19 わたし、やっちまいました!
大丈夫。
焦らなくても大丈夫。
落ち着け、わたし。
でも……でもね!
ブーメランとかさ、ロマンじゃん!
いやマジで楽しみ!
こうズババーンって敵を一掃できるんでしょう?
嗚呼……!
快感がわたしを待っている……!
というわけでマッハで浜辺に到着しました。
まあ検証は一回だけにしておこう。
武器って『耐久力』があるからね。
せっかく強い武器を手に入れたのに、無駄に消費させたらもったいないし。
あ、でも『耐久力』があるんだったら、それを修復できるジョブだってきっとあるよね。
あとで探してみようか。
で、モンスターはどこかなー。
できればたくさん集まってるやつがいいんだけど……。
お! さっそく発見!
あそこにめっちゃ蟹の軍団がいる!
奴らで試してみよう!
ええと、もう一度おさらいすると……。
『ブーメラン』の特徴は『遠距離攻撃』と『まとめて攻撃』って書いてあったよね。
遠距離攻撃ってどうやるんだろう。
今まではモンスターと接触するか、釣ったり捕まえたりしたあとに戦闘シーンに移行してたんだけど……。
とりあえずここから投げてみてもいいのかな。
……。
なんか、緊張してきた……。
え? もしもこの距離で相手に攻撃が当たったら凄くない?
だってあのBGMが流れて戦闘シーンが始まってないんだよ?
それって無敵じゃない?
敵の攻撃範囲外から一方的に攻撃できるってことじゃん。
……。
あれ、もしかして裏技発見しちゃった?
ミルクちゃん、天才?
と、とにかく検証してみよう。
まあ攻撃が当たらなかったら、ちゃんと接触してからもう一度戦えばいいだけなんだし。
ええと、いちおう数だけは確認しておこう。
……えい。
『蟹っぽいなにか』『小さな蟹』『狂暴そうな蟹』『蟹』『良い出汁のでそうな蟹』『蟹』『大きめの蟹』
うん。7匹だね。
じゃあ……いくよ?
木のブーメランを構えて――。
――えいっ!
《ミルクのブーメラン攻撃! 遠距離からモンスターの集団に目がけて空を切った!》
おおおお!
ちゃんと発動した!
いっけえええええええええええええええ!!
《蟹っぽいなにかに42のダメージ! 蟹っぽいなにかは消滅した!》
《小さな蟹に51のダメージ! 小さな蟹は消滅した!》
《狂暴そうな蟹に36のダメージ! 狂暴そうな蟹は消滅した!》
《蟹に62のダメージ! 蟹は消滅した!》
《良い出汁のでそうな蟹に35のダメージ! 良い出汁がでそうな蟹は消滅した!》
《蟹に64のダメージ! 蟹は消滅した!》
《大きめの蟹に54のダメージ! 大きめの蟹は消滅した!》
キターーーーーーーーー!!!
一瞬で全部倒したあああああああああ!!
すげぇ……!
これマジで強い……!!
もうわたしに怖いものなんてない……!!
《ミルクは『狩猟士』がLV3に上昇した》
《『ブーメラン』がLV3に上昇した》
《蟹っぽいなにかの亡骸を手に入れた》
《小さな蟹の亡骸を手に入れた》
《狂暴そうな蟹の亡骸を手に入れた》
《蟹の亡骸を手に入れた》
《良い出汁のでそうな蟹の亡骸を手に入れた》
《蟹の亡骸を手に入れた》
《大きめの蟹の亡骸を手に入れた》
一気にレベルが上がったし!
一気に釣り餌も手に入れたし!
文句なし!
強すぎ!!
……あ。
ブーメランが戻ってきたね。
まあ、当然だよね。
だってブーメランだもん。
……。
…………。
え? てことは、あれをキャッチしないといけないんだよね。
ま、まあ当然だよね。
だってブーメランだもん。
……。
ええと、めっちゃ大きく弧を描いてこっちに戻ってくるね。
ブヒュンブヒュンいってるね。
……うん。
……あれ掴んだら手が真っ二つになるんじゃない?
ていうか、どこを掴めばいいの?
……うん。
……逃げる!!
《ミルクはブーメランを避けた!》
あっぶ……!
いま前髪がちょっとだけ切れた……!
でも、別にキャッチできなくたって構わない――。
《木のブーメランは消滅しました》
――えっ。
……。
…………。
……………………。
ええええええええええええええええええええええ!?!?
ちょ……ちょ……ちょ!?!?
えええええええええええええええええええええええ!?!?
……。
…………。
…………マジか…………。
…………マジかああああああああああああああああああああ!!!
あれか!
確か初日に『いい感じの棒』を投げ捨てたときに消滅しちゃた、あれか!!
え? キャッチできないと消滅しちゃうの?
うそーん!
え? せっかく手に入れた超強い武器だったのに……!!
うわ、やっちまった……!
耐久力が0になった武器みたいに、破片すら出現しないし……!
完全に消滅しちゃった……。
これって『投げ捨てる』と『投げる』が同じ意味になるってことか。
2回目も間違えて投げ捨てちゃいそうになった棒を上手くキャッチしたら消滅しなかったよね。
うわ、なにこの仕様……。
せっかくブーメランスキルが上がったのに、ブーメランを投げ捨ててしまうなんて……。
……。
…………はぁ。
ちょっと、立ち直るまで昼寝してこよう……。
大きく肩を落としたわたしは、トボトボと洞窟に戻っていったのでした。




