第27話 鋼也の本気(50%)
ガレンが魔物になった事で客席がざわつき悲鳴を上げている者もいる。
『な、なんと言う事だぁ!!学園一の実力の持ち主、
《断罪の黒騎士》のガレン選手。その正体はあろうことか魔物、それも魔物の上位種、魔人だったぁ!!これはどう言う事だぁ!!出来ればソウタさんに解説をしていたたぎたいのですが…』
『え!?いや流石に無理でしょ!?』
『ちっ…使えない』
マサミは聞こえないようにぼそっと言ったがマイクに声を拾われ大音量で聞こえる。
『これは予想外過ぎるって!!出来なくても誰も文句言えないよ!!』
ソウタは必至に弁解をする。しかし、その言葉に耳を傾ける者はいなかった。全員がガレン───元々ガレンだった魔物に釘付けになっていた。
「正体がばれてしまったなら仕方無い。任務を遂行する」
背中に生えた竜の翼で飛び立ちガレンが向かったのは武装している鋼也───ではなく客席の特別目立つ特等席に座っていた寿善治、学園長だった。
「ラスタ様の命により貴様を殺す」
ガレンが善治を剣で突き刺そうとした時、ガレンの剣は善治には届かなかった。善治の目の前の見えない壁によって阻まれていたのだ。
「『空間圧縮』じゃよ。儂を殺そうなんざ百年速いわ」
しかし、『空間圧縮』で作られた壁も割れ始めてしまう。ガレンが一気に押しきろうと力を入れた時、剣に下から強い衝撃が来た。
「うおりゃー!!」
先程ガレンの肩を削った相手───鋼也が下から槍でガレンの剣を弾く。ガレンは剣を弾かれ少し後退し、鋼也はその勢いでガレンと善治の間に善治を守るように割って入る。
「善治じいちゃん、全員連れてワープしてくれ。あいつは俺が殺る」
鋼也は振り返らずに善治に言った。
「今は学園長じゃ!!年寄りをこき使いおって。これは貸しじゃからな!!」
「生徒を守るのが学園長の仕事だろ?」
「相変わらず口だけは達者じゃな。おし、分かった。生徒の命引き受けた。『空間転移』」
善治がそう言うと闘技場全体に魔方陣が現れ鋼也とガレン以外の人間が姿を消した。
闘技場の外では、
『一体何が起きたんだぁ!!さっきまで闘技場にいた我々はいつの間にか闘技場の外に放り出されてしまったぁ!!』
「それならこの儂がやったんじゃよ。生徒に危険が及ばぬように特殊属性である〈空間〉の魔法を使い全員をワープさせたんじゃ。凄いじゃろ、マサミちゃん!!」
善治はいつの間にか笑顔で自分を指差してマサミに迫っていた。それに気付いたマサミは思わず後ずさる。
『学園長!!いつの間に!!』
「そんな事良いではないか。あ、ゆっくりお茶でもいかがか───」
「いい歳こいて女子学生をナンパしてんじゃねー!!」
善治がマサミを口説こうとしたところにソウタは鋭いツッコミを入れた。その隙にマサミはささっと距離を取った。善治はナンパが失敗してソウタを睨む。
「鋼也の仲間か。いつもいつも儂の青春を邪魔して、生意気にもため口で話しかけおって。お主ら三人揃って地獄に送って殺る」
「じいちゃんが青春言うな!!それに俺はともかく鋼也を殺るのは無理だと思うぞ。これで鋼也は魔人を倒し多くの人を救った救世主になるだろうし、そもそも殺すの無理だろうし、それにあの二人の息子を殺したらいくらじいちゃんでも危ないと思うぞ」
「ううむ…足元見よって…」
ソウタと善治は鋼也が勝つ前提で話している。二人供鋼也が負ける等一切考えてはいない。だからこそこんな話をしていられるのだが。
「ならば、お主だけでも!!」
善治は老人とは思えない程の脚力で飛び上がりソウタに襲いかかる。だが風人にも企みがあり、ニヤリと口元で笑う。
「きゃー!!ヤられる!!ショタコン学園長に僕の初めてがぁ~!!」
突然のソウタの叫びに自然に注目が行き、状況を理解した周りからの冷たい目が学園長に向けられる。中にはジト目でひそひそ話をしている者もいる。
「ご、誤解じゃ~!!儂は断じてショタコンじゃない!!儂は心の底から女の子を愛しているのじゃ!!」
弁解になっていない善治の必至の弁解も虚しく周りからは完全に変態扱いである。
『闘技場の様子は外のモニターからも見れるので実況を再会します』
マサミはそんなことを気にも止めず闘技場内に話を戻す。鋼也とガレンはお互いに睨み合う。
「おまえ、何でじいちゃんを殺そうとした?確かにじいちゃんは強いがわざわざ学園に生徒として潜入してまで殺す程の相手でもないだろ?」
「ラスタ様の命令だからだ。それ以上の理由は無い」
