドアを開ける。

 中には案の定ゾンビ───ではなく美空の叔母が大きなソファに座って優雅に昼ドラを超高画質フルハイビジョンテレビで見ていた。部屋の家具のグレードさえ気にしなければ普通の主婦といった印象である。

 

 『やめて!!これ以上来ないで!!貴方には私の気持ちなんて分かる訳ない!!』

 『待て、洋子!!早まるな!!』


 良くある昼ドラのシーンに差し掛かっているようだ。美空の叔母は昼ドラに食い付いていて鋼也達が部屋に入って来たのも気付かない。そのまま背後から鋼也が意識を刈り取り、美空は奥の元自室に入っていった。おそらくそのまま着替えるであろうその部屋に入る訳にもいかず付いていたテレビをつまらなそうに見て美空の帰還を待った。


 ───10分後、

 「中々時間かかってるな。まあ、女性はこういうことは時間かかるって良く言うし気長に待つか」


 ───20分後、

 「やっぱ遅いよな。浴衣見つからないのかな」


───30分後、

 「かなり遅い。流石に遅すぎる。そろそろ声かけた方で良いかもしれな───なんだと!?洋子にそんな過去があったのか!?…声かけるのはもうちょっと後でも良いよな」


 ───1時間後、

 「おめでとう、おめでとう洋子。やっとあつしと分かり合うことができて本当に良かったな」

 「…」


 昼ドラを見て感動して泣いている鋼也を20分前から美空は複雑そうな顔で黙って見ていた。鋼也に人を愛するということが大切だと思う心があった事は嬉しいが、それならばどうして自分の好意に気付かないんだという苛立ちもあった。しかし、今はその怒りを抑えて笑顔で声をかける。


 「コウヤ君、どうですか?」

 「あ、はい。素晴らしい作品でした」


 鋼也は美空に振り返りもせずに応えた。勿論、返事は美空の浴衣姿に対するものではなく昼ドラに関してである。その返事に美空はさっき自分の心に押し込んだ怒りが露になってしまいそうになっていた。それを拳を握りしめて体を小刻みに揺らすだけに抑える事ができたのは鋼也に好かれたいという乙女心があったからだった。


 「コウヤ君、昼ドラじゃなくて浴衣の話ですよ」

 「え、ああ着替え終わったんですね。おお…」


 美空に言われて鋼也は後ろに振り向くと青い布地に金色で蝶があしらわれた浴衣を着た美空がいた。長い髪を頭の上で結い簪を差して耳を出していて鋼也には新鮮であった。襟から覗いている白いうなじや帯で押し上げられた質量感のある胸が鋼也の目を釘付けにしている。


 「そんなにまじまじ見られると、その、少し恥ずかしいです」


 美空は顔を赤らめ両手で体を隠そうとする。その様子を見て鋼也ははっとしてすぐに距離を取る。


 「…」

 「…」


 鋼也は何も言えず顔を赤くして俯く。それでもなお返事を待つ美空。浴衣まで着たのだからどうしても鋼也に褒めて欲しかったのだ。すると、


 「ん…私は何を…貴方達、他人の家に勝手に上がり込んで、ここで何をしているの!?」


 意識を取り戻した叔母が鋼也達の姿を見るなりヒステリックな声をあげる。その姿に鋼也はたじろぎ、美空は口をへの字に曲げあからさまに不機嫌そうな顔をする。


 「不法侵入で警察に通報して「うるさーい!!」


 美空はついに怒りを爆発させて叔母の声を遮って叫ぶ。あまりの剣幕に叔母も鋼也も驚く。その隙に美空は残像がうっすら見えるレベルで叔母に近付く。その手には以前鋼也が使用していた記憶改変用のカードホルダーを持っていた。叔母の顔の位置まで腕を上げ意識を刈り取ると叔母は白目を剥いて膝から前に倒れる。そうすると美空の方に倒れて来るが美空はさっと横にずれて叔母から避ける。当然、叔母の額が床に当たり鈍い音がする。


