第32話 十八番と対策
前回のあらすじ
女子タッグマッチ決勝戦。美空、レイコペア対スミレ、コトミペア。接戦を繰り広げ一旦距離を取り戦闘を仕切り直しお互い作戦を変更して再び戦いの火花が上がるのだった。
『さあ!!盛り上がって来た決勝戦!!後半戦に突入だぁ!!オーディエンスも最高にアツいバトルを期待しているぞ!!』
「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」
沸き立つ闘技場の中央で四人は向き合っていた。
「そんな事言われたら余計に張り切らなアカンな!!」
お祭りの雰囲気が好きなレイコは笑っている。テンションもマサミと同じぐらい高くなっている。
「当然ですわ!!コトミ!!」
スミレが指示を出すと同時に走り出すコトミ。その目的地は勿論美空とレイコの方だ。しかし、先程までとは違い側面や背面からではなく正面からの攻撃だった。
「そんな正面攻撃、ウチには効かへんで!!」
普段そこまで感情を出さないコトミが軽く口を吊り上げた。
「それはどうでしょう?『干渉しない光』」
スミレが唱えた瞬間、スミレを中心に光が発せられる。
『ついに出た!!スミレ選手の十八番!!敵の目だけを眩ます〈光〉属性の魔法だぁ!!ってこっちにも!?目がぁぁ!!目がぁぁぁぁ!!』
全員の目が眩んでいる中、コトミは素早く二人に近付き、拳を放つ。しかし、コトミは手応えを感じずよく見ると美空とレイコの周りは土でできたドームがありコトミの攻撃はそれに弾かれていた。
「ならば!!」
コトミは再びドームに拳を突き付け魔法を発動させる。爆発が起きドームには内部を攻撃できるぐらいの大穴が開いてしまった。そんなチャンスを見逃すはずもなくコトミの後ろからスミレが跳んで来る。
「これで終わりですわ!!」
コトミはスミレとスイッチして横にジャンプする。スミレは細剣を振るいドームの中にいる二人に攻撃した。しかし、
「なっ何が!?」
細剣で刺したはずがスミレには手応えが無く、更に押そうとしても押す事ができない。スミレが戸惑っているとドームの穴から美空が顔を見せる。
「私達が対策を取っていないとでも思っていたのですか?『荒れ狂う暴風』」
美空が手に持つ杖の先から優に巨大な岩をも飛ばす事ができるような風が発生し攻撃態勢で無防備なスミレを吹き飛ばす。
「まだだ!!」
コトミは再度美空一人のドームに向かって走り出す。いくら美空の魔法が強力だとしてもあの威力を連発はできず魔法使いなので接近戦もできないと考えての行動だった。
「『爆裂け───」
「させる訳ないやろ!?」
いきなりレイコはコトミの背後に現れ、大剣を振り降ろす。咄嗟に拳にかけていた魔法を足にかけ直し、その爆発を利用して避ける。レイコは振り降ろした大剣が地面に当たりその反動ダメージを受ける。しかし、すぐさま立ち直りコトミに追撃をかける。
「うおぉぉりゃぁぁぁ!!」
大剣をバットのように振りかぶりコトミを切り裂こうとする。しかし、コトミは壁にぶつかりながらもギリギリ大剣を抑えた。力と力、気迫と気迫のぶつかり合い。それはわずかながらレイコが勝っていて、ジリジリとコトミを追い詰めて行く。
「良く踏ん張りました、コトミ!!後は任せなさい!!」
美空の魔法で吹き飛ばされたはずのスミレがレイコのすぐ側に移動していた。〈光〉属性魔法、『閃光移動』を使用して目にも止まらぬ光の速さで移動したのだった。
「止めですわ!!『光剣強化』」
スミレの細剣に光が纏い、リーチも長くなる。光を直接掴んでいるようなその姿に誰もが目を引かれた。速くに正気に戻ったレイコは避けられないと判断し、スミレが来たことに安心して守りが薄くなっているコトミに当てている剣を一気に押し切る。コトミの上半身と下半身が離れたのとレイコが光に貫かれたのは同時だった。
「ミソラ!!後は頼んだで…」
「レイコ!!」
「スミレ様、お役に立てず申し訳ありません」
「いいえ、貴女はちゃんと役に立ってくれましたよ。後は私に任せて下さい!!コトミの敵を取って見せます!!」
「頑張って下さい」
美空とスミレはパートナーの言葉を受け取り、好敵手に向き合う。
「そう言えば、ライバルって言ってたけどちゃんと戦うのは初めてですね」
「あら?そうでしたかしら?私は貴女と戦うシュミレーションを幾度も繰り返していたので初めてと言う感じがしませんわ」
「もっと速くやった方が良かったですね」
スミレが楽しそう笑ったので美空もつられて笑ってしまう。
「構いませんわ。このような武演祭で合いまみえる事ができるのですから。私のMPはそろそろ尽きそうですから一撃で決めさせてもらいますけど」
スミレは腰を低く構え本気の顔になった。
「私もレイコに託された以上、負ける訳にはいきません」
美空も凛々しい顔に戻る。この数ヶ月、魔物との戦いが文字通り死闘となることを理解し、これまでの平穏な日本の考えを捨てて戦うことを美空は覚えたのだった。
「『干渉しない光』」
再び美空を強烈な光が襲う。今度はレイコがいないので土でドームを作り光を防ぐことはできない。
「それを使えるのはあなただけではありませんよ!!『干渉しない光』」
スミレが発した物とほぼ同じ光がスミレの光と激突する。本来光と光はぶつかることはないが『干渉しない光』はMP製の光なので同じMP製の魔法ならば正面から迎え撃つことができる。
「「はぁぁぁぁぁぁ!!」」
二人の叫びに応じているように二つの光が威力を増して行く。衝突面からは衝撃破が絶え間なく放出されている。そして最大の衝撃破と光が発生し、二人の魔法は消えた。
