第20話 『魔法』講義 『実技』
レイコとスミレが一戦交えた日から数日経ったある日、綱也達は最近ではお馴染みになった豪華な朝食をとっていた。
「美空さん、今日は出掛けなくてはならないので、レイコ達と学園に行ってくれますか?」
綱也の言葉に美空は悲しげな顔をしたがしぶしぶ頷いた。綱也と一緒に行けないのは寂しいが綱也の頼みなので断りたくないという心の葛藤の結果だった。
「…何か用でもあるんですか?」
「はい、そろそろ稼ぎに行かないといけないので」
「それじゃあ仕方ないですね。今日もお弁当作ったので持って行って頑張って下さいね」
美空はそう言っていつものように綱也に抱きついた。しかし今日はいつもより長く抱きついていた。今日出来ない分をしておこう、美空はそう思っていた。綱也も美空の気持ちを理解してか止めようとしない。しかし、綱也の顔は苦しみに耐えているような顔ではなかった。
結局、約10分間美空は抱きついていた。
◆
こんにちはぁ~ 天法院美空ですぅ~
今私は短時間コウヤ君に抱きついた余韻によって少しとろっとしてますぅ~。
「すーはー」
深呼吸したのでもう大丈夫です。でもさっきの私、変でした?口にはだしていませんがコウヤ君にはだらしないので見せたく無いですね。…寧ろコウヤ君はだらしない女の子の方が好みかも。うーん…
結論、恋って難しい。女心は分からないって聞きますけど男心も充分分かりにくいです。
「ミソラ、何考えてんや。さっさと行くで」
「あ、ごめん、ごめん」
只今私はレイコと一緒に登校中です。別にレイコが嫌いって訳じゃ無いけど、コウヤ君がいないってだけでテンションが下がります。何とか頑張らないと。
「いーやんねー、想いの人がおって。ウチも恋したいなー」
「やっぱり私の心読んでるよね?」
「…気の所為や、そんな事できる訳無いやろ」
うーん、でも読まれてる気がする。
「…口に出とるんや、いい加減気付けや」
「え!?本当に」
「あ、ああ、仰山話してだて」
「やっちゃった…」
「ドンマイ…ところで、コウヤの何が分からんの?割と分かり易い方やと思うんやけど。」
思いきって聞いて見るべきですね。
「あの…コウヤ君のタイプの女の子ってどんな感じなの?」
「うーん、あいつのタイプね~どうなんやろ?全然分からん」
「え!?」
まさかレイコも知らないなんて…
「ウチかてコウヤの事全部知ってる訳じゃ無いで。いくら幼なじみって言っても好きな女子のタイプなんて知る訳無いやろ」
「それもそうですね。はぁ、どうしよう。攻めるにしてもせめて何が好きか分かればと思ってたんだけど。暗中模索で行くしかないですね」
「…そうでもないかもしれんよ」
「え…何か策が…やっぱりやめておきます」
「なんや、まだ何も言うとらんやろ」
「だってレイコの顔が怖いんだもん。絶対何か悪い事考えてるでしょ?」
黒い笑みってやつでしょうか?そんな感じの顔なんです。そんなレイコの策はいくら何でもしたくありません。聞きたくもありません。
「まあまあ一回聞いてや。聞くだけならタダやろ?」
「…で、どうすれば良いの?」
「ふふふ、ミソラはコウヤの裏の顔知っとるか?」
「裏の顔?コウヤ君は何か隠してるの?」
コウヤ君は裏表の無い人だと思ってたんですけど。
「コウヤはな、あいつは…」
思わず固唾を飲んでしまいました。
「結構なムッツリスケベなんや!!」
「へ?…むっ、ムッツリスケベ!?コウヤ君が!?」
「そうや、コウヤかて男や。それをとやかく言うつもりは無い。でもコウヤがムッツリスケベなら落とす方法はただ1つ、ハニートラップや」
「やっぱり聞かない方が良かった」
「でもこんな事でコウヤの事嫌いにはなってないやろ?そう思って教えてやったんよ」
「まあ、しょうがないとは思うよ。でも出来れば聞きたくなかった」
「それでも確かな情報やで。コウヤは今まで一人暮らしやったからな。ストッパーがなかったんや」
「で、でも…ハニートラップとかやった事無いし、そんなに魅力的な体じゃ無いし…出来るかな?」
「何言うとんねん、こんな立派な物持ってんのに。」モミモミ
「ひゃぁ!!やっ、やめてよレイコ!!」
レイコは大胆にも私の胸を揉んできました。初めてはコウヤ君に…やめましょう。これ以上はね。
そんな会話をしていると学園に到着しました。今日は魔法の実技の講義です。
◆
「今日は魔法の弾で的当てをします。カードは杖と各基本属性の魔法カードを用意しているので好きな属性を選んで練習して下さい。最後に3回テストをします。中心から50、40、30、20、10ptで3回の合計をランキングにして1位の人には賞品がありますので頑張って下さい。」