 「せっかくの良い雰囲気の邪魔をした報いです」


 倒れた叔母を冷たく見下しながら美空は先程の記憶を消した。その様子を見て鋼也は心の中で引いていたが美空は知る由もなかった。



 「遅いでー、待ち合わせの時間とっくに過ぎとるやないかい」

 「ごめん、ごめん。色々とあって遅くなっちゃって」


 二人が遅れて来た事に怒るレイコとペコペコと謝る美空のいつも通りの光景に安心して鋼也はため息をつく。それを見たソウタが「何かあったのか?」と尋ねたが鋼也は何も応えなかった。

何がともあれ四人は他愛のない話をしながら駅に向かった。


 「ミソラの浴衣ええやん。大人っぽい感じで似合ってるで」

 「そうかな?あんまり反応なかったけど…」


 美空はそう言って鋼也の方を見る。その様子でレイコは何となく状況が分かり口を開く。


 「コウヤはああ見えて口下手な所があるからな、何もコメント貰えんでも気にすることない。むしろ、言葉が出てけえへんぐらい似合ってた、ゆうことや」

 「そうなら良いんだけど…」

 

 浴衣姿でもドキッとしないので自分に脈がないのではないかと心配になってしまう美空であった。

 二人からはちょっと離れた位置にいる鋼也とソウタは、


 「…なんか、美空さんとレイコがチラチラこっち見てくるけど何の話してんだろ」

 「コウヤ、お前ちゃんとミソラさんの浴衣褒めてあげたか?」

 「え、照れ臭くて言えずじまいだったけど…何故に?」


 鋼也の相変わらずの応えにソウタはため息をついた。その反応に鋼也は顔をしかめ「何だよ。」と低い声で尋ねる。


 「いやさ、相変わらず鈍感主人公気取ってんなーと思ってさ」

 「はぁ、誰が鈍感だ!?気付いてない体を装ってるのはお前も知ってるだろうが。とっくに美空さんの気持ちぐらい気付いてるっての。チート主人公舐めんな!!」


 鋼也が叫んだので美空やレイコも驚き振り向いたのでソウタは驚いて「あんまでかい声出すな」と小声で注意する。二人がガールズトークに戻るとまたソウタが話し始めた。


 「あのな、好きな人に自分の晴れ姿を褒めて欲しいってのが乙女心ってもんだろうが」

 「ソウタには乙女心語られたくない」

 「まあまあ、後でも良いから褒めてあげろよ?」

 「へいへい、わぁたよ。ご忠告どうも」


 ソウタの小言にうんざりしたように鋼也は嫌味たらしく返事をした。駅に着き電車に乗るとその後は四人で和気あいあいと祭りの話をして戸塚まで着いた。


 「わぁ、話には聞いてましたけど人多いですね!!」


 駅の反対側からも祭りに行くのか人が多く同じ方向に向かっていた。中には浴衣を来たカップルもいては爆ぜろ!!と言いたくなるが(ナレーターの勝手な意見です)誰も言わなかった。

 鋼也達も人の波にのり祭りの行われている方へ歩いて行く。美空もちゃっかり鋼也の腕を組んでいるが鋼也も咎める事はなく人混みに入る。その姿こそ爆ぜろ!!と言いたくなるが(ナレーターの勝手な意見です)ソウタとレイコにとってはいつもの光景なので暖かく見守っていた。


 「うわー、凄い人やな」

 「そうか、いつもこんなもんだったろ」

 「だから来たくなかったのに」


 祭りが行われている通りは人と屋台で埋め尽くされていて屋台からの元気な呼び込みや多くの人々が口々に話している声が合わさりとても賑わいがあった。その賑わいを何度か来て知っている鋼也、レイコ、ソウタは動じないが美空は少々恐怖し、鋼也の腕をより一層強く持つ。