ため息をつく暇もなく、スミレは細剣を強く握り突撃し、美空は杖を構えて呪文を唱える。
「これで終わりですわっ!!」
スミレの光剣強化が美空に当たる寸前に美空の魔法は完成した。
「───『猛吹雪の刃』」
スミレの攻撃を阻む吹雪が発生する。その吹雪で飛ばされている氷の礫一つ一つが研ぎ澄まされたナイフになりスミレの襲う。スミレは数も多く効果範囲も広くほぼゼロ距離からの攻撃に成す術なく体中切り裂かれ倒れた。
『勝負あったぁ!!最高にアツい激戦を制し、会場全体を盛り上げたのはミソラ選手とレイコ選手のペアだ!!なんとなんと、男子のコウヤ選手同様個人、タッグマッチのダブル優勝だぁ!!こんなミラクルは私、初めてです!!快挙を成し遂げたミソラ選手、そしてそのパートナー、レイコ選手に大きな歓声を!!』
「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」
「って、結局ウチはオマケかい!?」
試合が終わり復活したレイコが半泣きしながら突っ込んだ。こんな時でも突っ込んでしまうのは関西人ならではなのかもしれない(関西人を馬鹿にしている訳ではありませんのでご了承下さい)
「そんな事無いよ。レイコがいてくれたから私も勝てたんだよ。ありがとう」
「そうや…そうやな!!ウチこそが影の功労者、縁の下の力持ちなんや。ウチがいたからミソラが勝てたんやな!!」
調子に乗ったレイコは勝ち誇ったように豪快に笑った。美空はレイコに呆れつつもいつも通りの光景に幸せを感じ微笑む。
「やっぱり泣いてるレイコより笑ってるレイコの方が良いね」
「せやろ!?やっぱウチの事一番分かってるんはミソラだけやわ。他はみーんな気付かへんもん」
「そんな事無いよ。コウヤ君やソウタ君だって分かってると思うよ。幼なじみだもん」
そんな話をしているとスミレとコトミが近付いて来た。負けて悔しがっているようではなく、どこか清々しく感じる顔をしている。
「貴女達と良い戦いができてとても楽しかったですわ。改めてお礼させて下さい」
「私からも」
二人はいきなり頭を下げてきて戸惑ってしまう美空。本来であれば殺された相手のはずなのに何故お礼を言われるのか分からなかったのだ。
「あ、頭を上げて下さい。私は大したことしてないし、お礼を言われる事は別に…」
戸惑いながらも謙遜して二人に頭を上げてもらおうとしている美空。対称的に増長しているレイコは
「ははは、やーっとウチの強さが分かったんかい。いつもあんたは遅いんや。まあどうしてもって言うならまた手解きしてやらんこともな、んご」
「良い場面でそういう事言わない。少しは自粛してよ」
かなり上からな発言だったので美空がチョップで制裁しそのままレイコはうつ伏せに倒れてしまった。美空の攻撃のステータスは高くないがどこにそんな破壊力が備わっているのかは謎である。
「そう言えば、一回目の『干渉しない光』はどうやって防がれたのですか?それが理解できなくて。できれば教えて頂けますか?」
コトミが目を輝かせて聞いてくる。コトミも若干戦闘狂の節があり技術的なことは何でも取り込もうとする。
「それもそうですわ。良ければ教えて下さる?ミソラ様」
「はい、構いませんよ」
二つ返事で返した美空は説明を始めるのだった。未だに倒れているレイコを放って置いて。
◆
スミレが一回目に『干渉しない光』を使用した時、美空とレイコは〈土〉属性の魔法で作られた地下洞窟に避難し、地上には二人の土人形を設置していた。
美空達は『干渉しない光』の対策を立てるべくまずは美空の魔法でいろいろ実験したところ、見方は影響を受けないと言っても通常時と同じように見える訳ではなくシルエットしか見えない事が分かりこの囮作戦が生まれたのだった。
そして、コトミが土人形に攻撃をしてくるタイミングを走る音を頼りに土のドームを作り攻撃を防ぐ。穴が開けられた後は美空はドームの中の地上に戻り『荒れ狂う暴風』の準備をする。スミレが中を攻撃して来たタイミングで『荒れ狂う暴風』を放ちスミレを吹き飛ばす。そこにコトミが反撃に来ることも予想できたので背後にレイコが地上に現れ攻撃した。という完全に『干渉しない光』対策だけのために立てられた作戦である
◆
「この作戦のほとんどがレイコ担当なのは目立ったり自慢したりしたいからで実際私にもできるところは他にもありましたけどそんな感じです」
「あの、レイコさんを放って置いて大丈夫なんですか?説明の間一度も起きなかったのですが」
コトミが足元で倒れているレイコを心配して言う。
「大丈夫、大丈夫。かまって欲しいだけなのでもう起きてると思いますよ。下手したら最初から大したダメージとかはなくてただのオーバーリアクションですからね」
レイコの体がピクッと動いた。それを見た美空は呆れながら言った。
「図星ですね。早く起きて、さっさと行くよ」
それを聞くとレイコは諦めたのかのそっと起きて苦笑いする。
「あはは…バレてたんか。ミソラには隠し事はできへんな。コウヤも簡単には浮気できんな、これ」
「それもそうですわね。ミソラ様、コウヤ様と末永くお幸せにね。応援してますから」
二人の言葉に美空が夕陽より顔を真っ赤にしたのは言うまでもない。この中で一番強い人間が一番年頃の少女らしかった瞬間であった。
機種変して今までと違いが出てしまいましたがこれからも頑張って行くので多目に見てもらえると幸いです。