「ラスタ…か。あいつ、俺がいるって分かっててやったな。いつか殺さないとな」
「我に勝てる気でいるのか。人間風情が!!」
「んじゃ俺も本気の50%出す代わりにこれから話せなくなるけど良い?」
「何を言っている」
「おまえの上司から敵の情報ぐらい聞いとけってんだよ」
そう言って鋼也はいつも首に下げているネックレスを掴む。
「トライアングルフォース発動!!」
白銀の鎧に四角の星形の刃に持ち手の付いた白銀の剣、そして最も異質な剣と同じ形のパーツが連なる白銀の翼を纏った鋼也。その顔は普段のふざけている時の顔とは違う真剣な顔だった。ガレンを見ると鋼也は殺気を放ち睨む。
「それが貴様の本気か。受けて立つ」
「…」
ガレンの言葉には耳にも留めず翼で滑空しガレンに詰め寄る鋼也。ガレンを斬りつけるとガレンは剣で受ける。ガレンは魔物の姿になり攻撃力も向上しているのだが鋼也はそれをものともせず剣で押していく。ガレンはこのままでは追い込まれると思い、空に逃げる。それを見逃す訳もなく、鋼也も追いかける。
空中でもお構い無く剣撃が飛び交う。ガレンが鋼也を弾くと急上昇した。次の瞬間、鋼也の真上から3人のガレンが急降下し斬りかかって来た。咄嗟に剣で防御した鋼也。しかし、鋼也の剣は壊れてしまう。
「これで終わりだ」
三方向から迫るガレン。鋼也は何もしない。ガレンは鋼也を戦意喪失と見て少し油断しながらも確実に止めを刺しに行く。その油断が命取りとなる。
3人のガレンが鋼也のすぐ側に来た時、鋼也は剣や翼と同じ形のプレートが3つ三角錐のように合わさっている物に持ち手が付いた白銀の槍を手に持っていた。
「トライアングルフォース──ランス」
白銀の槍を横に構えて一回転。同時に3人のガレンを弾いた。
「なん…だと!?」
ガレンは狼狽えていた。自分の勝利を確信して油断していたのもあり、鋼也の思わぬ反撃に対応出来なかった。ガレンの動きが止まったのを利用して1人のガレンに向かい槍で貫いた。あっさりと槍が通り、ガレンは霧散した。3人のガレンの正体はガレンが造り出した分身だった。鋼也はそれを瞬時に見破り、対処した。
ガレンは気を引き閉め直し分身と鋼也に向かう。3人での連携も強力だったが2人でもその連携を惜しみ無く発揮している。時間差で剣を振るい鋼也を追い詰める。
しかし、鋼也は相手が2人でも3人でも引けをとらず向かい打つ。ガレンの剣を左手で受け止め剣を引き体勢を崩したところを槍で貫く。しかしまた霧散する。ガレンは最後の1人だけ───本体のみとなった。
「トライアングルフォース──アドバンス〈火〉」
鋼也はガレンに狙いを定めカードをスキャンする。すると鋼也の鎧、翼、槍が炎を纏う。不死鳥の如くその姿でガレンに突撃する。その姿に圧倒されガレンは動く事ができずもろに鋼也の突進を喰らい、体を貫かれ、燃やされ光の粒子になって消えていった。
「これがラスタ様が唯一認めた人間…最後に戦う事ができ、まことに、幸せ、であった…」
ガレンは消える直前にそんな事を言った。心を持たないはずの魔物が人間の中で過ごす事によって感情に近い物が生まれたのかもしれない。
「終わったー、つーかーれーたー」
トライアングルフォースの使用を解いた鋼也は今の雰囲気をぶち壊す緩い発言をした。いつも通り、これが鋼也にとって幸せだった。そんな幸せを噛み締めるようにゆっくりと外に出るのだった。
◆
お疲れさんした、天文字鋼也でーす。
もうこれで俺がチートだって分かったよね?俺つえー
あれでも50%だよ?最強じゃん!!ちなみに今の俺のウザさも50%しか出して無いよ。
まあふざけるのも体外にして今、俺がどんな状況なのかと言うと…
「コウヤくーん!!」
闘技場から出たらいきなり自分の視界が塞がれてビックリしていたら幸せな感触の形の良い双丘である事が分かり安心した。こんな事するのは1人しかいない。
「良かった…生きてて良かった…コウヤ君コウヤ君コウヤ君!!」
美空さんが少し泣きながらそして俺を抱き締めながら感激していた。
「当たり前やん!!この化け物は悪運強いから早々死なないって」
「コウヤが簡単に死んだら人類滅亡だからね」
レイコとソウタの皮肉も今は幸せに思える。あいつも幸せだって言ってたしハッピーエンドになったのかな?それは分からないけど唯一つ言える事がある。
今の俺、マジで幸せ!!
ちょっと泣ける展開にしてみました。これから感動的なシーンが余り無いと思います。ラストぐらいかなぁ