side01 焔剣士シグルド
《状態を確認しますか? はい/いいえ》
突如空間に表示された文字。
俺は何も言わずに右手の人差し指で一度だけ『はい』をタップする。
NAME シグルド JOB 焔剣士
LV 214 HP 10265/10265 SP 9850/9850 『炎剣LV155』『剣LV127』『獄焔LV85』『スラッシュLV70』『ラインブレイドLV64』『炎撃一閃LV25』『炎焔龍フレイジブレイア召喚LV10』
空間に表示されたステータスを確認し、俺は立ち上がった。
イベント『聖者と悪魔の推理戦』の報酬はすでに手に入れた。
同行者を装い参加したものの、他の参加者はこれっぽっちも俺を疑わなかった。
最初から奴らを騙して報酬を独り占めするつもりだった、この俺を――。
ログアウト不能状態からすでに1週間が経過していた。
未だに運営から連絡は来ない。
『グルルルゥ……』
低い唸り声が聞こえ振り返ると、そこには一匹の巨大なモンスターがいた。
俺はため息を吐き、空間をタップし、対象を解析する。
【銀輝獣ギガスフィンクス】
HP 216542/216542
SP 136520/136520
『威嚇』『俊足』『牙撃』『尻尾攻撃』『咆哮』『光魔法無効』『通常魔法効果半減』
解析結果を表示させたまま、俺は先ほど奴らを騙して手に入れたばかりの報酬を取り出す。
この長い刀であれば、この化物を斬るのに適しているだろう。
『備前闌』――。
読みかなは『びぜんたけなわ』、だったように記憶している。
刀を抜き、その刀身の美しさに目を奪われる。
まるで炎のように揺らめいている刃文――。
これは俺が持つにふさわしい名刀と言えるだろう。
『ガアアアァァァァ!』
口を大きく開いた化け物が俺を目がけて突進してきた。
俺と奴のHP差は約20倍。
しかし、先ほどイベントで倒したラスボスは500倍はあったか。
「………………『炎剣』」
俺が呟くのと同時に備前闌の刀身に炎が舞った。
奴の補助スキル『威嚇』は俺には通用しない。
厄介なのは『咆哮』なのだが、心の無い、数字の羅列が具現化したモンスターにはそれが分かるはずもない。
――これは『ゲームの中』なのだ。
ただし、これまでとは違った『ゲーム』ではあるのだが――。
炎の刀がゆっくりと、敵に合わせて動いていく。
すでに攻撃モーションは発動している。
あとは細かい補正を気にしながら、振り抜くのみ。
ヒュン――。
化け物の攻撃をかわし、炎の刀が奴の身体をすり抜けた。
肉を切り、肉を焼くという感覚ではない。
0と1の数字が結合を緩め、分解していくと言えば良いのだろうか。
『グオオオオオォォォン………………!!』
偽物の血液が奴の傷口から噴き出す。
その傷から炎が舞い上がり、焼かれながら真っ二つになったモンスター。
少し遅れてポップアップされる表示。
『254265』と見えた気がするが、考えるまでもなくオーバーキルだ。
やはりこの『備前闌』は焔剣士と相性が良さそうだ。
以前に使用していた愛剣は合成士にでも売って、他の装備の資金に充てるとしよう。
刀を鞘に納め、俺はモンスターの亡骸に近づく。
すでに消滅したモンスターのあとには『亡骸』という名の素材が落ちているだけだ。
これも解剖士に売ればかなりの金額になるだろう。
俺はそのまま亡骸を拾い上げ、その場を後にした。




