11 小石さん…あなたに恨みはないの!
よーし。
ジョブレベルを上げるぞー。
でもその前に今までの経験を生かして事前準備をしないと駄目だよね。
今、わたしのジョブは『新米水術士』です。
まあいわゆる魔法職ってやつ?
てことは、今までの経験からいうと、物理攻撃に特化した装備品とかは使えないはずなんだよね。
まあ、試してみますか。
ええと、こんなこともあろうかと、昨日装備してた棒を持ってきてるんだよね。
んじゃま、これを持ってと。
《鋭く尖った固くて長い棒を装備しました》
たぶんこれが今までにわたしが見つけた中で一番攻撃力が高そうな武器なのですよ。
でもこれを使うには『突き』のスキルがないと駄目だってことはこれまでの検証で明らかになってるから……。
とりあえず、その辺に転がってる貝殻とかに突き刺してみますか。
ていうか、戦闘シーンになってなくても物とか攻撃できるのかな……。
《ミルクの攻撃!》
あ、できるっぽい。
オレンジのバーは出現していないけど、棒を突き出した瞬間に表示が出てきた。
《なんの変哲もない貝殻にダメージを与えられない!》
あー、やっぱね。
じゃあ検証ついでにノーマルミルクちゃんに変更してみて、と。
《ジョブを解除しますか(※現在は『新米水術士』です) はい/いいえ》
はーい。
解除しまーす。
《ジョブを解除しました》
で、同じようにさっきの貝殻に攻撃してみると……。
《ミルクの突き攻撃! なんの変哲もない貝殻に4のダメージ! なんの変哲もない貝殻は消滅した!》
はいはいー。
予想通りの結果になりましたー。
ノーマルミルクちゃんだと『突き』のスキルが使えるから、棒を装備して攻撃ができましたー。
《ミルクは『突き』がLV4に上昇した》
《なんの変哲もない貝殻の破片を手に入れた》
お?
ついでにスキルレベルも上がっちゃった。
てことは、別にモンスターと戦闘しなくてもレベルはあがるっぽい……?
これは大発見じゃね?
ちょっと片っ端からこのへんに転がってる貝殻を壊してみっか。
☆★☆
~30分後~
延々と貝殻を棒でぶっ刺していきましたー。
全部で15個くらい壊したよ!
で、結果がこの通り。
NAME ミルク
LV 3 HP 12/12 SP 6/6 『蹴りLV3』『釣りLV2』『突きLV6』
『突き』のレベルが6まで上がったけど、わたしのレベルはまったく上がらず。
たぶんだけど、このままやり続けてもスキルレベルしか上がらないっぽい。
やっぱちゃんとモンスターと戦闘して倒さないと、わたしのレベルは上がらないのか……。
まあいいや。
戦闘しなくてもスキルレベルだけは上昇するんなら、訓練する意味はあるよね。
じゃあ、最初の目的に戻って、と。
あ、その前にメモメモ。
ええと、次が⑤だったかな……。
⑤モンスターと戦闘をしなくても、スキルレベルを上げることが可能(例:浜辺の貝殻を『突き』で攻撃など)
よーし。
じゃあジョブをまた新米水術士に戻してっと。
《ジョブチェンジをしますか はい/いいえ》
《ジョブを選択してください》
《ミルクは新米水術士にジョブチェンジした!》
はーい。
で、棒は使えないのは分かったから……あとはなんだろう。
魔法職でも使えそうな武器とか、この辺に落ちてるのかな……。
予想だと『杖』とかだったらいけるんじゃないかと思うんだけど。
……。
『棒』と『杖』ってなにが違うの?
……。
…………あ。
もしかして……。
うん。試してみる価値はあるかも。
じゃあ再び、我が家と化した洞窟へGO!
☆★☆
ええと、確かこの辺に落ちてたような……。
『棒』『棒』『すごい棒』『長い棒』『棒』『短い棒』『自己主張している棒』『棒』『棒』『よく燃えそうな棒』
うー。
こういうときに限って見つからない……。
『棒といえば棒』『棒』『短い棒』『変な形の棒』『棒っぽいなにか』
あった!
そう、これこれ!
『棒っぽいなにか』!
《棒っぽいなにかを装備しました》
《鋭く尖った固くて長い棒を置きました》
うん、うんうん……!
このなんとも言えない不安感を増長させるような持ち心地……!
棒なのか、棒じゃないのか、はっきりしない中途半端な装備品……!
これなら『杖』として魔法職でも使えるんじゃないかな!
このあやふやな表記を逆手に取ろうというわたし、策士!
んじゃまあ、この洞窟の中に転がっている物を相手に試してみっかぁ。
うーん。
お、あの小石とかどうかな。
いざ、尋常に、勝負!
《ミルクの攻撃! 小石さんに1のダメージ!》
おお!
攻撃できた!
てことは、ちゃんと武器として装備できてるってことだよね!
……まあ、ダメージは1しか与えられていないけど、魔法職だし仕方ないか。
ていうか小石さん……。
まあいいや。
《ミルクの攻撃! 小石さんに1のダメージ!》
《ミルクの攻撃! 小石さんに1のダメージ!》
《ミルクの攻撃! 小石さんに1のダメージ!》
《ミルクの攻撃! 小石さんに1のダメージ!》
《小石さんは消滅した!》
おー、小石さん消滅したー。
なんかちょっとだけ罪悪感が沸いたけど、寝たらすぐに忘れそうだしいいや。
《ミルクは『叩き』がLV2に上昇した》
《小石さんの破片を手に入れた》
おおおお!
さっそく新しいスキルを手に入れたぜ!
ということは、ノーマルミルクちゃんでも『叩き』を覚えたってことだね!
いちおうステータスを確認しまーす。
《状態を確認しますか? はい/いいえ》
ちょ、ちょっとだけなら……いいよ?
NAME ミルク JOB 新米水術士
LV 1 HP 4/4 SP 8/8 『湧水LV1』『叩きLV2』
うん。予想通りだね。
これで『叩き』のレベルをある程度上げていけば、武器が弱くたってモンスターにそれなりのダメージを与えられるでしょう。
そうすればジョブレベルを上げつつ、『湧水』のスキルレベルも上げるチャンスもある、と。
『湧水』は人差し指から水がチョロチョローって出るだけのスキルだから、物も壊せないしモンスターも倒せないけど、戦闘中で余裕があるときにでも使えば、モンスターを倒したときに得られる『スキル使用経験値』? みたいなものでいずれレベルアップができる予想なのです(あくまで予想)。
つまりこれは『コバンザメ戦法』!
……なにがコバンザメなのか自分でもさっぱり分からないけれど!
でも大丈夫!
きっと上手くいくはず!
というわけで、わたしはこれから1時間くらいかけて延々と小石を叩き続ける悪魔になりました。




