第30話 美味しくないかも…
どうも 天文字鋼也です。
俺とソウタは武演祭のタッグマッチに出るために午前中も激戦が繰り広げられた闘技場に向かったんだけど、
「なんで誰もいないんだぁ!!」
ぼろぼろになって誰もいない闘技場、この状況が意味する事とは───
「俺達(主に俺)にビビって全員リタイアしたんじゃないか!?やったー!!ついに主人公らしいチート力発揮してやったぜー!!」
べ、別に美空さんばっかり恐れられていたからむきになってる訳じゃないからねっ!!全っ然悔しくなんかないからねっ!!なんだろう?目から汗が。
「んな訳あるか!!仮にそうだとしても何であのうるさい実況者までいないんだよ!!」
あはは…だよねー俺はともかくソウタは怖くないよな。俺のせいじゃない!!俺のせいじゃない!!大事なことだから二回言っちゃった、てへぺろ。
…気分を悪くさせた方、スミマセンデシタ。男のてへぺろなんて見たくありませんよね。
俺がふざけてる間も辺りを見渡して真面目に状況把握していたソウタが口を開いた。
「この荒れよう、まさか魔物の襲撃でもあったんじゃ…嘘だよな…み、皆…!!」
「魔物ならさっき俺が退治しただろ?」
「ガレンの仲間が隠れてたとかあるだろ!?」
「ソウタ、慌て過ぎだ。落ち着け」
ソウタはレイコ、マサミに次ぐうるささを誇るからな。落ち着いてくれないと俺の鼓膜がもたない。
「おまえが落ち着き過ぎなんだよ!!闘技場もこんなにぼろぼろになって、きっと激しい戦闘があったんだよ!!ど、どうすれば…どうすれば良いんだよ!!」
闇堕ちしそうな叫びを放つソウタ。ピュアにも程があるだろ。
『はーい。3文芝居ありがとうございました。さっさと隣の闘技場に来て下さい』
誰もいないはずの闘技場に聞きなれた声が響いた。
「まんまと出し抜かれたって訳か」
「え!?ど、どゆこと!?今のは幻聴じゃないの!?」
『本当はすぐに教えようと思っていましたがソウタさんの演技…演技ですよね?アレ。その演技が面白いので皆で黙って見てました。闘技場では大好評です!!』
闘技場の観客がどっと笑う。完全に見せ物にされてたな。ソウタ、かなり痛いな。
『ちなみに、そっちの闘技場が魔物───ではなく化け物がぼろぼろにしてくれたので隣の闘技場に変更になりました』
「『誰が化け物だ!?』」
あれ?ツッコミが誰かと被った。隣の闘技場にいる人か?でも化け物に反応したって事は、
『確かに闘技場壊したのは私ですけどちゃんと修理費弁償したんだからこれ以上変に言わないで!!』
やっぱり、美空さんか。確かに凄かったからな。あんな魔法連打されたら人は愚か闘技場だってフルボッコだドン!!だからな。
『てな訳でさっさとこっちに来て下さい。時間が押しています』
「時間かけたのそっちのせいだろ!!ったく、行くぞソウタ。ん、ソウタ?」
動く気配どころか返事すらしないソウタ。な、何があったって言うんだー。(棒読み)近寄って見るとソウタは泣いていた。え、何で?
「良かった…皆無事で本当に良かった。」
「いやいや、いい加減騙されたって事に気付け!!」
「え?騙された…?」
「そう、だ・ま・さ・れ・た。」
「そ、そんな、誰がこんな事を!?許さねぇ、絶対に許さねぇぞ!!」
さっきまで泣いていたソウタの顔が怒りに染まる。思春期って心が不安定って言うから面倒なんだよな、俺が言える事じゃないけど。
「うるさい。『こんな事』をしたのはさっきまでおまえがいなくなったって泣いてた奴らだぞ。矛盾してる事に気付け」
「うっ…」
「分かったらさっさと行くぞ、ピュア野郎」
項垂れているソウタの首を掴み無理矢理引っ張って隣の闘技場に向かったのだった。
◆
『おまちどおさまでした!!時間が押していますが武演祭男子タッグマッチのスタートです!!毎度お馴染み化け物男コて言うかリア獣(リアルに獣)コウヤ選手と大した解説ができないチャラ男、ソウタ選手のとてもクレイジーなペアです!!』
「「誰がクレイジーだ!!」」
『対しますは息ピッタリな双子、リク選手とソラ選手です!!タッグマッチでは双子のチームワークを生かし最近は連戦連勝!!今回の武演祭でも優勝候補の一角だ!!』
鋼也達の前には見た目がそっくりな中学生ぐらいの双子がいた。二人とも中性的な顔立ちで少し可愛く見える。
『それでは始めちゃいましょう!!3、2、1、バトルスタート!!』
「行くよ、ソラ」
「分かってるよ、リク」
リクとソラはそれぞれ短剣と盾を装備している。二人の小さい体からは想像できない程のスピードで鋼也達に迫る。
「先にソウタから倒すよ。コウヤは後回しにしよう」
「オッケー、じゃあ僕からいくよ」
ソラを先頭にしてソウタを倒しに行くリクとソラ。
「って俺かよ!?」
「だって弱い方から倒すのは───」
「───定石でしょ?だからお兄さんからだよ」
「俺だってただで殺られるかよ」
ソウタは銃を構えると〈風〉の魔法弾を連射する。しかし、ソラが剣で弾き、リクは避ける。無駄のない動きでソウタを翻弄し、ついに二人の射程にまで入り込む。
