恋愛
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彼女のお陰で、なんと二日連続遅刻からまのがれることができた。それに仲直りも。俺としたら大満足といえる。しかし、彼女は何者なんだ。人に優しくしたりイタズラしたり。
イタズラする時の顔なんて顔なんて子どもそのもの。腹黒い子猫と表現したものか。彼女のペースに完全に俺は振り回されていた。
(どうしたものか……)
結局のところ、俺は高梨さんの手伝いを半ば強制的にさせられることになる。嬉しいような、面倒くさいような不思議な感じ。でも、嫌とは思わなかった。
これが、恋なのだろうか。それとも、別の何か? 頭の中がぐちゃぐちゃと混乱してしまう。
(とりあえず、いかないとまた何か言われるよなぁ……)
放課後俺は、高梨さんの仕事場へと向かった。足取りは極めて重く、そしてだらだらと歩く。途中美味しいと評判のスイーツショップで買い物をしてきてほしいと頼まれていたのを思いだし、買わなければ確実に嫌味の一つや二つ口ずさむに違いない。仕方なく俺は、彼女の指定する店へと赴いた。
「いらっしゃいませ。ご注文がお決まりになりましたらお声かけください」
(マジ? ……ですか?)
店内は女性だらけ。男は俺一人。珍し気に見られ何とも居心地が悪い。しかし、頼まれたスイーツを買わなければ目的地に行く勇気が湧くはずもなく、恥ずかしさがこみ上げてくるのを我慢して目的のものを注文する。
(くそぉ~。やっぱりバイトなんて引き受けなければよかった……)
俺は、何度目かの後悔に涙が滲み出た。
ーー
「お邪魔します。頼まれていたもの買ってきました」
「あら? 予想以上に早かったわね」
「おかげさまで!」
彼女は仕事部屋のソファーに座り、皮肉交じりの言葉を吐いた。相変らずムカムカする。が、皮肉の込め方がなんというか。流せる感じ。そして、ソファーには同じ学年の(名前は知らない)控えめな女子生徒が申訳なさそうにちょこんと腰かけていた。ショートボブで明るめの茶髪に褐色の瞳。僅かに染まる頬に、そわそわと動く体。
何だか相談の内容が一目瞭然が嫌な予感を醸し出す。
「あの……。高梨さんが相談にのってくれるって聞いたので……。あの。あっあの。私……。天野涼香と言います。初対面ですがお話を聞いてくれますか?」
「いいわよ。貴女の話。伺いましょう」
「ありがとうございます」
涼香は嬉しそうにほほ笑むと、ぺこりとお辞儀をした。
「……でも、その前に。青木君! お茶とスイーツ頂こうかしら?」
突然、俺に話を振る高梨さん。『突然かよ!』っとツッコミを入れたくなった。スイーツは丁度三つ。彼女に注文されたから買いに行った。あれ? 高梨さんどうして三つ注文してくるように俺に頼んだのだろう。最初から天野さんが来ることを知っていた? 疑問に思えば思うほど高梨さんという女性がわからなくなっていく。
「青木君? 高梨さんと付き合っているの?」
名前を呼ばれ、天野さんの方をみた。そういえば、彼女は去年同じクラスメイトだった。友達といる事は少なく、いつも大人しく控えめな子。そして、放課後サッカー部の部活の誰かを見て頬を染めていた。思い出に浸ってりると天野さんは高梨さんにとんでもないことを口にした。
「はっ! 誰がこんな……」
「違うわ。青木君はあたしの下僕よ。あたしはアルバイトみたいなものだから」
「はい!?」
「何? 貴方は承諾したはずよ。それに、貴男はあたしの立場を聞いていない」
煮えたがるムカムカと言葉がでない自分。両方に怒りを覚えた。と同時に、高梨さんの言葉に絶句した。彼女がバイトということは仕事でいうと一番身分が低い。そんな彼女のしたの俺は下僕? おいおいおいおい。ちょっと待て。話が見えてこない。こんな仕事場をもっているやつがアルバイト? 社長かなんかの間違いだろ。仕事場ならば他の社員だっているはず。それなのに、見た人間は彼女のみ。わけのわからなさは相変わらず変わらない。でも、少しずつ高梨さんという人間を理解していきたい。と思う。
「それで、相談って何かしら?」
今度は高梨さんは天野さんに話をふった。すると、彼女は恥ずかしそうに体をもじもじと動かし始める。
「あの……。あたし去年からサッカー部のキャプテン。相川楓君のことが気になっていて……」
「そう」
「どうしたら、思いを伝えられるかと思っているんだけど」
「伝えたら、どうしたい?」
「えっ……」
天野さんはそこまで言って言葉を詰まらせた。
高梨さんは何を言っているんだろう。相手に想いを伝え相思相愛だったとしたら付き合いたいに決まっている。こんな場面は少女漫画にはなく、大概が男の方から告白するなり、それ相応の言葉や仕草で付き合うというのがベターな展開で一番萌えるところ。
「あたしは、気持ちを伝えたいんです!!」
天野さんは決断したかのように高梨さんに言葉を放つ。そして、高梨さんも面白そうににやりと口の端を微笑んでみせた。嫌な予感が俺の頭を横切っていく。
「わかったわ。貴女の依頼引き受けましょう」