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僅かな時間ではあるが、俺は確実に高梨親子に振り回されていた。縁、契約、下僕。
この二日で築かれた関係性だ。高梨さんはどこまでも自由で掴めなくて。俺の人生の中で一番掴み所がない人かもしれない。
そんな彼女を迎えにきた女性は絶対母親だろう。容姿がそっくりだった。
しかし、高梨さんにはない恐ろしさも秘めていた。高梨さんは恐らく無意識だが震えていた。おそらく逆らえなかったのだろう。
俺が救う?
一瞬だがヒーローになる案が俺の中に生まれた。高梨さんは喜んでくれるだろうか。アルバイトの下僕の俺。関係性は二日しかない俺。
もし、彼女が喜んでくれたなら……。
心臓がドクンと鼓動した。俺は高梨さんを意識している。多分これが恋の始まりだろう。助けたら高梨さんは俺の事……好き。好きになってくれるだろうか。
ドクン。再び鼓動が跳び跳ねた。助けなかったら高梨さんはどうなる? あんなに怯えていたのに。好きな人一人守れず男は廃らないだろうか。
「よし!」
腹をくくるのは簡単なことだった。好きな人を守る。そう考えれば話は簡単なこと。二人が消えたクローゼットの中に飛び込めばいいのだ。
しかし、しかしである。あのクローゼットの中はあんまり気持ちのよいものではなかった。そもそも、高梨さん抜きで行きたい場所に行けるのだろうか。もし、高梨さんと違う場所にいってしまったら。不安は心に降り積もっていく。成功することより失敗を思うと足が重くなる。心の天秤は大きく揺れていた。