 「あ、たこ焼や!!あっちには焼きそばも!!あー、フランクフルトも捨てがたいなー!!」


 屋台を見てレイコは子供のようにはしゃぐ。


 「コウヤー、金寄越せー!!」


 「それフレンドリーに言う言葉じゃねーから!!つーか、俺に集りたいから誘ったんか!?」

 「当たり前やん。せやなかったら何のために男読んだんだと思っとんねん」


 鋼也は渋々ながらもレイコに金を渡すとお年玉を貰った子供のように喜んだ。


 「やけに今日はコウヤゆるいで!!よっしゃぁ!!ラッキー!!待ってろや、お好み焼きー!!」


 そう言うとレイコは鋼也からせしめた金を握りしめ人を押し退けて一人で奥の屋台に消えた。レイコを見送ると目を瞑り元来た道に振り返り清々しい顔をして、


 「さーて、アホガキなエセ関西人は追い払ったし帰るか」


 帰ろうとするがソウタに肩を掴まれ止められる。


 「何すんだよ」

 「あの様子だとかなりの確率で迷子になるぞ。お祭りの運営に迷惑かけるのもあれだから追いかけるぞ」


 ソウタが比較的真面目に説得するが鋼也は上の空だった。


 「そうですよ、せっかくお祭り来たんだから楽しまないと損ですよ」

 「美空さんそれ趣旨違う」

 「仕方ない、馬鹿はほっといて遊んでやる!!」

 「だから趣旨が違うっつってんだろ!!」


 話を聞かない鋼也にソウタは大胆にも後ろから跳び蹴りを喰らわせる。鋼也は少し体勢を崩すも真面目顔でソウタに振り向き、


 「効かないねー、チートだからさ」

 「それ言いたかっただけだろ。あれ、何の話だったっけか?」

 「さー、何だったかなー」

 「何だったでしょうねー」


 鋼也の巧みな話題転換?によりソウタさえもレイコの事を忘れ三人で遊ぶことになった。


 「コウヤ君、あーん」

 「ん…おいひい」


 二人がラブラブカップルのように(・・・)たこ焼を食べていると祭りに来ている年頃の男の大半を釘付けにしている。しかし、鋼也からしてみれば全く羨ましい事ではない。何故なら先程焼きあがったばっかりの熱々のたこ焼を問答無用で口に放り込まれ、それが幾度となく続けられいるのだ。鋼也は美空の機嫌を損なわないように我慢して食べ続けいるがその事実に気付いているのは後ろで笑っているソウタだけであった。

因みにソウタも年頃の女の半分くらいの視線を鷲掴みにしている。たまに逆ナンが来るがソウタは丁重に断っていく。


 「…お前本当にモテるよな。どうして誰かと付き合ったりしねーの?」

 「あの中に俺に見合う女がいるとでも?」

 「レイコもそうだけど自分の事高く見すぎじゃね?」

 「ソウタ君最低ですね…」


 二人そろって冷たい目で軽蔑してきたのでソウタはすぐに「流石に冗談だよ」と誤魔化すように笑う。


 「いつ死ぬかも分かんない奴が事情知らない家族なんて持っちゃいけないと思ってるからな」


 ソウタにまた別の闇を垣間見たが、すぐいつもの雰囲気に戻り「どこぞのアニメのパクりだけどな」と自身の言葉を嘲笑うように言った。それ以上は鋼也も美空も申し訳なく何も言えなかったがソウタは祭りを楽しんでいた。それが無理していることぐらい誰にでも分かるが二人は敢えて触れないことにした。


 「おっ、射的天国来たぁ~!!」


と思ったら当然ソウタが叫んだので周り───特に同行者の二人が驚く。


 「い、いきなりどうした!?」

 「俺の二つ名が《冷静な射撃者(クールガンナー)》って言うの忘れた?」

 「え?《格好良い射撃者(クールガンナー)》じゃなかったんですか?」

 「いや、《冷製な洋麺(クールパスタ)》じゃないのか?」

 「ミソラさんのは本物だけど俺が決めた奴の方を広めたいから頑張って広めてて、コウヤのは…うん、誰がパスタじゃ、ぼけ!!」


 そんなやり取りに三人は不思議と笑いが込み上げてきた。笑い終わった時、鋼也がふと射的の屋台の横に目を向けると何となく見覚えのあるものを見つけた。嫌そうな顔をして二人の方に振り返ると何があったのかと鋼也の見ていた方を見る。すると、