「僕たちのコンビネーションに」
「どこまでついてこれるかな?」
ソラがソウタに斬りかかるがソウタはなんとかかわす。しかし、ソラの後ろからリクが現れ剣を降り下ろす。銃しか持っていないソウタに防ぐ手段はなく、地面を転がり回避する。それさえも予知していたソラは回避したところをすかさず攻撃する。
『この双子は強い!!隙のない完璧なコンビネーションでソウタ選手を追い詰めていく!!これはジリ貧か!?』
ついに攻撃を受けてしまうソウタ。その後も何度もリクとソラの剣を受ける。
『おや、ソウタ選手。斬られまくっているのに笑っているぞ!!これはソウタ選手はMだったということなのか!?それともまだ策はあるということなのか!?』
ソウタはこういう状況になることも充分理解していた。ソウタの考えていた戦略パターンの一つで相手がソウタに狙いをつけてきた時、鋼也が一人を奇襲して倒し、もう一人が怯んだ隙にソウタがゼロ距離射撃で倒す、というものだった。当然、鋼也にも伝えてあるのでほくそ笑んでいたのだ。
そして、その時はやって来た。
「うおりゃー!!」
「「「!?」」」
鋼也が襲ったのは一人ではなく全員だった。鋼也は上から双子とソウタの間に飛び出して槍での回転攻撃を繰り出した。リクとソラは鋼也とソウタの距離を考え広範囲攻撃をしたときの射程より外に避けたが予想外な事に鋼也はソウタの事を考えず槍を回した。その結果、三人ともダメージを喰らった。
「っ!!おい、作戦と違うじゃねーか!!」
ソウタは裏切り者を見るような目で鋼也を睨む。
「作戦…」
鋼也は首をかしげて考える。その様子を見たソウタは嫌な予感がした。
「コウヤ?まさか…おまえ…アレをする気か!?」
ソウタが言っているアレとは何かと言うと、
「作戦?何それ美味しいの?」
「だぁー!!やっぱりそれか!!こんなところでお約束守るなよ!!」
『何それ美味しいの?』は鋼也が惚ける時のお約束である。幼なじみであるソウタは幾度となくこの台詞で期待を裏切られてきたのだった。
『なんと!!助けようとして集団に飛び込んだもののその際の攻撃で味方にも攻撃が飛沫してしまうというアクシデント!!これでは本末転倒だぁ!!コウヤ選手、一体何を考えているのか!?』
「俺は別にソウタを助けようとした訳じゃないぜ。相手に確実に攻撃を与えるためにやったんだ」
「コウヤ、俺の事何だと思ってる?」
「手駒、相手の餌、他にもいろいろ言い方もあるがそんな感じじゃないの?」
「酷い!!」
「冗談だって、でも向こうは冗談じゃないみたいだ」
鋼也の後ろからリクとソラが走っていた。
「敵に背中向けて話してるなんて───」
「───油断し過ぎだよ」
リクとソラは左右に別れて鋼也を挟み撃ちにする。
「残像だぁ!!を使うまでもないな」
「「あっ!!」」
鋼也はリクとソラの軌道から少し後ろにずれて来た二人の背中を押してぶつける。
「終わりだな。」
槍を降り下ろしリクとソラを貫いた。
『勝者、コウヤ、ソウタペア。て言うかコウヤ選手だ!!たった一人で二人を倒した!!コウヤ選手の実力は計り知れない!!』
「おい、さっきのなんなんだよ!!俺の事殺す気か!?」
「ソンナコトナイヨ」
「何で片言なんだよ!!」
「まあ、冗談は置いといて。俺に何か言いたいなら俺ぐらい強くなってみろ」
「はぁ!?おまえ何様のつもりだよ!!」
「俺様。とりあえず、俺に合わせられれば認めてやるよ」
「だから何言ってんだよ!!」
「この程度で満足してたらこれからやってけないぞ」
「何があるってんだよ」
「まあ気にせず前だけ見て進め。そうすりゃなんとかなるさ」
「さらっと某サッカーアニメの台詞パクってんじゃねー!!それに全っ然格好良くないから!!」
「あ、格好付けてたのバレた?まあ、次からも俺に合わせてもらうから」
「あ、ああ。おまえがそこまで言うなら」
ソウタは少し納得がいかなかったが仕方なく鋼也について行くのだった。
◆
『優勝、コウヤ、ソウタペア。なんという番狂わせだ!!コウヤ選手、個人戦とタッグマッチ、両方初出場で初優勝という快挙を成し遂げた!!』
という訳でソウタが協力的だったおかげで見事何事もなく優勝したぜ。見たか、チート主人公の実力。俺強すぎる!!
「はぁ…俺は結局おまけか」
「ソウタ、そう落ち込むなって。ナイス援護だったよ。後でなんか奢るから元気出せよ」
「おう、サンキュー!!」
チョロいな、でも元気出してくれて良かった。ソウタは元気な方が似合ってるからな。
「コウヤくーん、私も続きますから待ってて下さいねー!!」
「そうや、ウチらも優勝してやるわ!!」
こっちも元気そうで良かった。有言実行しそうで怖いけど。俺の栄光はすぐ失われそうです。分かりたくないです。
この幸せがいつまで続くか分からないがやっぱり失いたくない。そんな事考えながら二人のところに向かうがレイコにバレないようにすぐ忘れることにした。
鋼也の思いに反するかのようにその時は刻一刻と近付いていたがまだその存在に気付く者はいなかった。