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翌日。俺は高梨さんの仕事部屋に朝食を作りに訪れた。合鍵を使いキッチンへと赴き朝食の支度を整える。高梨さんは仕事部屋と言いながら、彼女はいつもここで寝泊まりしていた。寝起きの服装はパジャマを着ているし……。本当にここは、家じゃないのだろうか。
疑問はそれだけではない。一緒にいればいるほど、ふつふつと沸いてくる。例えば、鍋の中に入る変な液体。高梨さんは薬と言っているが、本当ならば、捨ててやりたい。紫色だし、トロミがあるし。試しに舐めたところ、舌に電気が通った。
絶対に腐れている。しかし、そんなこと言い出す勇気すら俺は持ち合わせていなかった。だから、フライパンでできる朝食メニューを模索しつつ、昨日のその後を簡単に話した。
「へぇ~。そんなことがあったの」
「あぁ。なんか凄く面倒くさかった」
「そう。それは大変だったわね」
本当は天野さんとの遣り取りは秘密にしておくつもりでいた。高梨さんは仕事場で恋愛相談? を散々聞いていたわけだし、勝手に引き継いだのは俺だから。
彼女はおそらく、キッチンの自分の席に腰を下ろすと、足を組み、考えにふけったようなポーズをしているはず。少しずつではあるが、高梨さんという女性がどんな人かわかってきた。その証拠に、背中越しではあるが、彼女の視線が俺の背中からそれた気がした。こんな時の彼女は考え事をしている時。
朝食の支度をしつつ後ろを振り返ると、予想通り高梨さんは思いふけった顔をしていた。
「彼女。きっと告白するわね」
「そうなんだ……」
「でも、自分の本当の気持ちを実感するわ」
高梨さんの言葉は本当になる。人の行動パターンを先読みしているというか。未来の出来事がわかっているようなセリフを時々吐く。だから俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
「それから、青木君。ご飯おかわり!」
「いきなりですか?」
「うん。だって今だって仕事しているわけだし」
「仕事?」
「青木君? 今の相談代。対価につけておくからよろしく!」
「そっちかよ!」
こんなの理不尽だ。高梨さんの言葉が外れてしまえばいい。人間誰しも間違いはある。高梨さんだって時々予想は外すはず。でも、なぜだか憎めない。
「青木君! 早くしないいと遅刻する」
「はいはいはいはい。わかりましたすぐ動きます」
この日も、俺は高梨さんの尻に敷かれ一日がスタートを切り始めた。