 「お金を…よ、寄越せ?」

 「『お金を寄越せ』じゃねーだろ!!やってることと言ってることが真逆じゃねーか!!つーか何やってんだよ!!」


 浴衣姿で地べたに体育座りをしてレイコがどこにあったのか『お金を寄越せ。』と書かれた段ボールに入って泣きべそをかいていた。その姿には一同幻滅し周りの人間は関係者と思われる鋼也達のことまで白い目で見て一定の距離をおいていた。


 「お、コウヤ。ちょうどええな。金寄越せや」

 「お前にやる金は一円もねぇつの!!」


 泣くのを止めて突然けろっとしたレイコに腹がたち、鋼也はパワー1%デコピンをレイコの額に打ち付けると空気砲でも喰らったかのように後ろによろける。


 「やる気か!!ごらぁ!!」

 「勝てると思ってんのか?」


 このままではヒートアップして乱闘が起きてしまうと思った美空が「まあまあ」と二人の間に割って入る。


 「お金なら持って来てますから」


 美空は不敵に笑いながら懐から一枚の紙を取り出す。それを見るとレイコは目の色を変えた。


 「ゆ、諭吉さんやないかい!?な、何でミソラが…いや、そんな事より!!」


 レイコはがっしりと美空の両肩を掴み必死の形相で迫る。


 「そんな大金持ってたら変な奴らにカツアゲされてまうやろ?だったらー、早いとこ使ってしまうんが一番、やろ?」

 「いや、どちらかと言うとお前の方が変な奴らに属すと思うのだが」

 「ソウタは黙っとき!!」


 ソウタの言うことも聞かず、レイコはただ一心不乱に福沢諭吉を求めていた。


 「はい、叔母さんの家から取ってきただけだし良いよ」


 美空にもレイコの魂胆は分かっていたが渋ることもなく前に差し出した。レイコは狂気染みたように涎をたらし指をうにょうにょ動かし、ついに福沢諭吉に手を伸ばすと美空は持っていた手を引っ込めレイコに取らせない。


 「ただし、皆で遊ぶなら、ね?」

 「も、勿論や!!さ、皆で射的しようや!!」

 「おう、《冷静な射撃者(クールガンナー)》の実力、見せてやるぜ」

 「まあ、《冷製な洋麺(クールパスタ)》さんがチート主人公に勝てるとは思えないがな」


 こうして、四人全員で祭りを楽しむことになった。



 最後の最後でどうもー天文字鋼也でーす。

 まずはお疲れ様でした。いやーどうも「番外編だから一話に纏めないと」とか思った作者バカのせいで長くなってしまったようで…え?お祭りはどうなったのかって?あー、あの後は射的でカオスな争いが起きたり、いきなりレイコがかき氷食いたい言い出して店探したり、ちょっと目放した隙に美空さんが前に絡んだチンピラ達にナンパされてたから助けたり、などなどいろいろあって今帰り道。え?イベント盛りだくさんだったのに何でやらないのか?んなの決まってんだろ、これ以上長くしたくねんだよ。察してくれ、俺も作者も言いたくないのだ。

 まあ、それはともかく、いつものように美空さんは俺の腕に抱き付いて半分寝てる。美空さん美少女ヒロインだから普段もそうだけどドキドキすんだよな。はぁ今夜は発散しないとだめかな。

 なんて考えていると、


 「…ZZZ」

 「おっと、え、美空さん!?」


 まさかの歩きながら寝堕ちして美空さんの全体重が俺に来て、二つの柔らかい感触が強くなって…と頭に血が上り俺は大出血をした。まあ、健全な男子だから仕方ないよな。問題はそこじゃない。問題はその後だった。