「レイコは〈土〉属性にするの?」
「ああ、ウチは得意属性が〈土〉しか無いからな。ミソラはどうするん?」
「私はどれにしよう…」
「本当、あんたは才能があってええな。3属性使いやしな。でも見やすいのは〈水〉属性やからそうしたらどうや?」
「そうなんだ…じゃあそうしよう」
美空は普通の杖と〈水〉属性の『ウォーターボール』をとってカードスキャナーにかざした。すると美空の手が光り出し、普通の杖が現れた。そんな事も日常になってしまったので、もう美空は驚かない。
「1位目指して頑張ろう!!」
「おうー!!」
そして仲の良い二人の光景も周りの人にとっては日常になっていた。
「レイコ、見本見せてよ」
「しょうがないな。見とれ、『アースボール』」
レイコの普通の杖から土の塊―――『アースボール』が的に向かって真っ直ぐ飛んで行く。『アースボール』は30ptに当たった。
「まっ、こんなもんや」
「じゃあ私も、『ウォーターボール』」
美空の『ウォーターボール』は飛んで行ったが途中で弾けてしまった。
「もっと集中して魔法の形を保たないと的にも当たらんよ」
「分かったわ。じゃあもう一度『ウォーターボール』」
今度は的の20ptに当たった。
「後は命中率を上げるだけやな。頑張りたまえ、ミソラ君。」
ミソラに自分より的当ての才能が無いのが分かりレイコは調子にのって師匠面をしていた。
「負けた…ウチが負けた…」
なんとと言うかやっぱりと言うか優勝したのは美空だった。それも美空は3回中3回とも50ptに当てた。ちなみに、レイコは40、40、30で2位だった。いつもは的当てなら1位をとっていた(実力者は的当ての講義にはあまり出ない)のでダメージが大きかった。
「優勝は美空さんです。今日の賞品は『魔法水晶〈土〉』、〈土〉属性の魔法の効果が上がるアイテムで武器に融合する事が出来ます」
「嘘や、嘘や、嘘やぁぁぁぁ~!!」
レイコはそう叫びながら教室を出て行った。
「うぅ…何で…何でこんな時に限って…」ぐすん
レイコは一人階段に座って泣いていた。『魔法水晶〈土〉』はレイコが喉から手が出る程欲しい物だった。しかし、的当てではなかなか出てこないレアアイテムだった。かといって他の講義では優勝出来そうになかった。やっと訪れたチャンスだったが新入りの、それも友達に負けてしまった。悔し泣きである。
「…レイコ?」
聞き慣れた声、今とても恨むべき声が聞こえた。レイコは振り返らず言った。
「どうせウチの事馬鹿にしに来たんやろ?あんな上から目線で言ってたら当然やからな。笑いたいだけ笑えや」
レイコは自棄になりながら言った。それでも美空はレイコの手を掴んで魔法水晶を持たせて、目をしっかり見て言った。
「レイコ、これ貰ってくれる?」
「…下手な同情ならいらんで」
レイコは地面に目を反らし泣くのを堪えて少し枯れた声で言った。
「レイコがどれだけ欲しかったのか先生や皆から聞いたの…」
「ふん、どうせウチなんか努力しない弱い人間ですよー」
必至になって強かって、美空を遠ざけようとする。また、時間が開けば、人間関係は元に戻るか跡形も無くなることを知っていたから。しかし、
「ごめんね…レイコ」
「…」
思いも寄らぬ言葉に驚き、レイコが見上げると美空は泣いていた。
「今までずっと今日のために頑張って来たのに…私何の努力もしないで…レイコの気持ち、踏みにじるような事しちゃって…知らなかったで済む事じゃ無いけど、それでも謝りたかったの」
「でも、ミソラは努力してちゃんと勝ちとったやろ?それなのに…」
「ううん、私MPが高いでしょ?それで『ウォーターボール』が的と同じぐらい大きくなって大体50ptに当たって…」
「そうやったんや…それでも美空の実力で勝ちとったんやろ?」
「ううん、私だけだったら当たらなかった、レイコのおかげなんだよ。だから、お礼をさせて」
「ミソラ…ありがとうぉ~」
美空の気持ちに棘の付いたレイコの心が綺麗に透き通っていった。
「こっちこそありがとう。レイコ師匠。」
ちょっとした皮肉なのにレイコは何とも思わない。それほどまでに美空の不思議な力―――筋肉やMPでは無い何か―――に見惚れてしまっていた。
こうして、美空とレイコの絆はより深い物になっていった。これが最強女子タッグ誕生の瞬間だった。
「…まだ講義終わってないんだけど。」
なんてどこかの教師が呟いた事は二人は知るよしもない。
友情って美しいですね。あまり上手に書けてないかもしれませんが、自分はそう思います。