 「やべっ!!浴衣に鼻血付いてる…ど、どうすれば」


 そう、俺の放った深紅の液体が思いの外飛び散りはっきり分かるぐらい浴衣に付いてしまった。解決法も即行で考えてみたが…


 解決法①

 気付かれる前に拭き取る

 体に触ることになるので理性がもたない。

 解決法②

 浴衣を脱がせて証拠隠滅(洗濯、焼却など)する

 浴衣を脱がせると美空さんのあられもない姿が…以下同文。

 解決法③

 放置

 一番楽で俺の理性やいろいろなものも無事だが翌日聞かれたらなんて答えれば良いか分からない。美空さんなら事情を説明すれば納得してくれるかもしれないが失敗した時のリスクが大きい。


 …あれ、これって詰んだ?あ、解決法④があったけど使いたくないな、まるで某不朽の名作に出てくる庄平じゃないか。そう、解決法④とは美空さんの記憶を変えて何事もなかったように本人に洗ってもらうことだ。でもなー、うーん、マジで、

 「どうすりゃ良いんだぁー!!」

 こうなったらもう叫ぶしかない。って美空さん起きちゃうじゃ…と思ったらまだ夢の中。笑ってるな、楽しい夢見てんだな、チンピラにナンパされたと言うのに何で笑ってられるんだろ、呑気だな。

人混みに揉まれて疲れているので愚痴っていた。一通り愚痴ってすることもなく美空さんも起きそうもないので仕方なくお姫さま抱っこで家まで運んだ。幸い、夜遅くで人通りが少なく、レイコやソウタとも解散した後なので誰かに見られることなく家に帰れた。美空さんの部屋に行き彼女のベッドにそっと寝かせそのまま部屋を出る。はぁ、疲れた。絶対にもう祭りなんざ行かねーからな。覚えてろ、レイコ。



 こんにちは、天法院美空です

 お祭りに行った翌朝、意外にも私より早く起きていたコウヤ君が私の部屋の前で土下座していました。

 「大切な浴衣を汚してしまいどうもすみませんでした!!」

 「え?何のことですか?浴衣は…ほらこの通り何も変わりないですよ」

 奥から取り出した浴衣を取り出して見せるとコウヤ君は目を見開いて驚きました。ふふふ、計算通り。何が計算通りかと言うとですね、実は私、昨日はコウヤ君を誘ってみたのです。寝たふりをして体をくっつけてみて。まあ鼻血を出すのは想定外でしたけどお姫さま抱っこしてくれて進展はありました。その先は…なかったのですが…その後寝る前に思いつき《水》属性の魔法を使って血を洗い流しました。コウヤ君は心の声駄々漏れなので普通に聞こえていましたので。

 こういう時私の魔法カードは便利なんですよね。自由に魔法使えるから。そして、見事恩を売ることに成功しました。


 「え、でも…そんな…確かに…」


 ほらほら、面白いぐらいに驚いてくれてます。鈍感な主人公に少し制裁です。


 「あれ、コウヤ君泣いてるんですか?」

 「いや、何事もなくて良かったぁー」


 ごめんなさい、ちゃんと事があった上に私も知っています。その前にまた心の声出てますね。教えてあげた方が良いかな?と思ったら、


 「…ZZZ」

 「こ、コウヤ君!?」


 いきなりコウヤ君が倒れたと思ったら眠っただけでした。もしかしたら昨日眠れてないのかもしれないですね。そんな彼も愛しくていつもは起こす前にしているキスをして部屋に運び寝かせてあげました。いつまでも、こんな幸せが続いて欲しいと願いながら部屋から出て行きました。

今年の戸塚の夏祭り及びお札まきは終了しました。 なんてね、行く人いないよなー、流石に。最後に遅くなってすみません。これからはできる限り週一ぐらいでしようと思っています。

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